なぜ「おんせん県」はNGで、「うどん県」はOKなのか? 「商標登録」のフシギ

2013年6月12日(水)16:02
別府や湯布院など有名な温泉地を抱える大分県。「日本一のおんせん県おおいた」をキャッチフレーズに観光PRを展開している。その思いが募って、昨年10月には「おんせん県」の商標登録を申請した。
大分県が参考にしたのは香川県。「うどん県」の商標登録は全国的に喧伝され、それ自体が県のPRに一役かった。しかし、大分の願いはかなわず、商標登録はできないとする「拒絶理由通知」が5月10日付で、特許庁から大分県に送られた。
それにしても、「うどん県」は商標として認められたのに、なぜ「おんせん県」はNGだったのか。また、大分県は引き続き「おんせん県」の名称を使っていくとのことだが、それは問題ないのか。商標権に詳しい岩永利彦弁護士に聞いた。
●「うどん県」はOKで、「おんせん県」はNGの理由は?
なぜ、「おんせん県」は認められないのか――。この素朴な疑問に対して、岩永弁護士は、「拒絶理由通知に記された『商標法3条1項各号』がポイントになります」と話す。
「この条文は、『特別顕著性』だとか『識別性』とか呼ばれています。ちょっと難しい用語ですが、たとえば、パソコンメーカーが「パソコン(株)」だとか、歯医者が奇をてらって「あ歯科」とかつけて、商標登録を出願した場合を想像してみてください。
商標とはそもそも、自分の商売と他人の商売とを『区別』するための『識別標識』ですので、このような商標だと、普通は誰の商売か区別することができません。ですので、法律でこのような商標を登録できないとしたのです」
また、大分県のサイトによると、拒絶理由通知には、「温泉を多く有している県を紹介する言葉として既に広く使用されていること」「『多数の温泉を有する県』という意味合いしかないと判断されること」が、拒絶された理由として記されていたという。
「つまり、『おんせん県』と聞いて、大分県のことを思い浮かべることが難しく、他の都道府県と区別できないというのが最大の理由でしょう」
では、なぜ香川県の「うどん県」は商標登録が認められたのだろうか。岩永弁護士は「『うどん県』は、すぐに香川県との連想がつくのではないでしょうか」と答える。
「実は、商標登録できるかできないかは、このような現実の状況に大きく依存するのです。たとえば、先シーズン、青森の酸ケ湯で国内史上最高の積雪が記録されました。だからと言って、青森県が『大雪県』と出願しても、やはり認められないと思います」
●大分県は「おんせん県」を使っても問題ないか?
「おんせん県」の商標登録を出願した大分県だが、拒絶理由通知を受け取ることになった。このあとの流れはどうなるのだろうか。
「通常、拒絶理由通知が送られた日から40日以内に、拒絶理由を回避するための意見書・補正書を提出するのですが、報道によると、大分県知事はそれをあきらめたとのことです。
したがって、このままいくと、この商標登録出願は拒絶査定がされ、拒絶が確定することになります。つまり、『おんせん県』は権利化できないということになります」
一方で、大分県は、今後も観光PRに「おんせん県」を使い続けるとしている。そちらには問題はないのだろうか。
「今回のケースでは、単に特許庁への登録が認められなかっただけですので、今までどおり使い続けられます。もちろん登録が認められない理由として、先行の権利があったために認められない場合もありますが、今回はそのような理由はありません」
このように説明した上で、岩永弁護士は次のように、「おんせん県」登録の可能性を探る。
「ところで、商標は特許と違って、再チャレンジができます。上記のように、現時点では『おんせん県』と聞いて、誰しも大分県を連想する状況にはなかったと思うのですが、大分県が積極的に『おんせん県』を使い続ければ、何年かのちに、『おんせん県』と言えば大分県しかない、というような状況も考えられるでしょう。そのときは、商標登録が可能になるかもしれません」
商標登録のチャレンジに失敗した大分県だが、「おんせん県」という言葉は強く印象づけられたかもしれない。やがて、「『おんせん県』と言えば、大分県」という日がやって来る!?
(弁護士ドットコム トピックス編集部)

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