なぜ「既婚者と知らずに不倫してしまう」女性は28歳が多いか

■「知らずに不倫」増加の背景

私の事務所を訪れる相談者には、若い女性も多く、中でもちかごろ急増しているのが、「独身だと思ってつきあっていた相手が実は既婚者だったんです」という相談。

なぜ彼女たちは相手を独身だと思い込んでしまうのでしょうか。先方に家庭があることくらい、つきあう前にわかりそうなものです。

実はこのようなケースが増加している背景には、マッチングアプリや婚活サイトなどの普及があります。このようなサービスの中には、本名や勤務先を明かさずに利用できるものもありますから、これらを通じて男性と知り合った女性は、男性の自己申告を鵜呑みにするしかありません。ですから男性が「ぼくは独身だよ」といえば、女性はほとんどの場合、それを信じて交際を始めてしまう。

その結果、つきあいだしてから既婚者であることが発覚したり、「実は結婚しているんだ」と告白されたりする。不倫をするつもりはなかったのに、気づけば知らないうちに不倫の片棒を担いでしまっているわけですから、いわば「知らずに不倫」といえます。

■知っておきたい慰謝料請求リスクと懲戒処分リスク

つきあっている男性に奥さんや子どもがいるとわかったら、もちろん即座に別れるのが正解です。しかし私の知る限り、そんなことができる人はほんの一握り。私がいくら「やめたほうがいいですよ」と忠告しても、ほとんどの人は重い葛藤を抱えながら、関係を断ち切れず苦しむことになります。

しかし繰り返しますが、本当は相手が既婚者であるとわかった時点で関係を解消し、すぐに弁護士に相談するのがベスト。その理由は3つあります。

まずは、相手の男性から慰謝料を受け取れる可能性があること。

2つめは、たとえ知らなかったとはいえ不倫関係に陥った以上、男性の妻から慰謝料を請求されるリスクを負っていること。

3つめは、勤務先から懲戒処分の対象にされるかもしれないことです。いまは不倫に厳しい時代になっているので、特に相手が同じ社内の人間だったりする、なんらかの処分を受けるリスクがあります。

■別れ話の履歴を残しておく

とはいえ、急に別れるのは難しい場合もあるかもしれません。男性の意向を無視して強硬に別れようとすると、ストーカーやリベンジポルノなどの被害にあう危険性もあります。

このような場合は、結論を出すのは先送りしても、せめて別れ話だけは早めに切り出しておき、そのやりとりをラインやメールなどに残しておくことです。それが後日、「私は既婚者とわかった時点ですぐに別れようとした」という証拠となります。できればそれに加えて、「私は付き合い始めたときはあなたが既婚者だとは知らなかった」という文言も残しておきましょう。

ちなみに裁判になった場合、自分が「既婚者とは知らなかった」という事実を証明する必要はありません。なぜなら「知らなかった」ということは厳密には立証不可能。このような場合は「主張立証責任」といって、「本当は知っていたはずでしょう」と主張したい側(相手の奥さんなど)が証拠を揃えるのがルールです。

■結婚の約束があった場合は?

さて、先ほども言ったように、不倫はこれだけリスクが高いにもかかわらず、相手が既婚者であることを知ってもなかなか別れられない人もいます。本当に知らなかったのは最初のうちだけで、つきあいが長くなればなるほど、「知りつつ不倫」になっていく。続けていくほど相手の妻から慰謝料請求される可能性は跳ね上がります。

ただし、相手の男性が「妻と別れてきみと結婚する」と約束した場合は、こちらから男性に慰謝料請求できる可能性が高くなります。ただし結婚の約束があったと主張するのであれば、単なる口約束ではなく、できればラインやメールなど残るものがあったほうがいいでしょう。直接「結婚しよう」という言葉がなくても、「将来について考えてくれて、うれしい」など、なんとなく結婚をにおわせる内容であればOK。まったく何も証拠がないよりはましです。

■慰謝料は、男性にも半分払わせることができる

それでは既婚者であることを知りつつ不倫していた場合、相手の奥さんからいくらくらいの慰謝料を請求される可能性があるのでしょうか。基本的には支払い能力に応じた金額になりますが、不倫の結果、先方が離婚すると、慰謝料額はさらに高額になります。

不倫関係を解消した結果、先方が婚姻を維持することになった場合は、150万円くらいが相場ですが、不倫が原因で離婚にまで至ったときの慰謝料はおよそ300万円。離婚はしないものの、「男性が2人の子供を捨てて女性の家に転がり込んだ」というような場合は200万円程度です。

妻から慰謝料を請求された場合、これを自分一人で払ってしまう女性もいるかもしれません。しかしもとはといえば、既婚の身でありながら不倫をした男性にも非はあるはずです。実はこのような場合、「求償」といって、奥さんに払った慰謝料の半額を男性にも請求できる権利が発生します(厳密には双方の積極度に応じて請求の割合が変わります)。たとえば不倫をしていた女性が奥さんに100万円の慰謝料を払ったなら、男性にその半額の50万円を負担してもらうことが可能なのです。

奥さんからすれば、同一の家計から50万円が移動しただけですから、バカバカしい話ですが、不倫をしてしまった女性にしてみれば、慰謝料が半額で済む。このことは覚えておいてほしいと思います。

■28歳の不倫が多い

よく言われることですが、ほとんどの男性は口では「妻と別れる」と言いますが、そう簡単にはいかないのが現実です。一度結婚した妻と別れるというのは、本当に大変なことだからです。それなのにそんな相手にしがみついてしまうと、あっという間に何年も空費してしまい、幸せは遠のく一方でしょう。

不思議なことに私のところに不倫の相談に来る女性は、なぜか28歳の人が多い。

古い考えですが、28歳というのは女性が最も結婚に焦る時期だといわれています。結婚観は人それぞれとはいえ、そんな大事な時期に既婚者と恋愛をするというのは明らかに判断ミス。しかも不倫には相手の奥さんという被害者が存在します。できればそのような愚は犯さないでほしいと切に願います。
 

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齋藤 健博(さいとう・たけひろ)
弁護士
2010年慶應義塾大学総合政策学部を経て15年慶應義塾大学法科大学院修了。同年司法試験合格。16年弁護士登録、虎ノ門法律経済事務所所属。18年慶應義塾大学法科大学院助教。2019年銀座さいとう法律事務所開設。離婚や不倫など男女問題に強い。
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(弁護士 齋藤 健博 写真=iStock.com)

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