なぜ「昼カラ」で感染が広がったのか 北海道で客と従業員計90人超

新型コロナウイルス感染が首都圏を中心に「夜の街」で広がる中、北海道では「昼カラ」を通じて高齢者に拡大した。昼カラとは、喫茶店やスナックで日中に行うカラオケ。札幌市や隣接する小樽市などの昼カラ21店の感染者は客と従業員だけでも計94人に上り、両市の計6店でクラスター(感染者集団)が発生した。なぜ昼カラで感染が広がったのか。(寺田理恵)

憩いの場で落命

 かつて港町として繁栄した小樽市中心部の繁華街・花園地区。路地と坂道が交差し、居酒屋やスナックが集まっている。この地区のスナックを、高齢者約10人のカラオケサークルが日中に訪れていた。

 市保健所によると、6月1、8、15日の午後1~5時に昼カラを利用したメンバー7人と経営者計8人の陽性が23日に確定。市は24日に感染を公表し、クラスターと認定した。店内は狭く、担当者は「密な状況で飛沫(ひまつ)が飛んだ」と指摘する。店側が歌唱時のマスク着用を促しても、使わない客もいたという。

 26日にはメンバーの80代男性が死亡。陽性が確認された23日時点で無症状だったが、容体が急変した。

 メンバーの中には同じ地区の複数の店を利用していた客もいる。市が濃厚接触者を検査した結果、28日時点でクラスターは同地区のスナック計3店、客と経営者を含め関連する市内の感染者は計33人に拡大した。

 札幌市の調査で、同市に住むメンバー1人が小樽市の2店を訪れていたことも判明していた。

「密」状態で長時間

 人口約11万人の観光都市で、数十人規模の集団感染発生の衝撃は強い。28日に臨時記者会見を行った迫(はざま)俊哉市長は市内の昼カラ全店に営業自粛を求め、「高齢者の憩いの場を提供したいという事業者もいるが、結果として来店者が命を落とすのは本意ではないはず」と訴えた。休業店への協力金支給も表明した。

 さらに、「昼カラは午後1~5時ごろと時間が長い。高齢者が圧倒的に多く、夜間に比べ密集度も高い」との見方も示した。

 昼カラは、飲み物や昼食、歌い放題のセットプランで1000円や2000円程度と、手頃な価格で長い時間利用できる店が多い。カラオケボックスと違い、一つのフロアに常連客が集まり、交流を楽しむ憩いの場ともなっている。

 夜も営業するスナックで日中に感染が広がった要因には、夕方までの長時間利用と店内の密集した状況があったようだ。

複数の店をはしご

 また、クラスターが相次いで発生した要因とみられるのが、複数の昼カラ店を行き来する高齢者の存在だ。サークルメンバーのうち4人は同じ地区のほかの店も利用していた。

 国の方針で、5月末からは濃厚接触者全員にPCR検査が実施される。このため、小樽市で感染が確認された客や経営者、その関係者の計40人の多くが陽性確定時点では症状が軽いか無症状だった。だが、80代男性に加えて酸素吸入が必要な中等症だった60代男性の計2人が亡くなった。

 市保健所の担当者は「1人目は(亡くなる)当日の朝まで職員と電話で話していた。2人目も非常に短い期間で急速に悪化していった」と話す。

札幌では5人に1人

 昼カラの感染リスクが浮上したのは、札幌市保健所が高齢の感染者の行動歴を再調査したのがきっかけだ。同市の病院や施設の集団感染を除いた60歳以上感染者109人(5月1日~6月8日公表分)のうち2割で昼カラの行動歴があった。

 札幌市は6月9日から17日にかけ、市内の昼カラの喫茶店3店をクラスターと認定。喫茶店は休業要請の対象外で、5月中も営業していた店の客2人がほかの店もはしごをしていた。

 同市では5月以降、クラスター3店を含む昼カラ18店(1店は市外)で客と従業員計60人の感染が確認されている。18店はいずれも郊外にあり、地域の高齢者が通っていた。

 ただ、札幌のクラスターと小樽のクラスターを行き来した感染者は確認されておらず、隣接する両市で発生した原因は不明だ。

安全に楽しんで

 昼カラが楽しめる喫茶店やスナックは道外でも各地にあり、高齢者が「密」状態になる可能性はある。ただ、カラオケは高齢者の健康維持に役立つとされ、介護予防に取り入れている自治体なども少なくない。

 札幌市は「カラオケ自体に問題はない。安全な環境で楽しんでほしい」などと昼カラの店と客に感染予防策の徹底を呼び掛けるにとどめている。小樽市もカラオケボックスや町内会のサークル活動で行うカラオケには自粛を求めていない。

 昼カラの集団感染を受け、北海道は店や客に対し、他の人と距離を取りマスクを着用して歌唱・会話をする▽十分な換気▽マイクを共用しない▽マイクやリモコンのこまめな消毒-などの感染予防対策を呼び掛けている。

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