なぜパチンコ店の行列は「放置」されるのか 政府と国会議員に聞いた

東京都がパチンコ店を含む遊技施設などに休業要請を出した10日。ある繁華街のパチンコ店は、開店前から100人超の客でごった返していた。政府が不要不急の外出を呼びかけるなか、なぜパチンコ店には人が集まるのか。なぜそれが「許される」のか。関係者を取材した。

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 4月10日、午前9時半。東京・墨田区の繁華街にあるパチスロ店では、100人超の客が開店まで順番を待っていた。

 列に並ぶ客の半数以上はマスクを着用していたが、中には路上でたばこを吸う人や、マスクを片耳にかけてぶらさげている人も。せきをする人の姿もあった。

「こちらは墨田区役所です。緊急事態宣言、発令中です。不要不急の外出は控えましょう」

 新型コロナウイルスの感染拡大に注意喚起をうながす区のアナウンスがむなしく響く。

 午前10時。店のスタッフらが客に呼び掛けた。

「整理券をお持ちの方は、店内で抽選待機となりまーす!」

 大勢の客がぞろぞろと店内に入っていった。

 記者はマスクを着用して距離を取りながら、列に並んでいた客に話を聞いた。

 同区に住む無職の60代男性は、「時間があり余っている。他にすることがないので、暇つぶしに来た」と話す。この男性は、3月末に都が不要不急の外出を控えるよう呼びかけた後も、毎日パチンコ店に通っている。

「いい天気だから、散歩がてらね。これまでは一日中いたけれど、長居はしないようにしているよ。今は2、3時間だけ」

 感染リスクについては、「店は換気しているみたいだし、間隔を空けるよう呼びかけてくれているから、たぶん大丈夫。心配はしていない」と笑顔。「まだ、開いててくれてありがたい。いつ閉まるか分からないから、今のうちに楽しみたい」と言い残し、店の中へと入っていった。

 この日、東京都の小池百合子知事は14時から記者会見を開き、休業要請の対象となる業種を発表した。パチンコ店も対象となることが決まった。

 東京・江戸川区のパチンコ店の店長は、「前々から休業要請の覚悟はしていた。もうちょっと早く出るのかなと思っていた」と話す。それでも「大手であれば店を閉めることができるが、うちみたいな中小だと、店を閉めることが命取りになる」との理由で、翌日も時間を短縮して営業するという。

  都は4月6日時点で、パチンコ店のような遊戯施設を含む多様な業種に休業を求める方針を示していた。ところが7日、政府が「待った」をかけ、その後は両者の調整が続いた。

 パチンコ店をめぐっても国と都の間では「駆け引き」があったようで、水面下での両者のやりとりを報じた4月10日付の時事通信の記事では<ある自民党議員は、大手パチンコ店関係者から「1カ月営業を止めると億単位の売り上げが消える」と相談を受けたと打ち明けた>との記述もあった。

 休業要請の対象業種が発表された10日、都の総合防災部の担当者は「ようやく国側にもご理解いただいて、今日を迎えることができた」と安堵。政府を押し切る形でパチンコ店などへの休業要請を推し進めた理由については、「パチンコのような遊技施設に行くことは、生活維持のためとは言いがたい。感染防止につなげるために、できる限り早く外出に優先順位をつけるべきだった」と話した。

 一方、政府はパチンコ店への休業要請には及び腰だ。前出の都担当者が「(パチンコ店は)狭い中に(客が)大勢が密集していれば、感染リスクは十分に考えられる。(密閉、密集、密接の)3密の条件に当てはまる場合もある」と話すように、飲食店以上にリスクとなっている可能性は以前から指摘されてきた。それにもかかわらず、政府はバーやライブハウス、ナイトクラブなどは名指しで注意喚起してきたものの、パチンコ店を挙げることはなかった。

 その理由は何なのか。内閣官房の担当者は、根拠の一つとして、2012年に定められた新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)に、パチンコ店の記載がないことを挙げる。特措法の第45条第2項には、休業要請が特に必要な施設として、「劇場、観覧場、映画館又は演芸場」のほか、「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設」と記載がある。政府はパチンコ店が「遊興施設」に含まれるかどうか「検討中」(9日時点)だという。また、4月1日開催の専門家会議の意見をとりまとめた「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析提言」で、パチンコ店が入っていないことも根拠の一つに挙げた。

  とはいえ、この危機的状況になってなお、遊興施設にパチンコ店を含めるかを「検討中」とする政府の対応はあまりにも遅い。

 パチンコ業界には「一般社団法人パチンコ・チェーンストア協会(PCSA)」という業界団体がある。同団体のHPには「政治分野アドバイザー」として40人の国会議員が名を連ね、うち22人を自民党議員が占める。野党からも日本維新の会、国民民主党、立憲民主党などの議員が加わっている。超党派の「議連」が形成されているのだ。なかには、遊戯業振興議員連盟やIR議連と重複している議員もいる。

 カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法が成立したことで、2020年代前半にも国内でIRが開業する。それに伴い、パチンコ関連企業がIR事業に参入する意欲をみせていることはすでに報じられている。こうした動きが、政府の反応を鈍らせている「遠因」になってはいまいか。

 その点を取材すると、PCSAの事務局長は「(新型)コロナウイルス(対策)に関して、政治分野アドバイザーと特に連絡は取っていません」と文書で回答した。アドバイザーとして名前が記されている3人の国会議員にも電話取材したが、いずれも「ノータッチ」「自分は活動していないので、何をやっているのかわからない」「この数年は活動していない」と答えるのみだった。

 緊急事態宣言を受けた都府県では、パチンコ店へ休業要請を行う自治体が相次いでいる。しかし、他の道府県では3密のリスクが高いパチンコ店は「野放し」の状態が続いているのが現状だ。国民の命を守ることを最優先にするならば、政府がもっと強いメッセージを出す必要があるのではないか。(AERA dot.編集部/飯塚大和)

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