なぜ地方では新しい事業がつぶされるのか ビジネスの芽を摘む「地域魔女狩り」の仕組み

「地 方創生に必要なのは、稼ぐ民の力だ」。8月28日にこのテーマを掲げて開かれた「地方創生サミット」には、おかげさまで約600人に参加いただき大盛況の うちに終了することができました。この連載を楽しみにしてくださっている読者の方々にも、多数お目にかかることができました。ありがとうございました。

さて、サミットの成果も踏まえ、今回は地方の再生や活性化に欠かせない、新規事業について考えます。

地方が衰退する状況を打破するためには、もちろん縮小している既存事業を立て直すのが重要です。しかし、それだけでなく、新たな事業を立ち上げ「稼ぐ仕組み」を作り、域外からの収入をあげたり、雇用も増やしていこうという意欲的な取り組みがどこでも行われています。

もちろん、新規事業への支援は、農林水産業、工業、商業といったさまざまな分野で横断的に行われていますが、なかなか軌道に乗りませなん。実は地域における新規事業には、「見えない壁とワナ」が多く存在しているのです。

前出のサミットでは、食、医療、金融、エネルギーなどの各分野で成功している事業家の皆さんに登壇いただきましたが、彼らはそれを乗り越える工夫をしていることもわかりました。では、新しい事業をする場合、いったい何が成功と失敗を分けるのでしょうか。

いうまでもなく、新規事業は「商品・サービス」「顧客」「方法」がすべて従来とは異なる形で始められることになります。

地域で新しい事業をする際には初期段階で、さまざまな反応が出ます。すぐに周囲がその新しい取り組みに気づき、実は全く事業に直接関係ない人まで、反応を示したりします。ある人は「聞いていない」と言い出したり、説明をすると「こんな事業はわけがわからない」とダメ出しもします。

こうした声を無視すると、今度は「あの事業はうまくいかないよ」などと丁寧に悪い噂まで広げて下さったりします。「不必要な御意見番」が沢山出るのです。

 このように、地域での事業で厄介なのは、事業に直接的に関係するステイクホルダー(利害関係者)だけでなく、その外にいてリスクも負わず、事業の影響を特段受けるわけでもない人まで、「連絡」と「理解」を求めたりすることです。

これが小さいようで、実は大きな壁です。結局は、衰退している地域で、ひとことモノ申したいだけだったりしますが、新規事業の初期段階では、そんなことにいちいち対応している余裕はありません。

本来、新規事業は、初期段階でできるだけ事業に集中しなくては、成果など生まれません。しかし、地域では関係ないひとからさまざまな邪魔が入ります。時には親切を装っていたりさえするから厄介です。

この最初の段階をうまくやり過ごさないと、事業がどんどん歪んでいき、遅延していき、挑戦することがないままにつぶれてしまうことも多々あります。

一方、地方の新規事業に関しては、近年「ビジネスプラン・コンペティション」(公開プレゼンなどで、新しいビジネスを評価する仕組み)もよく聞きます。これは、新規事業の提案を幅広く外部からも集め、それに支援をつけるという取り組みで、全国各地で行われています。

その多くは、地域で新たな事業を考える若者たちなどを集め、計画案をプレゼンさせ、審査委員が審査、お眼鏡にかなったプランには賞金や補助金が提供されるというものです。

一見すれば素晴らしい取り組みのようですが、そうとも言えません。審査委員は衰退している商店街の商店主や融資審査をしている地元金融機関の担当、自治体の商業政策担当、地元大学の先生、よくわからないコンサルタントなどが中心で、新規事業を自分で立ち上げ軌道に乗せてきた人たちではない場合が多くあります。

そのような人々が集まり、新規事業審査をして、その審査にどこまで意味があるというのでしょうか。

さらに困ったことに、こうしたコンペに参加する人たちも、実はコンペにおいて評価されても、評価されなくても、どちらに転んでも問題を抱えることになります。

 まず、運悪く落選した人は、せっかく地域で挑戦しようと思っても、このプレゼンによって、挑戦する前から「あいつはダメな計画をたてたやつ」と烙印を押されてしまいます。

また、審査で評価された人たちも問題です。事実上、何の挑戦もしていない段階からプレゼン能力などで優勝賞金をもらったり、逆に初めて行う事業なのに最初から補助金漬けにさせられてしまうからです。

そもそも地域の新規事業で何が当たるなど、事前にわかるわけがありません。まずは始めてみて、それを軌道修正しながら成果を上げていくしかないのです。いちいち計画段階で「議論」すること自体がナンセンスです。

地域の新事業とは、巨額を要する工場を建設するわけでもなく、まずは数十万円程度で試しにやってみることができる類のものが多いのです。こうした小規模事業を始める前に、皆で議論するのに数百万円もの予算をかけ、皆の労力を割くこと自体が滑稽です。

そんな予算と労力があるなら、審査委員たちがまず事業をやって見せたほうがよいでしょう。事業で重要なのは、計画を机上で戦わせることではなく、結果を戦わせることです。審査することではなく、自ら前を走ることです。

本気で事業に挑戦する人は、そもそも前出のようなビジネスプランコンペなどには参加せず、すぐにやり始めます。これから事業を始める人は下手な審査など受 けずに、まずはさっさと自分でやるようにしましょう。そして、先を走って地域で実績をあげている事業家と話をするほうがよほど有益です。

実は、最近では、応募者不足に悩むビジネスプランコンペでは、学生や若者などを勝手に指名しては計画を立てさせ、実践する前から審査してつぶしてしまったり、はたまた補助金漬けにしてしまう、「魔女狩り」に近いものになっているものも散見されます。実践しない大人たちが集まり、若者たちに新規事業を無理やりやらせようとして、つぶすこと自体が意味不明です。

このようなことを繰り返していると、新規事業を正常に立ち上げていく力が地域から失われていきます。その地域には、新しい事業を試す前からつぶしてしまう壁がどんどん出現していきます。

 地域において新たな事業で実績をあげている人たちは、初期の非難などもたくみにかわしつつ、くだらないビジネスプランコンペなどにも出場せずに独立独歩、自ら挑戦し、試行錯誤しながら成果をあげています。

例えば、先日の地方創生サミットにもご登壇頂いた、石垣島のジュエリーブランド「TILLA EARTH」(ティーラ・アース)の平良静男社長がこうしたケースにあてはまります。今でこそ、石垣島から沖縄本島、伊勢丹本店にも進出して成長を続けて いますが、石垣に800万円もかけて小さなショップをオープンした時、「そんな立派な店なんか石垣では流行らない。3日でつぶれる」といったことを周囲か ら言われたと語っています。

地元では、数百円のおみやげ販売が中心の中、高付加価値商品の製造販売などは不可能だと思っていたわけです。しかし、サンゴや太陽といった石垣島らしさを出した同社のジュエリーは、見事に大輪の花を咲かせ、今や全国だけでなく、その名は海外にもとどろいています。ティーラ・アースなどの活躍がきっかけとなって、今は石垣島からさまざまな高付加価値商品やサービスが生まれ、展開されるようになっています。

今回のコラムをまとめましょう。地域での新規事業は初期段階ではさまざまな人から「あれやこれや」と言われますが、それらの言葉に左右されることなく、やり過ごし、仲間と共に事業に集中し、トライ・アンド・エラーを続け、実績をあげれば、評価は後からついてきます。

重要なのは、結果を残すことです。結果がでれば、評価は後からついています。特に評価は、大抵の場合、地域内ではなく地域の外から高まります。外が評価する事実をもとにして地域内での評価も高まるという構造です。この順番を常に意識しなくてはなりません。

千里の道も一歩から。始める前からいたずらに値踏みなどせず、始めた後は集中し、事業をどんどん軌道修正しながら成果を出すことに専念する。これこそ、地域における取り組みで常に意識しなくてはならない鉄則です。

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