西武鉄道と笑屋が「西武線 同窓会電車」を運行。初日は計6校、およそ150人が参加しました。この企画のターゲットは30代から40代。そこには将来を見越した“ねらい”がありました。
同窓会の「会場」は通勤電車
通学で使った電車が同窓会の会場に――。西武鉄道と同窓会幹事代行業の笑屋が、2016年11月12日(土)、「西武線 同窓会電車」を運行しました。
名前のとおり、同窓会を電車内で開こうという企画で、11月12日(土)の運行が初めて。この日参加した計4校、およそ150人の同窓生らは、車内で生ビールや中華のオードブルなどを楽しみつつ、卒業アルバムを見たり、校歌を口ずさんだりしながら、懐かしい思い出話で盛り上がりました。車掌(この企画に限り「イベント車掌」と呼称)も、参加校の校歌を即興で歌ったり、自身の最寄り駅を紹介したりと、アレンジを大幅にきかせた放送で車内を湧かせています。
“会場”は1977(昭和52)年に登場し、現在も使用されている「黄色い電車」2000系。窓を背にした長いシートに手すり、吊り革など、ごく普通の通勤電車です。西武鉄道の担当者は「通学時に一度はお乗りいただいたことのある電車を使うことで、懐かしいと思っていただければ」と話します。
「同窓会電車」は田無第一中学校の卒業生を乗せて、13時05分に池袋駅を出発。豊島園駅でトイレ休憩と記念撮影をしたのち、池袋駅にいったん戻りました。ここでさらに大泉第二小学校、富士見高校、学芸大学附属大泉小学校の卒業生を乗せて出発。所沢駅、田無駅、清瀬駅でトイレ休憩や記念撮影をしたあと、保谷駅、中村橋駅などでそれぞれ学校ごとに卒業生が降車していきました。
同窓会電車の背景に「課題」と「ねらい」
西武鉄道は、このような「同窓会電車」を企画した背景として「人口減少」を挙げています。
現在、日本の人口は自然減少に転じており、減少幅は拡大傾向にあります。このような状況下で鉄道の利用者数を維持するには、沿線価値を高め、実際に住んでもらうことが必要です。
「同窓会電車」のターゲットは、西武鉄道によると30代から40代といいます。国土交通省「平成26年度 住宅市場動向調査」によると、住宅を取得した世帯主の平均年齢は、39.4歳(分譲戸建住宅)から44.1歳(中古マンション)。今回の同窓会をきっかけに、西武沿線に戻ってきてもらい、さらに住んでもらうのがねらいです。
「同窓会電車」の“仕掛け人”である西武鉄道運輸部の浅野雅明さんは、「今回の企画が、西武線のことを思い出していただけるきっかけになればと。また、西武線のことをよく知らない人には、『おもしろいことをやっている』と感じていただいて、沿線を選ぶ際のきっかけになればと思っています」と話します。
「最初は詐欺かと思いました」
こうした「選んでもらう」「住んでもらう」取り組みは、「同窓会電車」だけではありません。西武鉄道は東京メトロ、東急電鉄などとともに有料座席指定列車を2017年春に導入。秩父や横浜方面への観光輸送や、通勤輸送時の着席需要を取り込めるよう、計画を進めています。
他社も同様の動きを見せています。小田急電鉄は複々線完成に伴う抜本的なダイヤ改正を2018年3月に実施。平日朝ピーク時に列車をおよそ3割増発するほか、特急「ロマンスカー」は新型車両投入や時間短縮を図ります。
京王電鉄は2018年春から、新型の5000系電車を使い有料座席指定列車を運行する予定。並行するように走るJR中央線では、2020年度からオレンジ色の帯の電車にグリーン車が連結される計画です。
東武鉄道も新型車両「Revaty」を使用した特急列車を、新たにアーバンパークライン(野田線)などで2017年春から運行。関西でも、京阪電鉄が着席保証の「京阪特急プレミアムカー(仮称)」を導入する予定です。いずれも速達性とともに快適性を意識した列車を投入することで沿線価値を高め、「選んでもらう」「住んでもらう」ことをひとつの目的にしています。
「同窓会電車」に乗車した田無第一中学校の卒業生は、「『同窓会電車』の知らせを見て、最初は突飛な内容だったので詐欺かと思いました。それくらい今日の企画は新鮮でした。千葉に住んでいる自分にとって、西武線の黄色い電車は久し振りでしたし、田無の街も懐かしいです」と満足そうに話しました。
「同窓会電車」は本日11月13日(日)も、西武沿線にある高校2校の卒業生を乗せて、池袋線や新宿線などを走ります。