大手回転寿司(ずし)チェーンが、寿司以外の「サイドメニュー」をどんどん充実させている。各社がラーメンやカレー、スイーツなどのメニューを増やし、あたかも「ファミリーレストラン(ファミレス)化」を進めているように見えるのだ。流通・外食業界の分析に定評がある店舗運営コンサルタントの佐藤昌司氏に業界事情を解説してもらった。
■ますます激化する「サイドメニュー合戦」
チョコレートケーキ、パフェ、ポテトフライ…。子どもが大喜びする食べ物が、寿司とともにベルトコンベヤーで運ばれてくるのはもはや当たり前。今、回転寿司チェーンのメニューを見ると、「こんなものまで!」と思うぐらい、「寿司店」とはほど遠い料理の写真が目に飛び込んでくる。
数年前から本格化してきた大手回転寿司チェーンの「ファミレスメニュー」の強化。当初は一時的な動きと見る向きもあったが、さらに競争は激しくなっている。
早くからカレーや天丼、豚丼などの「寿司店らしからぬ」サイドメニューに注力していたのは、業界2位のくら寿司(運営:くらコーポレーション)だ。
3月中旬には初の本格的な洋食メニューを発売した。ラーメンの麺にカルボナーラソースを加えた「カルボナーラ スパらッティ」と、「イタリアンチーズハンバーグ」という、かなりコッテリ系の料理だ。さらにデザートメニューの「チョコとマスカルポーネのパフェ」も投入した。
一方、業界首位のスシロー(あきんどスシロー)は昨年11月、スイーツ強化の取り組みとして、社内の部署横断プロジェクト「スシローカフェ部」を発足させた。
第一弾の商品として専門店が監修したアップルパイを同月中旬から、14粒のイチゴを贅沢(ぜいたく)に使った「苺(いちご)すぎるパフェ」など3種のイチゴスイーツを同じく今年3月中旬から、それぞれ期間限定で販売した。若い女性らをターゲットに、スイーツの写真をツイッターやインスタグラムに投稿すると、食事券が抽選で当たるキャンペーンなども実施した。
ゼンショーホールディングス傘下のはま寿司は、ラーメンの販売に注力する。これまでにも「旨(うま)だし鶏塩ラーメン」「北海道濃厚味噌(みそ)ラーメン」など様々なラーメンを提供してきたが、3月には、昨年1か月間で60万杯以上を売り上げた「春の旨だしはまぐりラーメン」を再びメニューに加えた。たこ焼きやうどんなども充実している。
かっぱ寿司(カッパ・クリエイト)も2月下旬、一部の店舗で時間を限定し、「デミたまハンバーグ丼」や「とろたまローストビーフ丼」など計5種類の丼メニューを発売した。昨年11月下旬には、人気映画「鋼の錬金術師」とコラボした「ハガレンパフェ」を10万食限定で用意した。
■“ファミレス化”のメリットとは?
大手回転寿司チェーンがファミレスのようなサイドメニューを競って投入し続けるのはなぜか。大きく分けると、(1)新たな客層を取り込む(2)リピーターを確保する(3)他の回転寿司チェーンとの差別化を図る――の三つの目的があるようだ。
サイドメニューを充実させることで、普段の外食ではファミレスを中心に利用する客層も取り込むことができる。魚嫌いの子どもを連れているファミリーにもアピールできるはずだ。
寿司ばかり食べていては飽きてしまうという客も、サイドメニューが充実し、料理の幅が広がるとあれば、次に来店する楽しみが増え、リピーターの増加につながる。客離れを食い止めるのにも一役買いそうだ。
また、低価格の回転寿司チェーンでは寿司ネタで特色を打ち出すことは、実は難しい。しかし、サイドメニューであればわかりやすい差別化が可能になる。たとえば、はま寿司はサイドメニューの中でも「ラーメン」を特に強く押し出し、「ラーメンも楽しみな回転寿司チェーン」という評判を確立して、差別化に成功しつつある。
■スシローは女子高生を取り込み
そうした中、スシローがスシローカフェ部を立ち上げた動きは興味深い。
この取り組みによって、午後2時から5時ごろまでの、寿司を目当てに訪れる客が減る「アイドルタイム」に女子高生たちが来店し、スイーツや寿司を楽しむケースが増えているそうだ。
回転寿司チェーンはファミレスに比べ、アイドルタイムの集客が難しいとされてきた。しかし、ピークの時間帯を過ぎてから寿司目当てで訪れる客もいる。客離れを防ぎたい各チェーンは極力、人手を抑えて接客をしながら、仕込みや清掃などをこの時間帯に並行して行うケースが多い。
そんな中、くら寿司も以前からコーヒーやスイーツに力を入れており、スシローはここにきて「カフェ部」でイメージを強化。学校帰りの女子高生という新たな客を取り込み、アイドルタイムの売り上げを伸ばすための「仕掛け」で競い合っているのは特筆に値する、と筆者は考えている。
■ファミレス市場に「侵食」?
回転寿司業界は今も成長し続けている。
大手では、かっぱ寿司が苦戦しているものの、スシローとくら寿司、はま寿司は今も各地で出店攻勢を仕掛け、売上を伸ばし続けている。
16年度の売上高は、スシローが前年比8.5%増の1477億円、2位のくら寿司が7.9%増の1136億円、3位のはま寿司が8.0%増の1090億円。かっぱ寿司だけが1.1%減の794億円と減収だった。
このように業界は活況を呈しているが、一方で多くのチェーンがひしめき合い、「過当競争」に陥っている感も否めない。これまで主戦場だった郊外のロードサイドでは用地や物件の獲得競争が激化。以前よりも出店余地は狭まっている。さらに、既存店売上高では各社苦戦している。
都市部や海外への出店、新業態での展開などで業績を拡大する余地がまだあるとはいえ、「新規出店ありき」の成長戦略では、いずれ行き詰まる、と筆者は見ている。
各社も既存店の収益性を高める必要があると考えていて、その答えの一つが“ファミレス化”のようだ。
調査会社の富士経済(東京)によると、16年の国内のファミレスの市場規模は1兆3198億円。これに対し、回転寿司は6055億円だった。ファミレスの市場は回転寿司の2倍以上に上る。回転寿司チェーンには、大きなファミレス市場はさぞ魅力的に映るだろう。
回転寿司チェーンが“ファミレス化”することで、当然、ファミレス業界は影響を大きく受ける。回転寿司チェーンに勢いがあるとはいえ、ファミレス側も市場への「侵食」をそう簡単に許すわけにはいかないだろう。
■回転寿司の大きな「武器」
しかし、回転寿司チェーンには、ファミレスにはない大きな武器がある。
その一つが、ファミレスと比較した場合の、売上収益(売上高)に占める人件費を中心とした販売管理費(販売費及び一般管理費)の割合(売上高販管費率)の低さだ。
ファミレス最大手で「ガスト」などを展開するすかいらーくを例に挙げてみよう。すかいらーくの17年度の販管費率は約61.7%。これに対し、回転寿司首位のスシローの親会社、スシローグローバルホールディングスは約45.4%で、すかいらーくより約16ポイント低い。
回転寿司は専用のベルトコンベヤーを使い、基本的に人の手を介さず客席まで料理を運べるため、ウェーターやウェートレスなどホールを担当する従業員が少なくてすむ。つまり、人件費を低く抑えられるのだ。外食産業全体が人手不足で人件費の高騰に苦しむ中、これは大きな強みと言える。
一方、17年度の売上収益に占める、材料など商品の原価(売上原価)の割合(売上原価率)は、すかいらーくの約30.1%に対し、スシローが約48.3%で約18ポイント高い。
一般的に、外食産業の売上原価率は30%程度といわれる。すかいらーくが低いというより、スシローが高いのだ。スシローの原価率の高さは、外食産業でもかなりの水準にあるとされる。くら寿司もスシローに近い原価率だ。
つまり、販管費が抑えられる分、寿司ネタなどにお金をかけ、低価格で提供することができるのだ。
■回転寿司はファミレスの「脅威」となるか?
もし、売上原価率が低いファミレスのメニューを回転寿司チェーンが積極的に導入すれば、平均の原価率が下がって、より高い利益率を確保できるようになる可能性がある。一方で、販管費が大きく上がりそうな要素はないため、原価を抑えて捻出した費用で「目玉商品」を投入できるかもしれない。
利益を重視する場合は前者を、集客を重視する場合は後者を選ぶことになるだろう。仮に後者を選択した場合、ファミレスにとっては大きな脅威となるに違いない。
ファミレスには、商品開発力などで「一日の長」があり、顧客満足面でファミレスがすぐに回転寿司チェーンに後れを取ることはないだろう。しかし、価格や品質、品ぞろえなどを総合すると、回転寿司チェーンは決して引けを取らないと筆者は考えている。
回転寿司の“ファミレス化”は今後も止まらないのではないだろうか。ファミレス各社は回転寿司を「しょせん、真似(まね)ごと」などと軽く見ていては足をすくわれ、市場を奪われかねない。ファミレス側にも商品開発の努力や、お客を喜ばせる仕掛け作りが求められる。業界の垣根を越えた「外食産業の大競争時代」の幕開けも近いかもしれない。
プロフィル
佐藤 昌司(さとう・まさし) クリエイションコンサルティング代表取締役社長、店舗経営コンサルタント。1977年生まれ。立教大学卒。アパレル大手での12年間の勤務と経営コンサルティング業の経験から、マーケティング政策の立案、人材育成、店舗オペレーションの改善などを得意とする。