なぜ? 海外で謎の誤解「日本人はヘンタイが多い」

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 アニメファンの聖地“AKIBA”(秋葉原)で、外国人観光客たちがエキサイトしている。全身タトゥーの金髪のお兄さんが、サンリオのキャラクター「ポムポムプリン」を手に入れようとUFOキャッチャーで格闘。体感型対戦ゲームから離れようとしないのは東欧系女子だ。順番待ちのリストには多くの外国人の名前が書きこまれる。アニメやコミックなどの関連商品を扱うアニメショップ「アニメイト」には、キャリーケースを引っ張って買い物に来るアジア人が後を絶たない。

アキバを訪れる外国人旅行者。キャラクターのリュックや缶バッジからアニメファンであることが伺える(写真の一部を加工しています)

© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 アキバを訪れる外国人旅行者。キャラクターのリュックや缶バッジからアニメファンであることが伺える(写真の一部を加工しています)

 先日、東京の広告代理店に勤める20代の会社員Nさんから筆者のスマホに、「今、ブリュッセルのグランプラスにいるんだけど、現地の学生らしい女の子たちが『東京喰種トーキョーグール』の主題歌を日本語で大合唱しながら歩いている!」というLINEが届いた(注:「グランプラス」はベルギーの首都ブリュッセルの中心部にある大広場)。

『東京喰種トーキョーグール』は、日本の漫画家、石田スイ氏が描くダークファンタジー作品(サイエンスファンタジーともいわれる)。2017年には実写映画が23カ国で上映されており、海外にも『グール』ファンは少なくないようだ。

 日本のアニメは、日常生活からファンタジーまでテーマが幅広いこと、そして作画の美しさやリアルさはもとより、ストーリーの奥深さと心理描写の緻密さが海外で高く評価されている。

秋葉原でメイドカフェのビラを配るメイドさん(店員)と外国人ファミリー(写真の一部を加工しています)

© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 秋葉原でメイドカフェのビラを配るメイドさん(店員)と外国人ファミリー(写真の一部を加工しています)

アメリカの「otaku」と交流した女子大生

 大辞泉は「オタク」について「あることに過度に熱中している人」と説明するが、アメリカではそのまま「otaku」で通用するようだ。ちなみに、中国では「宅男(zhainan)」という一般名詞として定着している。

 自ら“アニオタ”と称する女子大生のRさんは、今年の夏、アメリカ・フロリダ州を旅行し、現地の大学生の“アニオタ”たちと情報交換を楽しんだ。

 彼女によれば、「今、アメリカのアニオタの間で流行しているネットスラングが面白い」という。「彼らに、知っている日本語を言ってもらうと、『フジヤマ』とか『ゲイシャ』ではなく、たいていの人が『ナニ?!』だと言います。アニメで頻繁にこの言葉が出てくるからです」

 Rさんは「アメリカ全土の現象かどうかはわかりませんが」と前置きしつつ、現地のアニオタの間で「アニメで覚えた日本語と英語を合体させる」ことが流行っていると教えてくれた。たとえば、「止めてください」は「やめてくだストップ」、「すみません」は「ソーリーません」。「死にたい~」などの叫びは「Iwant to 死にダイ~」というように英語化する。アメリカの若者たちがアニメをきっかけに日本語に強い関心を持ち始めている様子が伺える。

アニメのせいで日本人を誤解?

 日本のアニメが世界的に流行したおかげで、日本や日本人への関心が高まっていることは間違いない。しかしその一方で、一部のアニメがもたらすネガティブな一面もある。

 Rさんが紹介してくれた米国在住のエンジニア、ザックさんは、「萌え系アニメの影響なのか、世界的に『ヘンタイ』という日本語が一人歩きしていることが気になります」と言う。

 筆者にも思い当たる節がある。2013年、筆者は上海で出会ったカザフスタン出身の女性から、「日本人はヘンタイが多いのか?」と真顔で質問されたことがある。日本に来たこともなければ日本に関する知識もほとんど持たない彼女が、なぜ「ヘンタイ」という言葉だけを知っていたのか、不思議だった。

 それは、どうやらアニメのせいらしい。その女性によると、例えばあるアニメで、美少女に囲まれて鼻の下をのばしている男の子に女の子が「ヘンタイ」とののしるシーンがあったという。特に「萌え系」と言われるアニメには「ヘンタイ」という言葉がよく登場するそうで、ザックさんは、「これが外国のアニオタの耳に定着してしまった可能性がある」という。

 海外で一部のアニメがもたらす悪影響を放置していていいのか。日本動画協会(東京都千代田区)に尋ねてみると、広報担当者から次のようなコメントが返ってきた。

「日本では、アニメは子どもから大人まで対象は幅広く、大人が見るアニメのビジネスも成立しています。しかし海外では、アニメは子どもが見るものというのが大前提です。しかも、それぞれの国が異なる文化、異なる宗教、異なる価値観を持っています。ところが日本のアニメの表現は規制が緩い部分があり、そうした表現を受け入れられない外国人もたくさんいます。作品の内容によっては、海外向けでないコンテンツもあります。そのため、すべての作品を正規配信しているという状況にはなっていません」

「ヘンタイ」という言葉が独り歩きする背景には、むしろ違法視聴されているという問題があるようだ。

「つづく」プリントのTシャツが大流行

 それにしても、日本のアニメの伝播力は侮れない。台湾の台北では、メイドカフェ、コミックやフィギュアの専門店など、秋葉原や中野ブロードウェイを想起させるサブカルスポットが大人気だ。

「台北地下街Y区」は、台湾のアニオタが集まるサブカルスポット

© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 「台北地下街Y区」は、台湾のアニオタが集まるサブカルスポット

 バンコクの若者に「どんな日本語を知っているの?」と聞くと、「『つづく』という言葉」だと返ってきた。日本のアニメをよく見るタイの若者は、番組の最後に出てくる「つづく」という言葉が好きなのだという。今、バンコクでは、ひらがなで「つづく」とプリントされたTシャツが大流行している(本記事の冒頭の写真)。

 中国の若者たちが日本語を学ぶ際の教材は今やアニメである。日本語が流暢な学生に「日本語をどこで学んだの?」と尋ねると、十中八九「日本のアニメ」だと答える。先日も日本語学校の教師が「ほとんど勉強しない生徒が日本語検定2級に合格した」と驚いていた。その学生はアニメで高度なリスニング能力を身に着けていたのだ。

 日本動画協会がまとめた「アニメ産業レポート2018」によれば、日本のアニメ産業の売上規模は2017年に初めて2兆円を突破した。国内市場は2014年以降3年連続で減少したが、海外市場の売上げが規模拡大を牽引した。海外市場の売上高は2017年に9948億円となり、前年比29.6%と高い伸びを示した。

 コンテンツ輸出に期待をかける日本からすれば、アニメはこれから最も有望な分野と言えるだろう。同時に、海外市場で日本アニメがもたらす“化学変化”も、1つの見どころになるのではないだろうか。

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