なぜ40代男は嫌われる&生きづらいのか?

ちょっと間違えば、すぐに“嫌われ者”になりかねない中年男性。職場で女性社員に冗談を飛ばせば「オヤジギャグ」と言われ、喫茶店のおしぼりで顔をふけば「オッサンくさい」と言われる。

また、おしゃれをすれば「若づくり」と陰口を叩かれ、「たまには、妻と夜の営みを」と思っても、「そういう気分じゃないから」と拒絶される。ただでさえ、 社会の中で生きづらさを感じているのに、家庭内でも居場所がなくなってしまった……と打ちひしがれる中年男性も少なくないだろう。

では、なぜ中年男性は生きづらさを感じ、嫌われてしまうのだろうか? 武蔵大学社会学部助教で、2015年8月に『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)を上梓した田中俊之氏に、40男が嫌われ者にならないための心構えなどを聞いた。

●なぜ40男は生きづらいのか?

同書の中で、田中氏は「40男」を「団塊ジュニアだけではなく、30代後半~40代前半のすべての男性」と定義している。現在43歳の筆者は、まさに 「40男」だが、振り返ると、30代後半から漠然と生きづらさを感じることが多くなった。これまでは、その理由がなんなのか、はっきりとは自覚できなかっ たが、同書の中に、こんな一節を見つけた。

「僕ら40男の内面に目を向ければ、男は家庭を顧みず仕事だけをしていればいいという『昭和的男らしさ』と、ワークとライフのバランスに気を使い、家事や育児も頑張ろうとする『平成的男らしさ』の狭間に生きている。

(中 略)昭和的価値観の上の世代からは裏切り者扱いされ、かといって平成的な価値観の下の世代からは仲間とは認識されていない。自分の内側にある両面性に葛藤 しつつ、それでも闘う姿は人間と悪魔が合体したデビルマンと同じである。矛盾を経験し、苦悶し続けてきた僕らはデビルマン世代なのだ」

つまり、「40男」は上の世代の「昭和的な価値観」と下の世代の「平成的な価値観」の狭間に置かれているため、生きづらさを感じることが多いのだという。

「50代から70代の方たちも、昭和から平成の価値観の変化についていけていないと思いますが、彼らはその変化を無視して逃げ切ることも可能です。しかし、40男の場合、まだ20年以上も働かなければならず、新しい価値観を受け入れる必要があります。

かつて『乱暴』『不真面目』『大ざっぱ』といったものが『男らしい』とされた時代がありましたが、その価値観は急速に終わりを迎えました。終戦直後を除けば、これほど『男らしさ』のあり方が転換した時代も珍しいと思います」(田中氏)

●「自分だけはまだ若い」が一番嫌われる!

田中氏は、「嫌われる40男の特徴のひとつに、『自分だけは特別に若い』という勘違いがある」と語る。

「自分自身が持つイメージと現実の自分の間にギャップがあるにもかかわらず、それを理解せず、自分の中のイメージに基づいて生きている。そうすると、他人に迷惑をかける上、自分自身も、なぜ人生がうまくいかないのかがわからずに苦労することになります。

例えば、女性の新入社員に対して『いくつに見える?』と聞くようになったら、終わりだと思いますね。私が教えている女子学生には、40男にアルバイト先で このような質問を受けた場合、『年相応だよ!』と声を荒らげて返すように指導しています。勘違いさせてセクハラの被害に遭ったら大変ですし、お互い不幸に なりますから」(同)

なんとも辛辣だが、同書からは、まるで「40男は、女性に対して恋愛感情を持ってはいけない」といったニュアンスさ え感じられる。しかし、田中氏は40男の恋愛感情を否定しているわけではない。「もう大人なのだから、性的な視点のみで女性を評価する習慣から抜けましょ う」(同)というのが真意だ。

「独身で結婚願望がある場合、40男の方たちには、『他人からどう見えるか』ではなく、『自分がどう思うか』 を基準にパートナー探しをしてもらいたいと思います。厳しいことを言えば、若い女性に性的な関心を持っても、向こうはその気はまったくないですし、セクハ ラにつながる危険があるだけ。それを自覚するべきです。

アイドルの低年齢化に伴い、40男を含む一部の中高年男性の中には18歳未満の女の子を性的な目で見る人たちもいますが、それは犯罪的だと思います」(同)

もはやまぎれもないオジサンであるにもかかわらず、「自分だけはまだ若い」と思い込む40男たち。田中氏は、それが勘違いであるということを自覚してもら うために、あえて強い言葉を投げかけているのだという。切ない話だが、これは同時に「自分だけは違う」と勘違いしている40男が、それだけ多いということ でもある。

●中年になって真面目な話ができないほうが恥ずかしい

とはいえ、同じ中高年でも、40男は50代男性に比べると、まだデリカシーがあるようにも思える。しかし、「50代に比べれば、自分はまだまし」と安心しても、問題はなんら解決しない。

「先ほども言いましたが、50代は新しい価値観を受容しなくてもギリギリ逃げ切れる世代です。確かに、40男は上の世代と比べると柔軟な価値観を持ち、デリカシーを備えています。変われる可能性があるからこそ、厳しい言葉を並べて、自省を促しているのです」(同)

では、今後40男が嫌われず、生きづらさを感じることなく、自分らしく生きていくためには、いったい何が必要なのだろうか。

「自分 の人生を振り返る機会をつくり、今後、どう生きていくかを真剣に考えることです。仲間がいれば、その仲間たちと真剣に議論するのもいいでしょう。自分がど う生きるかについて議論するのは恥ずかしいと思うかもしれませんが、むしろ中年になって真面目な話ができないほうが恥ずかしいことです。

自分なりの価値の軸を見つければ、『嫌われる』『嫌われない』などということを気にする必要はありません。自分で考え、自分の人生を生きてほしいと思います」(同)

ちなみに、これまで田中氏は定年退職した多くの中高年男性を取材し、現役時代について話を聞いてきたが、「あっという間だった」「何をしていたのだろうと思う」「残念」など、否定的な意見が少なくなかったという。

田中氏は、その理由について「社会には学生時代のように『入学』『卒業』といった区切りが明確にないために、40年間があっという間に過ぎていってしまったのではないか」と分析する。

「自分の人生を振り返った時、そんなふうに思いたくない!」と願うのは、筆者だけではないはずだ。人生の折り返し地点を過ぎた今、40男は自分の生き方を振り返り、自分自身を見つめ直してみるべきなのかもしれない。
(文=青柳直弥/清談社)

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