トヨタの大ヒットCM「のび太のバーベキュー」篇。路線バスでバーベキューに出かけたのび太(妻夫木聡)はクルマで来たスネ夫(山下智久)に、しずかちゃん(水川あさみ)をあっさり連れ去られる。いつもの如く机の引き出しから登場したドラえもん(ジャン・レノ)に「クルマ出して~」と懇願するが、「ダメ、免許ないじゃん」と諫められる。CMのメッセージは「免許を取ろう」だ。
2011年11月22日付日本経済新聞の記事によれば、免許取得率は20代前半層は77.6%と4年で4.6%低下しているという。免許を取ってもクルマの購入にはハードルがある。ソニー損保が新成人1000人に実施したアンケートによれば、車を持たない理由として7割が「経済的余裕がない」と回答したという。
「若者のガム離れ」に対し、シェア6割のロッテはフィッツで「ガムの楽しさ」を訴求し復活した。しかし、低価格なガムと違ってクルマは「買いたくても買えない」 という現実がある。「若者のクルマ離れ」と揶揄する言葉が出ると、必ず若者側からは「離れているのではない、近づけないのだ!」と反対の論が起きる。机の引き出しから出てきたジャン・レノが、ドラえもんではなく不景気の元凶を探しだして、ぶち殺してくれるレオンだったらよかったのだが、コトはそんなにカンタンではない。
「楽しい」「便利」「カッコいい」でみんなが購入するのはもう無理で、クルマは嗜好品・贅沢品か、地方の生活の足と二極化している。
そんな環境下で、思いもよらぬ競合が登場している。同日同紙の記事に、「秋冬レジャー バスツアー若者も乗る 入場料・食事込みでお得感 免許証離れも影響」とある。中高年向けとのイメージが強いバスツアーの客層が変化しているのだ。はとバスによると、20代の利用者は全体の約2割と、この4年で倍増したという。
クルマの価値要素を分解して考えれば、中核的便益は「移動・輸送」だ。欠かすことのできない実体的価値は「デザインやインテリア、燃費や走行性能、安全装置」。魅力を高める付随機能が「サービス・メンテナンスやローンの支払い方法」などになる。
現在の若者のクルマに対するニーズは中核的便益の実現にしかないため、バスツアーが思いもよらぬ競合として登場しているのである。
地方においては公共交通機関が弱いため、自家用車の「移動、輸送」という車の中核価値が欠かせず、免許取得率も高い。都市部では代替手段が多く免許の絶対的必要性が低い。さらに長引く景気の低迷で、取得費用や車の購入費用を捻出するのが厳しい状況では、スネ夫よりものび太が主流になっていくのではないか。 また、「経験をシェアする」という価値観が高まれば、ツアー自体にテーマ性を持たせることによって同好の志と出会えるという、付随機能も提供できる。 そう考えると、「免許を取ろう」よりも、「バスツアー活況」の方が環境との整合性があるように思える。また、「免許を取ろう」であれば、その先にあるのは「クルマをシェアしよう」になるのかもしれない。
かつての若者は、DCブランドにはまってローン組んで服を買った。現在はファスト全盛。
可処分所得の低下と共に、見栄を張る、モノにのめり込むといった肩に力の入った消費は過去のものとなった。トヨタは業界1位の座にかけて、市場の縮小に歯止めをかけたいというキモチはよくわかる。しかし、ドラえもんに頼みたいのはトヨタ自身で、若者のニーズは既にそこにないのかもしれない。
「経験」を「シェアする」ことに重点が置かれるなど、人と人の付き合い方・関係は確実に変化している。それにつれて、モノとの付き合い方も変化しているはずだ。クルマありきで考えていると解は見えてこないだろう。