ふわふわで甘い「高級食パン」ブームに翳り 半年と持たず閉店する店舗も

2斤で800円は当たり前。時には1000円を超え、街のベーカリーショップの5倍以上の価格設定もある「高級食パン」が流行り始めたのは2018年頃のことだった。“手の届くぜいたく”感がその人気の理由とされているが、最近は人気に翳りが見えてきたようだ。

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 高級食パンブームの終焉を指摘する声は、SNSにも散見される。1月初旬に投稿された〈変な名前の高級食パン店がバタバタ潰れていて気持ちがホッコリしています〉というツイートには、約3500件のリツイートと約4600件の「いいね」が寄せられた。同じ意見の人は少なくないようだ。

価格と価値が一致していない?

「変な名前の高級食パン店」として挙げられているのは、ベーカリープロデューサー・岸本拓也氏が手掛けたパン屋だった。高級食パン店の開業支援を数多く行ってきた岸本氏は、ブームの仕掛け人としてメディアにもたびたび登場。肩まで伸びた髪につばの広い帽子をかぶり、サングラスをかけた奇抜な出で立ちをご記憶の方も多いだろう。

 プロデュースしてきた店の名前も、ルックスに負けず劣らず個性的。「考えた人すごいわ」(東京都清瀬市ほか)、「生とサザンと完熟ボディ」(神奈川県茅ケ崎市)、「夜にパオーン」(静岡県袋井市)など、一度目にすれば忘れられないものばかり。それゆえ閉店が悪目立ちしてしまった感は否めない。

 件のツイートで閉店した例として挙げられていたのは4店舗。だが調べると、昨年2021年だけでも15店を超える店舗が閉店していることがわかった。うち9店は開業から1年と経たずに店を閉めている。たとえば、昨年1月にオープンした「遅刻のすすめ」(兵庫県神戸市)は、同年11月に閉店。11月オープンの「あせる王様 ブレッドスタジアム検見川浜店」(千葉県千葉市)に至っては、開業からわずか1カ月で閉店している。

 2022年になってからも、1月15日に「偉大なる発明 福岡高宮店」(福岡県福岡市)が閉店したほか(移転予定)、1月末には「告白はママから」(東京都武蔵野市)が閉店予定。いずれも営業期間は1年半に満たなかった。

 高級食パン店の閉業は、岸本氏のプロデュース店だけにとどまらない。高級食パン店の“顔”的存在である「乃が美」でも、21年2月にオープンした「はなれ 鈴鹿販売店」(三重県鈴鹿市)が、1年ともたず12月末で営業を終了している。今後は移転予定とされているが、「乃が美」の400メートル先には岸本氏が手掛けた「マリリンの秘め事」があり、同じ鈴鹿市内には「HARE/PAN 鈴鹿店」「銀座に志かわ 鈴鹿店」「ねこねこ食パン イオンモール鈴鹿店」と、高級食パン店が乱立する環境だった。ブームの過熱と終焉を象徴するような出来事だといえるだろう。

 昨年2月にはモスバーガーも、予約販売で持ち帰り専用の食パンを売り出した。初回は約9万5000個が売れたが、2回目は約4万7000個と売れ行きは半減。9月には販売そのものを休止していた。

メーカー関係者は「高級食パン」をどう見ているのか

 そもそも高級食パンとは何なのか。さる大手パンメーカーの関係者は「あくまで一般論ですが」と断ったうえで、次のように語る。

「基本的には、我々がスーパーなどで販売する食パンに比べて“ふわふわで甘い”というのが高級食パンの最大の売りです。ただし大半が、特別に良い原材料を使っているわけではありません。甘さも、バターや生クリーム、ハチミツを多く混ぜ込んで作っているんです。まるで菓子パンのように感じられる商品もありますね」

 製法にも特徴があるようだ。

「普通の食パンは『中種法(なかだねほう)』という方法で、簡単に言うと生地をきちんと発酵させて作ります。そのぶん発酵時間をとらねばならず、生地を置いておく場所も必要なのですが、この製法ならば時間が経っても硬くなりにくく、日持ちするパンができます。対して高級食パン店は、大半が『ストレート法』という方法で作っています。こちらは発酵時間が短くて済み、それだけに省スペースの店舗でも大量生産しやすい利点がありますが、美味しさのピークは作った当日で、次の日には味が落ちる。また、焼くとあまり美味しくなく、“生”で食べるのを推奨している店が多いのもそれが理由です。我々のようなパンメーカーは日持ちしない商品を作るわけにはいかないので、高級食パン店のやり方は真似しづらいですね」

ブームありきのビジネス、ただし新機軸も

 マーケティングアナリストの渡辺広明氏は、高級食パンをめぐる現状について次のように分析している。

「結局のところ、高級食パンは価格と価値が一致していなかったという点に尽きるのではないでしょうか。閉業が相次いでいるとのことですが、そもそも営業する側も、長くビジネスをする気はなかったのではないかと思います。高級な食パンという目新しい商品で話題を集め、ブームありきで利益を出す、そうしたビジネスモデルなのではないでしょうか。ただ、ベーカリー業界では、堀江貴文氏が発案したエンタメパン屋『小麦の奴隷』が店舗を増やしているほか、高級食パンと共にフルーツサンドを推す新規店なども見受けられます。“近所のパン屋さん以外”という購買の選択肢は、定着したように思いますね」

デイリー新潮編集部

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