まだ下がる? デジカメ価格を急低下させた2つの要因とは

 デジカメの低価格化が止まらない。量販店のデジカメコーナーに足を運ぶと、発売されたばかりの最新モデルが驚くような安さで売られているのに目を疑った人もいるだろう。
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 特に低価格化が顕著なのがコンパクトデジカメ(レンズ一体型デジカメ)だ。これまでも、1万円台で購入できるコンパクトデジカメは存在したが、機能を絞った低価格モデルや型落ちになった旧モデルであることがほとんどだった。だが、近ごろは発売間もない現行の売れ筋モデルでさえ2万円を大きく切って売られることが多くなった。
 この理由は何なのか、今後も低価格化が進んでいくのかを、調査会社BCNの道越一郎エグゼクティブアナリストに聞いた。大きな要因は、新鮮味のないコンパクトデジカメの機能とデジタル一眼の躍進にある。
コンパクトデジカメ、販売台数は伸びるものの販売価格が低迷
 道越氏は、まず「デジカメが売れていないわけではない。昨年までと比べ、販売台数は大幅に伸びている」と話す。
 売れている理由として、「最新のコンパクトデジカメは1400万画素を超える高画素モデルが半数を超え、レンズのズーム倍率が高まって光学5倍ズームクラスが標準的になった。4~5年前に購入したコンパクトデジカメと比べて機能や画質の向上が実感しやすく、買い替えや買い増しによる販売台数の増加につながっている」と分析。BCNが調査した販売台数の推移グラフを見ると、確かに昨年秋から前年同月比での販売台数が連続して上回っており、好調に売れていることがデータからも分かる。
 だが、道越氏は「性能が向上して販売台数が伸びているにもかかわらず、販売金額は前年同月比割れが続いている」と指摘する。コンパクトデジカメの単価が下がっているからだ。「すでに平均単価は1万8000円を切っていて、店頭では1万5000円前後の機種もよく見かけるようになった」という。
 「まだデジカメが進化中だった4~5年前の古い機種と比べれば、最新モデルは目覚ましい進化が感じられる。だが、2~3年前の機種と比べるとそれほど新鮮味がなく、ユーザーの買い替え需要が喚起しづらい。売れないから価格を引き下げる…という悪いスパイラルに陥りやすい。それが急激な価格下落の大きな要因になっている」。
【コンパクトデジカメ】販売台数と金額の前年同月比、平均単価の推移グラフ
【コンパクトデジカメ】販売台数指数の推移グラフ
【コンパクトデジカメ】販売金額指数の推移グラフ
【コンパクトデジカメ】平均単価の推移グラフ
【コンパクトデジカメ】メーカー別の販売シェアと前年同月比の販売台数の推移グラフ
デジタル一眼、販売価格の下落を食い止めつつ販売台数が急伸
 続いて、デジタル一眼(レンズ交換型デジカメ)の動向を聞いた。「平均単価は下がっているが、コンパクトデジカメほどの極端な下落ではなく、価格をしっかり維持している」という。グラフを見ても、販売台数と販売金額の両方が上向きに伸びており、平均単価も横ばいで推移していることが分かる。特に、8月からは販売台数が前年同月比の160%超と急伸している。
 好調なデジタル一眼をけん引しているのが、デジタル一眼の中で3割近くの構成比を持つほどに成長したミラーレス一眼だ。一眼レフカメラのスタイルを継承するデジタル一眼レフカメラは、コンパクトデジカメと形状の違いが大きく、一般ユーザーにとってステップアップの大きな障壁となっている。それに対し、多くのミラーレス一眼は「小型でスリムなボディーと簡略化された操作性を持ち、コンパクトデジカメからステップアップしやすい点が構成比の拡大につながっている」と分析する。
 現状、キヤノンとニコンの2大カメラメーカーはミラーレス一眼を発売していない。だが、道越氏は「この2社は、長年培ってきた光学設計のノウハウを持っているのが強みだ。電子的な画像処理はメーカー間の差が付きにくいが、日本のお家芸といえる光学設計は一朝一夕ではいかない。ミラーレス一眼は家電メーカー中心で先行しているが、この2社の動向で市場が大きく左右される可能性がある」と語る。
 2010年のデジタル一眼は、斬新なデザインと高い性能で話題を呼んだソニーのミラーレス一眼「NEX-5」「NEX-3」、圧倒的な高速連写と高速 AF性能を誇るソニーの「α55」「α33」、完成度の高さが評判のニコン「D7000」など、ミラーレス一眼以外にも多くの機種が登場。いずれも、発売直後に品薄になるほど人気が高く、発売後も価格下落が緩やかに推移した。指名買いされるヒットモデルの存在が価格下落を阻止している要因といえよう。
【デジタル一眼】販売台数と金額の前年同月比、平均単価の推移グラフ
【デジタル一眼】販売台数指数の推移グラフ
【デジタル一眼】販売金額指数の推移グラフ
【デジタル一眼】平均単価の推移グラフ
【デジタル一眼】メーカー別の販売シェアと前年同月比の販売台数の推移グラフ
価格下落を食い止めるデジカメの新たな軸の登場に期待
 デジカメ全体におけるコンパクトデジカメとデジタル一眼の販売台数の比率は9:1と、コンパクトデジカメが圧倒的に勝る。だが、金額構成比は4:6と逆転している。道越氏は「デジタル一眼は“ある程度お金を出してでも買いたい”と消費者を説得する力のある商品が多い。だが、コンパクトデジカメはそれが足りない。買い替えユーザーの需要を掘り起こし、価格下落を食い止めるためには、機能や装備の面で新しい軸の提案が必要だろう」と述べた。
 その1つに、2010年話題になった「3D」を挙げた。「ソニーのCyber-shotシリーズやNEXシリーズは、スイングパノラマ機能を応用した 3D写真撮影機能を搭載して話題になった。既存のハードウエア構造のまま3D撮影に対応できるのが魅力だ。多くの機種に同等の機能が盛り込まれれば、デジカメの新たな魅力が実感できる」と変化を期待した。
 防水デジカメが増える可能性もありそうだ。「防水仕様が急激に増えてきた携帯電話を横目に、防水デジカメの構成比はまだ1割にも満たないのが現状だ。シュノーケリングなどの本格的なマリンスポーツ用途に限らず、ふだん使いにおいても防水デジカメのメリットはある」と見る。「防水設計のためのコストがかかるので爆発的に増えることはないと思うが、今後防水仕様かどうかが機種選びのポイントになる可能性は高い」とのことだ。
(文/磯 修=日経トレンディネット)

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