みんなの顔文字アプリに忍び寄る中国企業

LINEなどのチャットツールが盛り上がっています。表情豊かなキャラクターのイラスト(スタンプ)を駆使して、文字だけでは伝えきれない微妙なニュアンスが伝達できるのも人気の一因でしょうか。
 ところで、「みんなの顔文字辞典」というアプリをご存じでしょうか。これは、“みんな”が登録した顔文字を1タップでコピーできるアプリで、iPhone版とAndroid版がリリースされています。利用者はコピーした顔文字をLINEなどで自由に使えます。
 このアプリが今、トラブルに見舞われています。日本語変換ソフトを提供するバイドゥ(中国の検索最大手Baiduの日本法人)のIPアドレスから、短時間に30万回を超える不審なアクセスがあったのです。バイドゥといえば、2013年12月に「Baidu IME」と「Simeji」を使って入力された文字列が、ユーザーに無断で外部サーバに送信されていたこと(参考記事)で問題になったばかりです。
 一体何が起きているのか、「みんなの顔文字辞典」を提供するIO Inc.の石本光明さんに話を聞きました。
●みんなで集めた顔文字が奪われていく
 「みんなの顔文字辞典」は、利用者が作った顔文字をサーバーに保存し、それを石本さんが作ったアプリで取りに行くという仕組みで動いています(その仕組みは非公開です)。
 2014年4月11日、サーバーに過大な負荷がかかっているというメールが石本さんに届きます。急いで確認すると、短時間に30万件を超えるアクセスが来ていて、アプリの動作も重くなりました。これまでもテレビなどで取りあげられたときにアクセスが集中することはありましたが、ちょっとおかしいことに気が付きます。
・短時間に特定のIPアドレスから、「みんなの顔文字辞典」に特化した形式でアクセスがある
・1秒間に10〜100回のアクセスがあり、毎回IPアドレスが変わっている
・クラウド変換で使うような「話し言葉」の単語が多数送られている
・「検索エンジンなど、機械的なアクセスはしないでください」という技術的な仕組み(robot.txt)を完全に無視している
 ここから想像できることは、「みんなの顔文字辞典」に登録されている100万種類以上の顔文字を、非公開のアクセス手段を使って第3者が入手し、そのデータを流用しようとしているのではないかということです。
 IPアドレスを調べれば、異常なアクセスをしてきたのがバイドゥだと分かります。石本さんはTwitterを通じて同社の公式アカウントに問い合わせましたが、最初のうちこそ「確認します」と返事をしていたバイドゥは、次第に反応が遅くなり、2014年4月17日の問い掛け以降、沈黙しています(このやりとりの様子はTogetterにまとめられています)。
●見えない落としどころ、私たちにできるのは「忘れないこと」
 石本さんは威力業務妨害での被害届を出すことも考えているといいます。現在進行形の事案のため、Togetterで公表した以上のコメントが出せません。
 今回の顔文字事件については、落としどころが見えないという点で非常に暗い気持ちになります。このような“ただ乗り”がまかり通るならば、いったい誰がアプリやサービスを作ろうと思うでしょうか。
 筆者は、このような事件が起きていることを多くの人々に知ってもらい、忘れないでいてもらうことが重要だと思っています。今、応援できるのは、オリジナルアプリである「みんなの顔文字辞典」をダウンロードして、「こっちの方がいいよ」と知人に伝えることくらいしかできません。引き続き、注目していきたい事件です。

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