2千円札が発行され今年で14年が経過した。日本銀行によると、流通量は平成16年8月の5億1300万枚をピークに減り、今年はついに1億枚を割り込み9千万枚台に落ち込んでいる。まち中で見かけることはあまりない。原因は現金自動預払機(ATM)からの出金ができず、自販機で利用できないなど、使い勝手の悪さにあるとみられ、専門家は「紙幣として体をなしていない」と発行した国の見通しの甘さを指摘する。ただ、沖縄県は例外で、ATMでも出金可能なところが多く、発行翌年13年4月の157万1千枚から今年はほぼ3倍の450万枚前後で推移。県人口は日本の1%あまりだが、2千円札の流通では5%近くに達している。(張英壽)
■「何年も見ていない」
「2千円札ですか。何年も見ていないですね。(人がいる)お店じゃないと使えないので不便。自販機はだめ。2千円札はないほうがいいんじゃないですか」
大阪・ミナミで2千円札について尋ねると、大阪市住吉区の女性会社員(38)はこう話してくれた。ほかの人も何年も見ていないと答えた。「釣りでもらったら千円札に代えてもらう」という声もあった。
全国でコンビニを展開するローソンによると、かつて店内のATMで出金も入金もできたが、18年から21年にかけ機種変更したのに伴い、ほとんどの店舗で入金はできるものの出金ができなくなった。機種変更前は出金した場合、自動的に2千円札が入っていたが、ATMで扱うのは1万円札と千円札になっている。
ローソンの広報担当者は「ATMの保守管理の面もあり、紙幣の種類を少なくしたほうが効率的」と説明する。
銀行ではどうか。三菱東京UFJ銀行でもATMは全台が2千円で入金できるが、出金されるのは1万円札と千円札のみという。
大手金融機関など国内ATMの2分の1の稼働状況を監視している「日本ATM」(東京都港区)によると、2千円札はATMの多くで入金は対応できるものの、出金はできないという。
近畿でスーパーを展開する「ライフコーポレーション大阪本社」(大阪市淀川区)では、各店のレジで2千円札が使えるが、レジはつりとしては2千円札が出ないようになっている。
一方、2千円札の鉄道券売機の対応では会社によって対応が分かれている。
関西では、JR西日本が使え、近鉄でも一部の古い機械以外は使用可。京阪電鉄では、京都市と大津市を走る大津線以外では対応している。これに対し、阪急電鉄では2千円札は使えない。
■日銀に大量「在庫」
2千円札が発行されたのは、平成12年7月。政府は、米国の20ドル札や英国の20ポンド札など世界では「2」のつく紙幣が多く使われ、利便性が高いと判断した。同年開かれた沖縄サミットに合わせ、発行され、紙幣のデザインは那覇市にある守礼門が採用された。
ところが、月末ごとの流通量を出している日本銀行の統計によると、5億枚を超えた16年までは順調に伸びたものの、その後激減。17年に4億枚、3億枚をそれぞれ切り、18年には1億枚台になった。その後はゆるやかな下降線をたどり、今年3月ついに1億枚を下回る9千900万枚にまで減少。7月まで同じ数値が続いている。
1万円札や千円札、5千円札を含め紙幣全体の流通量の中で2千円札の比率をみると、流通量が最高だった16年8月には5千円札(4・2%)を抜き4・7%まで高くなったが、今年7月には0・8%にまで落ちる一方、5千円札は4・7%に増えている。7月で最も比率が高かったのは1万円札で64・2%、次いで多いのが千円札で30・3%だった。
また、2千円札は、発行された平成12年度に7億7千万枚、15年度に1億1千枚の計8億8千枚つくられたが、その後製造されていない。流通量が1億枚に満たない中、破損などで処分された紙幣を除く大量の「在庫」が日本銀行に保管されている。
■沖縄では官民一体で普及
こうした全国的な傾向と全く異なるのが沖縄だ。
「2千円札はおつりで普通にもらいますし、財布に何枚か入っていますよ」と話すのは沖縄県での普及に力を入れる日銀那覇支店の担当者。「沖縄ではATM、モノレールの券売機、スーパー、コンビニ、タクシー、自販機で使われている」と明かす。県の流通量は発行当初は減少したが、その後はゆるやかな増加傾向を続けている。
同じく普及に取り組む沖縄県観光振興課では、職場で毎月給料のうち1万円分が、2千円札5枚にして渡されているという。
日銀那覇支店によると、2千円札デザインに那覇市の守礼門が使われたことや、沖縄サミットを契機に発行されたことなどから普及。17年には、同支店を事務局として、沖縄県知事や首長、沖縄の地方銀行関係者がメンバーとなった「二千円札流通促進委員会」が結成され、官民一体でさまざまな取り組みに着手した。ATMを2千円札対応にすることや、ポスター掲示、ホテルでは2千円札を使用すると得になるプランを用意するなど、2千円札を使える環境を整えた。
委員会は、2千円札をPRする「二千円札大使」の認定にも取り組み、県内外の多くの人が協力。認定証の発行数は約14万枚に達した。
こうした県民運動の成果もあり、県内に63支店ある沖縄銀行によると、支店やコンビニ、ショッピングセンターなどにあるATM490台のうち、ほほ半数にあたる243台が2千円札対応になっている。また県内に75支店を構える琉球銀行では今年9月末時点で、計357台のATMのうち、半数近い166台が2千円対応。両銀行とも2千円札の入金、出金ともできる。
■ローソン沖縄は例外
一方、ATMの2千円の出金をやめたローソンでは実は、沖縄県内の店舗にある167台では、その2千円の出金を続けている。「2千円は沖縄ではなじみがあるので」と広報担当者は説明する。
委員会は23年3月に所期の目的は達成したとして解散したが、それ以降も流通量は増えている。
日銀那覇支店のホームページでは、2千円札普及の取り組みの例をあげており、小売りやホテル業界で釣り銭として使うことや、いろいろな会合で参加費を徴収する際に2千円札にするよう呼びかけることなどを記している。この中には、「県外への出張時には極力2千円札を持参・使用し、PRに努める」という項目もある。
日銀那覇支店の担当者は「2千円札は便利。たとえば4千円の場合、2千円札は2枚ですみ、千円札を4枚持つより、少ない枚数ですむ」と強調。「券売機や自販機、ATMで使えるようにするにはコストがかかるが、それをすれば便利になる。ATMで扱う紙幣の枚数が減り、機器の小型化もできる。紙幣の物流が減り、業務の効率化になる。結局環境が整っていないから全国的に普及しない」とみている。
■「国の政策判断ミス」
ただし、2千円札は沖縄以外では、ATMや自販機など使用環境が整わず、流通量の減少傾向が止まらない。こうした現状について専門家はどう思っているのか。
貨幣の流通に詳しい聖学院大学の柴田武男教授(金融市場論)は「紙幣は支払うためにあり、だれでも受け取ってうれしいはずのものだが、そうなってはいない。人々は受け取ったら別の紙幣に変えてほしいと思うのではないか」とし、「紙幣としての体をなしていない」とみる。
国は発行当時、2千円を発行することで、使う紙幣の種類が増えるために便利になり、普及すると予想したが、柴田教授は「普通の人たちは、財布にいくら入っているかは把握しているが、支払いのことを考えて、どの紙幣が何枚入っているかまでは意識していない」と話す。また現金志向が強い日本でも電子マネーやクレジットカードによる支払いが広がっていることをあげ、そうした変化の流れを政府が「政策判断で見落とした」と指摘した。
さらに今後も流通量が増えることはないとし、「2千円札の発行は、日銀が考える世界と、普通の人が考える世界が違うということを示した」と厳しい見方をした。