よみがえったイタセンパラ、淀川で8年ぶり繁殖 府や住民の活動実る

生態系保全の象徴として「淀川のシンボルフィッシュ」とされながら、大阪府内の淀川で一度は姿を消した国の天然記念物の淡水魚、イタセンパラ。今年は、8年ぶりに野生の状態での繁殖が確認された「復活の年」となった。大阪府立環境農林水産総合研究所水生生物センター(同府寝屋川市)や沿岸の子供たちなど、官民が手を携えた地道な活動が着実に実を結びつつあり、関係者は「地域の宝」のさらなる繁殖に期待を寄せている。
 イタセンパラは日本固有の淡水魚で、環境省のレッドリストで最も絶滅の危険性が高い希少野生生物に位置づけられている。流れがゆるやかな浅い水域を好み、かつては「わんど」と呼ばれる淀川の本流沿いに土砂がたまってできた池状のたまりに数多く生息。平成13年の調査では7839匹の稚魚が確認された。
 しかしその後、琵琶湖から下ったブラックバスやブルーギルなどの外来魚が繁殖し、生態系が変化。護岸工事によるわんどの減少が重なり、18年には大阪の淀川から完全に姿を消した。
 復活を目指し、同センターと淀川を管理する国土交通省淀川河川事務所は、21年と23年に稚魚を500匹ずつ淀川に放流。22年には133匹の生息が確認されたが、稚魚がすむ二枚貝が大雨による増水で流れ、繁殖に失敗した。
 それでも、24年には放流魚から生まれた216匹の稚魚を確認。今年は966匹と大幅に増えた。イタセンパラは1年で寿命を終える魚が多く、今年の稚魚は、17年以来途絶えていた野生の状態での繁殖を裏付ける成果となった。
 復活の裏には、官民連携した保全への努力があった。10月には、大阪市旭区の淀川左岸に広がる「城北(しろきた)わんど」で、地元の小中学生約45人を招いた行政機関主催の放流会が行われた。
 イタセンパラは、希少性の高さや見た目の美しさからネットオークションなどでの売却目的に密漁する動きがあり、これまで放流場所は非公開だった。しかし「地域の人も参加できるような保全活動にしたい」と初めて公開に踏み切った。密漁防止のため、行政と地域住民が連携した巡視活動も始まった。
 シンボルフィッシュを守る動きは、ほかにも活発化している。同センターは、子供たちにイタセンパラについての知識を深めてもらおうと、淀川沿岸の小学校に職員が出向く「出前授業」を開催。市民団体「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」(寝屋川市)と行政機関が連携し、外来魚駆除を目的とした釣り大会も開かれた。
 着実に成果が表れつつあるイタセンパラの保全活動。同センターの上原一彦主幹研究員は「長期的な生物の保全には地域ぐるみの協力が不可欠。『地域の宝』として地元住民が誇れる存在になれば」と話している。
【用語解説】イタセンパラ
 コイ科の淡水魚でタナゴの一種。国の天然記念物で、環境省のレッドリストで最も絶滅危険性の高い「絶滅危惧IA類」に指定されている。琵琶湖、淀川水系、濃尾平野、富山平野に生息し、大きさは約10センチ。秋の繁殖期に雄は薄い赤紫色に染まることから「板鮮腹」と呼ばれる。

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