ららぽーたーに漂う「セレブ臭」のナゾ

ショッピングモールに数回行った程度のモール初級者は、「どこも同じだなあ」と思うかもしれない。だが、いろいろなショッピングモールに何度も行っている中・上級者は、違いがわかる。スーパー系のモールはどうしても“生活臭”があるのに対し、ららぽーとには不思議な“セレブ臭”が漂う。入っているブランドのファッション感度が高く、ららぽーたーは何となくオシャレである。
このDNAはいつ頃、組み込まれたのか。ららぽーとの歴史と共に解析していく。
34年の歴史を誇る、ららぽーとTOKYO-BAY
ららぽーと1号店は、1981年に千葉県船橋市でオープンした。現在の名称は、ららぽーとTOKYO-BAY。イオンレイクタウンに次ぐ国内2位の規模で、店舗数は約460。
精肉の安さと品質が強みのロピア
開業から34年、増床とリニューアルを重ねてきた。2013年12月、南船橋に国内3位の規模となるイオンモール幕張副都心が現れたが、その直前の11月末に、西館をリニューアルオープン。ファミリー向けのニーズに対応して「ポケモンセンター」、デイリーニーズに対応して神奈川を中心に展開するスーパー「ロピア」を誘致した。
フタを開けてみれば、2013年12月の売り上げは過去最高を記録。老舗モールの底力を見せつけた。
その後も絶え間なくリニューアルを続け、今年3月に南館の75店舗を一新、6月には南館の新ゾーンに新ブランド28店舗をオープンして、「日本初出店」「千葉初出店」「ショッピングモール初出店」のブランドを数多く集積した。商業施設内の“衣装替え”が実に目まぐるしい。
しかし、34年の年月のせいか、古さを感じさせる設計や設備もある。ららぽーとを開発・運営する三井不動産の商業施設運用部長、青柳雄久さんはこう話す。
三井不動産の青柳雄久さん(撮影:尾形文繁)
「商業施設は、出来上がったときが最も話題性があり、後は経年劣化すると言われがちですが、私たちが力を入れているのは“経年優化”。年が経つほど魅力あるものにリニューアルしていっています。34年も経つと、小さい頃にご両親に連れられてやってきたお客様が、今度はお子様を連れて、おじいちゃん、おばあちゃんとやってくるといったことが今、起きています」
親子3代を引きつけ、飽きさせない大きな理由のひとつは、やはり変化し続けるファッションブランドにある。「共通する特徴は、高感度で、かつラグジュアリーではない、お求めやすい価格のブランド」(青柳さん)。
まず1980年代後半に、コムサデモードなどの「都市型DCブランド」を入れたのは始まりだ。
2000年には、セレクトショップのユナイテッドアローズによるグリーンレーベルリラクシング、アフタヌーンティー、アニエスベーといった「平成ブランド」を入れ、「ファッション感度をぐっと上げた。郊外型モールとしては特筆すべき出来事」(青柳さん)。
2000年以降、さらに高感度なブランドを誘致すべく、国内セレクトショップのビームス系、シップス系のブランド、海外のファストファッション系であるZARA、H&M、フォーエバー21、アルマーニ・エクスチェンジを誘致。直近では、ZARAの姉妹ブランドであるストラディバリウスを入れた。
郊外型モールとしては外資系のファストファッションを早くから出店したので、海外のブランドから「1号店を出店したい」との申し出が多い。国内でも、試験的な1号店の出店先として、ららぽーとTOKYO-BAYを指名されるという。
最近、服から生活雑貨までをそろえ、ライフスタイルを提案する新業態が増えており、ZARAホーム、シップスデイズ、ニコアンド、スタジオクリップ、ベイフローを入れた。ニコアンド、スタジオクリップ、ベイフローは、特集2日目の記事で紹介したアダストリアホールディングスのブランドだ。
シップスデイズ
シップスデイズの1号店は、ららぽーとTOKYO-BAYにある。シップスの商品部課長、長瀬雄一さんはここで始めた理由について、「都心感度が高く、商圏が広く、幅広い客層に支持されているので、トライアルするには最適」と説明する。
こうして、ららぽーとTOKYO-BAYは、つねに鮮度の高いショッピングモールであり続けているのだ。
では、高感度なブランド側は、どのような目的でショッピングモールに出店するのだろうか。
ユナイテッドアローズは今年25周年を迎える老舗セレクトショップだ。店舗開発部部長の長南貴士さんによると、立ち上げた当初は客層をかなりセグメントし、ブランドロイヤルティを保つために「全国で24店舗まで」という出店の制限をかけていた。その限られた客層が「卒業していく」、あるいは「入り口から入ってこられない」という問題が年々生じてきた。
「卒業していく」客とは、たとえば結婚して子どもができ、財布のひもが固くなった人たちだ。それでも独身時代と同じように高感度な服を着たいというニーズがある。「入り口から入ってこられない」客とは、そもそも店舗数が限られているので接点が少ない。
そこで、「ユナイテッドアローズよりも少しお求めやすい価格のブランドを立ち上げ、より幅広いお客様に認知していただくためにショッピングモールや駅ビルに出店しました」(長南さん)。それが、グリーンレーベルリラクシングである。
ユナイテッドアローズの平均単価は約1万7000円、グリーンレーベルリラクシングは9000円。高感度はそのままに約半値だ。ユナイテッドアローズはメンズとウィメンズのみだが、グリーンレーベルリラクシングは、ファミリー層に向けて、メンズ、ウィメンズ、キッズに分けた。さらに、メンズとウィメンズはスーツやジャケットなどの「ドレス」以外に、新たに「カジュアル」を作った。
「2000年の立ち上げから15年で約60店舗を出店。今や、ユナイテッドアローズの中でいちばんの稼ぎ頭になっています」(長南さん)。
ブランドを卒業した人の受け皿と、ブランドへの入り口を作る。セレクトショップがショッピングモールに出店するのは、こうしたメリットがある。
さて、千葉でのイオンモールとの対決はららぽーとが牙城を守ったカタチだが、埼玉での対決は逆に、2008年に開業した国内最大規模のイオンレイクタウンに対し、2009年にららぽーと新三郷を開業して攻め込んだ格好だ。
「大きさでは勝てないので、イケア、コストコというメガストア系の専門性の高い店舗にお声かけして来ていただき、お客様の買い回りを考えた土地の活用をしました。開業3年後には駅前の土地に別館を建てて、H&Mに入っていただいた」と青柳さんは戦術を語る。
ららぽーとのDNAは、ファッション以前に不動産業であった。もともと新三郷駅周辺は三井不動産の土地。だから、同社主導でイケア、コストコ、H&Mをハコ呼びできる。そのうえ、周辺に戸建てを270戸、14階建てのマンションを建設した。ディベロッパー系モールの底力だ。
ららぽーとの周りに町ができるのではない。町ごと開発してその中にららぽーとを作るのだ。ららぽーと豊洲、ららぽーと横浜、ららぽーと柏の葉も、住宅と一緒に開発している。
ららぽーと豊洲と湾岸
当然、周辺の人口が増える。特に、2006年10月に開業したららぽーと豊洲周辺は顕著で、江東区豊洲の総人口は、開業前の1万3021人(2006年1月1日)から2万9017人(2014年1月1日現在)と2.2倍に増加した(江東区のデータ)。豊洲のタワーマンションに住む裕福な主婦「キャナリーゼ」も現れた(周囲が「運河=キャナル」であることが語源)。
三井不動産のタワーマンション「パークシティ豊洲」は、ららぽーとにつながる住人専用の地下通路を設けているという。雨の日も風の日も優雅にお買い物。「キャナリーゼ×ららぽーたー」はセレブっぽさを漂わせている。
ブランド作りと町作りが得意な三井不動産。東京大学柏キャンパスや千葉大学がある柏の葉に、その「知」を生かした「柏の葉スマートシティ構想」を立ち上げ、「健康長寿、環境共生、新産業創造の実現を目指す街づくり事業」を進めている。その一環として、2014年4月、ららぽーと柏の葉の北館に、イノベーションラボ「KOIL」をオープンした。
ショッピングモールがある町の未来やいかに。ただ今、トライアル&進化中だ。

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