アサヒ、ビール首位も吹く逆風 飲食店消費が過半のスーパードライじり貧に

かつての“王者”キリンビールを「スーパードライ」で追い落としたアサヒビールが苦しんでいる。飲食店では1杯目からハイボールなどを選ぶコストパフォーマンス重視の消費形態が浸透し、売り上げの過半を飲食店用で稼ぐスーパードライへの逆風が吹きやまないためだ。気温の上昇とともに、ビール各社のシェア競争も熱を帯びてきた。

アサヒ、ビール首位も吹く逆風 飲食店消費が過半のスーパードライじり貧に

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 安く飲むトレンド

 「(国内で製造・消費される)ビールの約半分がスーパードライだ。ポテンシャルは失っていない」。3月に就任したアサヒの塩沢賢一社長は、今年のスーパードライ販売で、昨年実績比1.5%増という強気の計画を維持する。

 外食機会の多い若者を取り込むため、ブランド初の334ミリリットルの小瓶「スーパードライ ザ・クール」を4月から飲食店専用に投入。スポーツバーやクラブなどで、ボトルからそのまま飲むスタイルを提案し、「ビール離れ」が指摘される顧客層を開拓する。

 また、生ビールを0~マイナス2度という氷点下の温度帯で提供する飲食店専用の「スーパードライ エクストラコールド」は、よりきめ細やかな泡を作る機器に変更し、導入店約8000店のうち6月末までに約5000店で切り替える計画だ。

 1987年に誕生したスーパードライで、下落し続けていたアサヒの市場シェアは急上昇に転じた。キリンの「ラガービール」のような苦みのあるビールではない、辛口という日本初の提案と強固な営業力で、飲食店から家庭の食卓まで“銀色”に塗り替えた。2001年、アサヒはビール類市場でキリンを追い抜き首位となった。

 対するキリンは低価格の第3のビール「のどごし〈生〉」の成長で09年に首位を一度は奪還。だが、アサヒも第3のビール「クリアアサヒ」などで対抗し10年以降は首位に立ち続ける。

 1985年規模まで縮小

 足元では、キリンが昨年3月に発売した第3のビール「本麒麟」で巻き返し中だ。今年1~4月のビール類販売数量の前年同期比の伸び率は、市場の伸び以上のプラスをたたきだし、首位に立った。

 もっとも、長期的にみれば、人口増と女性の飲用機会増で拡大したビールは、食の多様化に伴うワインや焼酎、ハイボールなど他の酒類の振興で縮小に転換。発泡酒、第3のビールを含めたビール類市場は昨年まで14年連続の右肩下がりで、スーパードライ登場前夜の1985年と同程度まで縮小している。

 アサヒは2017年、発売30周年のスーパードライで販売促進を強化。だが、目標とした16年の販売実績1億ケース(大瓶20本換算)並みには届かず、18年は保守的に立てたマイナス目標も未達で、想定以上の低迷で終わった。ビールシェアで昨年48.6%と首位を確保したものの、アサヒの塩沢氏が、主力商品のさらなる落ち込みに危機感を募らせる理由はここにある。

 一方、キリンの布施孝之社長は、大手ビール会社でつくるビール酒造組合などが今年からビール類の課税出荷量の発表をやめたことや、来年から26年まで段階的にビール類の酒税が一本化されることを契機に「目先の量での勝負からは決別する」として、「一番搾り」ブランドを長期的に強化していく姿勢だ。

 改元の祝賀ムードからの「乾杯需要」で4月下旬からの10連休のビール販売は好調で、サントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」、サッポロビールの「黒ラベル」「エビスビール」もその恩恵を受けた。この勢いを夏につなげようと、サントリーは缶に付けてきめ細やかな泡を作る機器のセット販売を強化するほか、サッポロは地方8都市での黒ラベル体験イベントを通じて食卓での地位確保を狙う。

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