ホンダ関係者がジャーナリストに漏らした一言とは?
2026年からアストンマーティンと組んでF1に復帰するホンダ
2021年のレースを最後にF1から撤退したものの、今度はアストンマーティンと手を組んで復帰すると表明したホンダ。この予想外の決定の裏では、何が起きていたのか? 「写真3枚】アストンマーティンと組んだ本当の理由とは? キーマンはこの人! わずか3年で方針を大転換! ホンダ、F1復帰の舞台裏 ◆ブランドイメージに役立つ ホンダは2026年からアストンマーティンと組んでF1に復帰することを決めた。彼らが21年限りでF1から撤退すると発表したのは20年のことだから、わずか3年で方針を大転換したことになる。 なぜ、このような事態になったのか? ホンダがF1休止を決定したのは、F1に従事していた技術者をカーボン・ニュートラル部門に異動させるのが主な目的だった。その後もホンダはレッドブルの要望によりパワーユニットを継続して生産してきたが、規則で技術開発が禁じられたため、計画どおり社内の配置換えは完了。彼らの所期の目的は達成されたのである。 しかし、21年にマックス・フェルスタッペンがチャンピオンに輝いたのに続き、22年にはチームとドライバーの両部門でタイトルを獲得。しかも、ここにホンダ製パワーユニットが大きく貢献していたことが広く知られた結果、F1での成功がブランドイメージの向上に役立つことに、ホンダは遅ればせながら気づいたようだ。 くわえて、ネットフリックスが製作したF1番組が北米で大人気を博したことも、アメリカを大市場とするホンダにとっては追い風となったはずだ。 であれば、押しも押されもせぬトップチームのレッドブルと再びタッグを組めばいいものの、ホンダが参戦終了を発表したのを受けてレッドブルは独自路線を模索。結果として彼らはフォードと提携し、パワーユニットを独自に開発・生産する方針を固めてしまった。 しかも、レッドブルを除けばF1チームの上位陣は自動車メーカーのワークス系ばかり。ただし、アストンマーティンだけはパワーユニットを自社開発せず、メルセデスAMGから供給を受けていた。くわえて、今年は空力開発が成功を収めて大躍進。第8戦終了時点でレッドブル、メルセデスに続く3位の好ポジションにつけている。レッドブルと再提携する道が閉ざされたホンダにとって、アストンマーティンへのパワーユニット供給は“セカンド・ベスト”な選択だったといって間違いない。 26年に実施されるF1規則の大改革では、ハイブリッド式パワートレインが大きく見直され、パワー全体に占めるモーター出力の比率が従来の20%からおよそ50%まで引き上げられると同時に、カーボン・ニュートラル燃料の全面的な採用が確定。こうして、2050年までのカーボン・ニュートラル実現を目指すホンダと方針が一致したことも、F1復帰を促す原動力となったようだ。 ◆強いリーダーシップに期待 もっとも、26年のレギュレーション改正は以前より予想されていた既定路線。その内容によって、F1参戦のように企業活動の根幹に関わる部分まで方針を見直すようでは、大企業の経営陣として心許ない。今後は、周囲の状況によって経営判断をコロコロと変えるのではなく、遠い将来を見据えた戦略に基づき、骨太なF1活動計画を策定してほしいものである。 いっぽうで、とあるホンダ関係者は、アストンマーティンを率いるローレンス・ストロールのリーダーシップに強い期待を寄せていると語った。 レッドブルがF1のトップチームにのし上がってきたのは、同社の創設メンバーであるディーター・マティシッツがF1チームの強化に積極的に取り組んできた結果とされる。そのマティシッツは昨年、惜しまれながらこの世を去ったが、現在のストロールからは、かつてのマティシッツを髣髴とする情熱が感じられるそうだ。「これこそアストンマーティンと組んだ最大の理由」と、さるホンダ関係者は私に教えてくれた。 いずれにせよ、ホンダF1がこれまで何度も私たちの心を熱くさせてくれたことは紛れもない事実。幸いにも今回は実質的な休止期間なく活動を再開するので、参戦初年度からトップクラスのパフォーマンスを発揮したとしても不思議ではなかろう。アストンマーティン・ホンダの活躍を心から期待したい。 文=大谷達也 (ENGINE2023年8月号)