”アップル化”狙う、マイクロソフトの野望 モバイル企業へと駆け上がれるか

本連載は、GAFAに関するトピックを毎週1つないし複数採り上げながら、米国・シリコンバレーを中心とするIT事情を定点観測的にお伝えしていく。今回も、引き続き、マイクロソフトだ。スティーブ・バルマーCEOが退任し、1年以内に後任を指名するとのニュースがあった翌週、マイクロソフトはノキアの携帯電話部門と知的財産権を併せて54億4000万ユーロ、およそ7130億円で買収すると発表した。
■モバイル時代への最終切符?
マイクロソフトは、いまもなお「帝国」と呼ばれる世界最大のソフトウエア企業である。ウィンドウズやオフィスなどは今も業界標準であり、いまも莫大な利益も上げている。しかしアップルがiPhoneで作り出し、グーグルがアンドロイドの巨大勢力を作り上げた現在のスマートフォンとタブレットの市場では、わずか数%のシェアしか取れていない。
ただし、モバイル市場の動向は変化が激しい。スマートフォン市場を作り上げたブラックベリー(旧リサーチ・イン・モーション)が長らくトップの地位にあったが、iPhoneに抜かれ、アンドロイドに抜かれ、先頃米国市場では、ついにマイクロソフトのウィンドウズフォンにも抜かれてしまった。モバイル市場への参入は依然として、「遅い」ということはないだろう。
とはいえ、今のままではPC市場のように主導権を握るのは難しい。そこで今回のノキアの買収となったわけだ。
他方、ノキアはどうだろう。日本でノキアの携帯電話を購入することができたのは、ソフトバンクX02NK(N95)というSymbien OSを採用したテンキー操作を前提としたスマートフォンが最後だった。それ以降、日本の携帯電話会社がノキア端末を扱っていないため、日本のユーザーにとって馴染みが薄い。
日本での存在感のなさは、近年のスマートフォン市場での不振をそのまま反映しているようだった。世界最大の携帯電話会社でありながら、じりじりとアンドロイド勢に押され、新興市場でもアンドロイドにそのシェアを奪われた。
マイクロソフトによるノキアの買収は、それぞれの企業が現在のモバイル市場で生き残るための最終切符を手に入れたと見て良いだろう。
■本丸はSurface?
マイクロソフトとノキアは、今回の買収以前から深い関係にあった。以前から、地図サービスHEREで提携を行っていたし、ウィンドウズフォンでの連携から生まれたLumiaシリーズは、マイクロソフトにとっても、ノキアにとっても、これまでの状況を挽回する切り札だった。
現在、ノキアでCEOを務めるスティーブン・イロップ氏は、2010年9月までマイクロソフトのビジネス部門担当プレジデントを努めていた人物だ。今回の買収で、イロップ氏はマイクロソフトに復帰することになるが、バルマー氏の後任としても有力視されていた人物だけに、バルマー氏の後任にほぼ内定したと見ても良さそうだ。このように、今回の買収は、ある程度下地が整っていた。
これまで、マイクロソフトはソフトウエアを開発し、これをメーカーに搭載してもらうことによってビジネスを成り立たせていた。その分、アップルのようにハードからソフトまでをコントロールする企業よりも莫大な利益を得てきた一方、変化に対する適応力は弱かった。
アンドロイドを「オープンプラットホーム」として提供してきたグーグルは、ノキアを追い落とすサムスンという存在を作り上げることになったが、グーグルもモトローラの携帯電話部門を買収し、先頃「Moto X」という最新スマートフォンを発表した。これまでアンドロイドのピュアな体験を提供するNexusシリーズも他社に依存して製造してきたが、今後は独自開発へと移行していくのではないだろうか。
マイクロソフト自身もタブレットSurfaceでウィンドウズをソフト・ハードの両面で発展させる体勢に持ち込んだが、まだまだこれから、という状態だ。
今回の買収により、モバイル市場において、ハードとソフトでスピーディーに新製品を提案していく体制を整えると同時に、本業のPC市場のモバイル化とソフト・ハード体制への移行を行っていくのではないだろうか。
筆者は、ノキアの端末を日本で2機種使ったことがあるが、そのカメラの性能と独特の端末の雰囲気、そしてスライドやボタンなどのギミックの心地よさが特徴だと感じていた。フィーチャーフォンの時代からスマートフォンの先駆けまで、市場を形成し牽引してきたノキアの姿と、日本の携帯電話メーカーの姿をどうしても重ねてしまう。
日本の携帯電話は1999年からインターネットに接続され、日本のユーザーと社会を高度なモバイル先進国に育ててきた。ノキアのお膝元、フィンランドでも同様の存在だったのではないだろうか。
しかしノキアは、巨大な世界シェアを失い続けている。この3年間で、ノキアのスマートフォン(インターネットサービスに接続可能な携帯電話)のシェアは、37%超から5%以下へと急減した。その期間に、CEOを務めていたのが、イロップ氏だ。
■目指す姿は、アップルか、グーグルか
マイクロソフトとアップルは、パソコン市場で一度明暗を分けている。パソコン市場では、ソフトウエアに注力したマイクロソフトがアップルのシェアを駆逐した。ジョブズ氏がアップルから追われている時期にアップルも「マック互換機」に取り組んだことがあったが、マイクロソフトのような成果が得られないまま、ジョブズ氏が復帰して全て中止された。
今度はマイクロソフトがアップルの後を追おうとしている。スマートフォンとタブレット市場では、デバイスとソフトウエアを一体的に開発し提供したアップルが、アプリストア「App Store」も含むエコシステムを構築し、シェア以上の収益性と市場の決定権を得るようになった。
一方、現在最も巨大なスマートフォン勢力になっているグーグルは、PC市場でのマイクロソフトのようなポジションながら、OSからの収益を得ず、本業の検索やクラウド、そしてアプリストア「Google Play」からの収益を狙っている。しかもグーグルはモトローラ・モビリティを有しており、デバイスを作ることもできる。
マイクロソフトは、ウィンドウズフォンをHTCやサムスンなどノキア以外のメーカーにもライセンスしているため、今はグーグルに近いスタイルだが、ビジネスとしてはアップルに近づけ、デバイスとアプリストアでの収益を両立させていきたいはずだ。
マイクロソフトのノキア買収、グーグルによるアンドロイド 4.4「KitKat」のアナウンス、そして翌週米国時間9月10日には、アップルがプレスイベントを開催する予定で、新型iPhoneがリリースされるとみられる(次回はiPhoneについて詳しくお伝えする)。9月上旬のモバイルに関しての活発な動きは、今年の後半から来年を方向付けることになりそうだ。

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