“アニソン”の実態とは? アニメの将来の持続可能性への業界の挑戦

アニソンを取り扱うレコード会社・関連企業が集まり、新会社「アニュータ」を設立したことが発表された。それと同時に、世界初のアニソンに特化した定額制配信サービス「ANiUTa(アニュータ)」をスタート。新会社の代表取締役社長に就任した佐々木史朗氏に、「仕組み自体が疲弊しつつあり、頭打ちになっている」というアニメ・アニソン業界やメーカー・レーベルの現状、新会社及び「ANiUTa」の狙いや今後の展望を聞いた。

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◆“アニメ=オタク”への意識の変化も…若年層はライトユーザー化が進んでいる

――世界初となるアニソン専門での定額配信サービス「ANiUTa(アニュータ)」がスタートしました。長年にわたってアニソンに関わってこられた佐々木さんが運営会社の代表を務めておられますが、なぜ今なのか、なぜレーベル連合という形なのかといった背景からお聞かせください。
【佐々木】 簡単に表現すると、アニメそのものの将来の持続可能性のためということになります。一般的には、「アニソンって調子いいよね、盤も売れているし」という言われ方をされますが、それはあくまで相対的なもの。J-POPに比べて、落ち込み方が緩やかであるというだけで、下がってきつつあることは同じなんですね。アニメ業界全体で考えても、新作アニメを放映して、BDやDVDでキチンとリクープさせるという仕組み自体が、やや疲弊しつつあって、少なくとも頭打ちになってきている。アニソンというのはそもそもアニメの歌ですから、当然マーケットは連動して縮小傾向にあります。一方で、音楽ユーザー全体で考えても、これはもう世界的な潮流として、どんどんサブスクリプションに移行していますよね。このままでは、メーカー・レーベル側は単に使用を許諾するか否かの判断をするだけという立場になってしまう。そこで、もう1つの選択肢として自分たちでアニソンに特化した新たなサービスを立ち上げることを検討し始めたという流れです。もともと、アニソンのメーカー同士というのが実は緩やかな横の繋がりもあり、あまりビジネスライクにギスギスしていない業界というのも背景の1つにあると思いますね。

――縮小していく市場を補完するため、みんなで助け合っていくための手段ということでしょうか。
【佐々木】 目の前の危機に対応するために、というよりも、アニメ、アニソン業界にとって、今やっておくべきだろうという判断ですね。実は、映像、音源にしろ、盤こそ買わないけれどアニメは好き、ライブにも参加するし、グッズも買うという、ライトユーザー的なお客様が増えているというのも現象としてあります。『君の名は。』のヒットに象徴されるように、アニメはオタクのものという先入観もかなり薄れてきていますし、特に若い人はいわばライトユーザー化が進んでいる。せっかく増えているそうしたライト層に、より入りやすい入口を用意してあげて、アニメやアニソンに興味を持ってもらう仕組みを整備したいというのが狙いとしては大きい。若い人たちが継続して入ってこないと、どんどんビジネスとして縮小してしまうわけです。持続可能性というのは、そういう意味です。これは今、増えつつある海外のアニメファンからのニーズにきちんと対応するためにも有効ではないかと考えています。

◆アニソンを起点とする消費行動全体に関わるメディア化を図っていく

――先行するサブスクリプション・サービスでは、それこそ何百万、何千万曲という膨大で幅広い楽曲が大きなアピールポイントになっています。あえてアニソン限定という仕様に踏み切った理由は、どのあたりにあるのでしょうか。
【佐々木】 それはつまり専門店ということに尽きます。アニメの音楽や映像を実際に作ってきた側の人間が直接運営することで、例えばお客様が喜ぶ新しい音源や、ライブイベントなどもスムーズに提供できる。それは既存のサービスにはない、大きなアドバンテージになってくるはずだと思います。

――それは特に海外のファンにも喜ばれそうな機能です。現状では国内サービスのみですが、海外展開も視野に入っているのでしょうか。
【佐々木】 アニソンはアジアだけでなく、北米、ヨーロッパ、南米などでも広く受け入れられています。実際、世界中にお客様がいると実感できる。そういう人たちに、より深くアニソンを楽しんでもらうためにも、早ければ秋以降には、海外でのサービス提供を順次、進めていきたいですね。利用料を月額5ドル帯(日本円で600円)にしたのも海外を見据えたものです。今後は、各国ごとに価格設定できるようにしたいとも考えています。ただ、場合によっては海外のサービスと協業するなど、選択肢を狭めずに展開していきたい。それがユーザーのためですし、結果的にはアニソンの世界市場における認知を拡大する役にも立つだろうと思っています。

――ユーザー数が順調に伸びていくと、将来的にはアニメ・アニソンに特化した新たな情報発信プラットフォームといった存在になりそうです。
【佐々木】 もちろん、そういった役割もいずれ担っていきたいと考えています。サブスクリプションで音源を提供するだけではなく、ライブやイベントのチケット先行販売の回路として、また一般企業とのタイアップや、eコマース導線としても機能するようになるかもしれません。アニソンを起点とする消費行動全体に関わるメディア化を図っていくことになります。ですが、まずはユーザーが楽しめるかどうかが最大のポイント。当面、映像は扱わずにあくまで音源に特化し、ドラマCDやラジオ的なポッドキャスト音源なども広く扱っていきます。あとは、メーカー直営という強みをどう反映して、お客様が喜ぶ企画を投入できるか。「ANiUTa」でしか聴けないオリジナル楽曲や、メーカー横断コラボ企画などにもどんどんチャレンジしていきたい。フェス的なイベントなどは、自分たちで運営できますので、実際にアーティストの意向やユーザーの動向をきっちり反映させられる。夢は「ANiUTa」プレゼンツのワールドツアー実現ですね(笑)。

(文:及川望)

佐々木史朗(ささき しろう)
アニュータ代表取締役社長/フライングドッグ代表取締役社長
1958年生まれ。1982年にビクター音楽産業に入社。営業部門で3年勤務した後、アニメーション制作のセクションへ異動。以後、数々のヒットアニメの楽曲制作等に携わる。2007年にはJVCエンタテインメント内にアニメ専門レーベル、フライングドッグを創立。同レーベルは2009年に法人化。佐々木氏が代表取締役に就任(現職)。2017年3月、アニソンを取り扱うレコード会社・関連企業が集まり、新会社「アニュータ」を設立。佐々木氏が同社の代表取締役社長に就任した。

(コンフィデンス誌 17年4月3日号掲載)

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