アニメ制作現場の実態公表

「とにかく収入が低く労働時間が長い」――日本アニメーター・演出協会(JAniCA)は4月30日、「アニメ-ション制作者実態調査報告書 2015」を発表した。アニメ制作者は作業時間が一般労働者の1.5倍超という長時間労働が慢性化している上、動画担当の平均年収は111.3万円と低い 水準にとどまっているなど、厳しい実態が浮き彫りになっている。それでも続けているのは「楽しいから」という答えが最も多かった。

文化庁の支援を受け、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)と協力して実施。昨年8月1日~9月20日にかけて調査票を郵送・手渡しで配布し、返信用封筒で759部回収した(回収率28.6%)。

配偶者なし7割、子どもなし8割

 

画像 性別×年齢データ(JAniCAの資料より)
画像 学歴×最終学歴データ

 

回答者の男女比は6:4。年齢は平均34.27歳で、多い順に「25~29歳以下」(24.5%)、「30~34歳以下」(19.9%)、 「35~39歳以下」(15.2%)だった。最終学歴は「専門学校卒業」が最も多く(43.7%)、次いで「大学卒業」(34.8%)となっている。

婚姻・子どもの状況をみると、「配偶者なし(未婚)」が71.5%、「既婚」が25.3%、「配偶者なし(離婚・死別)」が2.5%、「子どもな し」が84.6%、「子どもあり」が13.6%(残りは無回答)。2013年の平均年収は「既婚」が484万円、「未婚」が274万円、「子どもあり」が 494万円、「子どもなし」が307万円だった。

 

画像 婚姻状況
画像 子どもの有無

 

画像 就業形態

就業形態は「フリーランス」が最多の37.7%。次いで「契約社員」(23.1%)、「正社員」(15.5)%、「自営業」(14.9%)となっている。主な就業場所は90.6%が「製作会社」。次いで「自宅」(7.1%)だった。

1日平均11時間作業 月間休日は4日

2013年に携わった職種(複数回答)は「原画」が最も多く40.8%、次いで「LOラフ原」(32.4%)、「第二原画」(31.2%)、「制 作進行」(24.4%)、「作画監督」(20.9%)、「動画」(20.6%)の順。13年に携わった仕事を媒体別(複数回答)で見ると、「テレビシリー ズ」(83.4%)が最も多く、「劇場用映画」(42.2%)、「ゲーム」(41.6%)が続いた。

 

画像 2013年に携わった職種
画像 13年に携わった仕事

 

1日当たりの平均作業時間は平均11時間。最多は「8時間超10時間以下」(31.3%)で、「10時間超12時間以下」(31.2%)、「8時 間以下」(16.2%)、「12時間超14時間以下」(11.0%)、「14時間超16時間以下」(11.0%)、「14時間超16時間以下」 (6.3%)、「16時間超」(2.6%)と続いた。

1カ月当たりの作業時間は平均262.7時間。厚生労働省が全産業を対象に調査している月間総労働時間数(13年度、事業所規模30人以上、一般 労働者)を94.2時間上回っている。1カ月当たりの平均休日は4.63日。「4日」と答えた人が最も多く29.9%、次いで「3日以下」が25.0% と、過半数が4日以下だった。

 

画像 1カ月当たりの平均作業時間
画像 1カ月当たりの平均休日

 

平均年収333万円 「動画」「第二原画」は110万円台

 

画像 2013年の年間収入

2013年の年間収入(税込)は平均332.8万円。全産業を対象にした民間事業所の給与所得者1人当たりの平均給与(国税庁「平成25年分民間休養実態統計調査」)より約81万円低い。

最も多かった年収レンジは「150万円超200万円以下」と「250万円超300万円以下」でそれぞれ12.4%。次いで「350万円超400万円以下」(10.7%)、「200万円超250万円以下」(10.2%)、「100万円以下」(8.2%)と続いた。

画像 職種別の作業時間・平均休日・最長無業期間・平均年間収入。動画・第二原画の年収は100万円台前半にとどまっている(図はJAnicaの資料を編集部で見やすく編集)

職種別で見ると、「動画」が111.3万円、「第二原画」が112.7万円と極端に低く、「仕上げ」も194.9万円と3職種が100万円台にと どまった。年収が高いのは監督(648.6万円)、総作画監督(563.8万円)、プロデューサー(542.0万円)といった職種だ。

続ける理由は「仕事が楽しいから」

現在の仕事を続けている理由(複数回答)は、「この仕事が楽しいから」が65.1%と最多。次いで「お金を得るため」(60.9%)、「作品を通じて人に感動を与えることができるから」(38.1%)、「自分の才能や能力を発揮するため」(30.2%)と続いた。」

仕事をする上でどのような点に問題があるか感じているか(複数回答)は、「仕事のスケジュール調整が難しい」(69.3%)、「時間的な余裕のな い中で仕事を強いられる」(58.9%)、「仕事上で要求されることが多岐にわたり対応に苦労する」(30.8%)、「報酬その他についての交渉力が弱 い」(26.4%)といった回答が多く、労働時間や報酬の問題が目立った。

 

画像 現在の仕事継続理由
画像 仕事上の問題

 

画像 安心して仕事に取り組むために必要なこと

安心して仕事に取り組むために必要なこと(3つまで回答)のトップは「報酬が増える」(57.7%)。次いで「より質の高い仕事をするために適切 な納期やスケジュール管理」(47.2%)、「仕事を安定的に得られる」(27.0%)、「より質の高い生活を送るために適切な労働時間」 (22.7%)、「老後の生活のために年金制度等が充実」(16.5%)といった回答が上位で、賃金や労働時間、雇用の安定性について改善を求めているこ とがうかがえた。

画像 自由記述の頻出単語

自由記述では、賃金や労働環境への不満、アニメ産業への構造的な問題に関する記載が目立った。「とにかく収入が低く労働時間が長い」「消耗しきっ ている現場が多い」「人並みの生活ができるようになってほしい」「アニメ業界は『やりがい』のみで保っている」「将来や老後が不安」「お金の流れが不明 瞭」「中抜きのやりすぎは業界全体の衰退につながっている」――などの意見があがっている。

タイトルとURLをコピーしました