アパレル、続々と「セール縮小」に動く納得の裏事情

ファッション業界には、半年をワンサイクルとしたシステムがある。「春夏もの」「秋冬もの」という言葉がよく使われるように、半年ごとに新しいスタイルを提案してきた。そのサイクルとは、具体的にどのような流れなのか。概括すると以下のようになる。

服として店頭に並ぶ1年半ほど前に、トレンドセッターという職種が“トレンド情報”を作成して発信する。これは、社会の流れを背景に置きながら、色や素材の方向を情報としてまとめたものだ。

糸や布のメーカーは、これを使ってモノ作りを行い、約1年前にテキスタイル(布)の展示会が行われる。それを基にデザイナーは服を作り、約半年前にコレクションショーとして発表。ジャーナリストはそのコレクションショーについて、メディアを通じて「次のシーズンはこれ」といった情報を発信し、バイヤーは半年後に店頭に並ぶ服を買いつける。

半年をワンサイクルとして回すシステムだから、シーズンの終わりになると、売れ残った商品を値下げして売り切るためにセールを行う。従来はシーズンの終わりに行っていたものが、昨今、春夏ものは7月頭、秋冬ものはお正月と時期が早まっている。

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そこで売れ残ったものは、別会場を設けてファミリーセールなるものを行う。これは上顧客や関係者を対象としたクローズなセールで、大幅に値引きされた商品が限られた層に向けて売られるものだ。それでも売れ残ったものは、ブランドのラベルを取り除いて専門業者に引き取ってもらう。あるいは何らかの廃棄処理を行う。そういった過程を経て、アパレル業界の半年ワンサイクルは維持・継続されてきた。

コロナ禍が見直しのきっかけに

コロナ禍以前から、このシステムのありようについては疑問が呈されてきた。「半年ごとにトレンド=流行は必要なのか」「大量に作ってセールで値下げする、最後は廃棄するシステムを見直すべきではないか」といった声が業界内外から上がるようになり、策を打つ企業も出てきていたのだが、少数派にすぎなかった。

それがコロナ禍によって、問題を根本から考える、否、考えざるをえない状況になったのだ。

2020年4月、ファッションデザイナーのジョルジオ・アルマーニは、「この未曾有の危機の中、ファッション業界も難曲に直面しているが、これを乗り越えるには慎重に考えて賢くスローダウンするしかない」というメッセージを発信した。

長期にわたるコロナ禍は、アパレル業界に大きな影響を及ぼした。こらえきれずに消えていった企業もあれば、企業努力によって変革し、成長や進化を遂げたところもある。

今年の正月明けに行われたセールは、ずいぶんと様相が違って見えた。売り場で全面的に行うのではなく、一部で行われており、かつ30%オフ、40%オフなど、値下げ率も高くない。セール品が並んでいる一方で、プロパー(正価商品)も置かれている。

期間についても、1週間程度できっちり終え、だらだらと長期化しているところが少なかった。販売員に話を聞くと、「セール品とプロパー品を並べておくと、正価でも気に入った服を手に入れたいという傾向が見えます」という声が多かった。

一方、アパレル企業側に取材してみると、「売り残しを減らすために過剰な生産を減らした」「半年ごとのサイクルにとらわれず、値下げせずに売り続けている」など、業界の常識にとらわれない改革や挑戦を行っていることがわかった。

大変革期とも言えるこの時期を、アパレルはどう乗り越えようとしているのか。好事例となりうるブランド企業を取材した。

抜本的な見直しに動き出したビームス

「この業界は売り上げ至上主義という慣習のようなものがあったと思います」

そう話すのは、セレクトショップの雄であるビームスの取締役経営企画室長を務める池内光氏だ。売り上げを求めて生産過剰となり、セールにかけるものの利益率は下がるという悪循環が続いていた。セールで売り上げを上げるため、通常の商品とは別に、セール専用の商品を作っているブランドも少なくはない。

「5年前くらいから、そこに何とか歯止めをかけないと」と考えてはいたものの、「2019年までは、右肩上がりの成長が続いていたので、本気度が足りなかったと反省しています」と正直なコメントが返ってきた。

それがコロナ禍によって、抜本的な見直しをせざるをえなくなった。

「売り上げを追うばかりではなく、適正な利益確保を目指し、コロナ禍以前から準備してきたさまざまな改善をはかってきました」(池内氏)

最も大きかったのは、ブランドごとの事業部制を廃し、販売部と商品部の部門を分離させる機能本部制に移行したこと。事業部ごとの組織では、わかりやすい成果として、数字を追うことが優先されがちだ。売り上げを上げるために売れ筋を追っていく。

だが、それが過剰化・加速化することで、ブランドごとの差が薄まり同質化していた。そこにメスを入れようと、事業部に横串を通して「販売」と「商品」に組み直した。ビームスが持っている各ブランドの独自性を明確にするとともに、受け身ではない自らの提案を行っていこうという意図からだ。

「販売」の意見を「商品」にフィードバック

アパレル業界では、モノ作りをする「商品」と、お客に伝えて買ってもらう「販売」との連携がスムーズに行っているケースは決して多くない。

「トレンド=流行を取り入れた」「新しいコンセプトを盛り込んだ」という「商品」側の訴求ポイントと、「お客はこういうものを望んでいる」「これが売れている」という「販売」側の意見が必ずしも一致しないのだ。「これを作ったから売ってほしい」という「商品」側の意見と「それじゃ売れない」という「販売」側の意見が対立する。

ビームスは、顧客のニーズを「販売」側が「商品」側にフィードバックし、そこから未来を見据えた商品を提案するというコミュニケーションをできるだけきめ細かく丁寧に行うよう、関わりを強化しているという。

それとともに、従来、どちらかというと、全国にわたるショップに向け、均質な品揃えを組んでいたのを見直し、現場の声を聞きながら、地元にフィットした品揃えを組むようにした。

セールについても全面的に見直した。シーズンものを売り切るため、一斉に50%、60%と大幅に値下げするのではなく、店頭で動きが鈍いものは、早くから値下げして売り切る。動いているものはプロパーで売り続ける。あるいは、セール期間中に、あえて話題の商品を正価で展開するなど工夫を凝らした。

期間についても、だらだらと長期化させずに必要最低限に抑えるなどの施策を打ったところ、着実に利益が上がってきた。長きにわたって続いてきた「何となくの慣習」を見直し、「お客様の目線に立って、セールのあり方を考えた」結果だという。本質を見据えた抜本的な改革が、実を結びはじめている。

こういった文脈は、時代の流れに敏感に反応する、ラグジュアリーをはじめとするデザイナーブランドも同様だ。高橋悠介氏が手がけるファッションブランド「CFCL」は、デビューして3年という若いブランドだが、時代の文脈に沿ったファッションのあり方を提案・実践し、着実な成果を上げている。

「CFCL」というブランド名は、“Clothing For Contemporary Life=現代生活のための衣服”の頭文字をとったもの。デザイナー個人の美意識を表現するのではなく、現代を生きる人々の道具としての衣服という視点を大切にしているという。

そう聞くと、機能性を優先したベーシックなアイテムがそろっていると思うかもしれないがそうではない。立体的な造形美とカラフルな色使いによって、独自の世界を生み出している。クリエーティビティーが高い評価を受けて、毎日ファッション大賞をはじめとする受賞が数多く、パリコレにも参加して半年ごとに発表を重ねてきた。

ほぼすべてがニットなのが特徴

高橋氏が考える「現代生活のための衣服」とはどのようなものなのか?

「ソフィスティケーション、コンシャスネス、コンフォート&イージーケアの3つを柱にしています」(高橋氏)

日常にも少しフォーマルな場にも対応できる服であり、自宅で簡単に手入れできること、責任ある生産背景のもとに生まれた服であることを意味している。

特徴的なのは、ほぼすべてがニットであること。それも3Dコンピューター・ニッティングという手法をとっている。これは、デザインした服のデータをコンピューターに打ち込み、糸から立体的な服を編み上げていく特殊な製法で、布の裁断も縫製も必要がなく、無駄になる布や糸がほとんど出ない。

「クリエーティブだけでなく、サプライチェーンや社員の働き方を含め、時代に合わせて創っていくのが、ブランドが果たす役割ととらえています」(高橋氏)

商品構成について、50%は過去から継続しているデザイン、40%は同じ造作で少しデザインが変わったもの、10%はまったく新しいデザインという構成をとる。半年をワンサイクルにして、すべての商品を入れ替えるシステムをとってきたアパレル業界においては異例なやり方と言える。

また、セールは基本的にやらない方針を貫いてきた。もともとプロパーでの消化率が高いのに加え、シーズンを過ぎたからといってセールせず、そのままの価格で売り続ける。それでもきちんと買い手がつくという。

大きく変わる「服の存在価値」

お客にとって服の存在価値は、もはや「シーズン限りの流行」「このシーズンで着倒す」にあるのではなく、「気に入ったからずっと着たい」「素敵なデザインだから着てみたい」という意識になっている。一方で、コロナ禍のさなかで「ファッションはこれから必要ない」「アパレル業界はダメになる」といった極端な意見を耳にする機会も多かった。

確かにアパレル業界の一部では、高度経済成長来の成長体験をもとにしたビジネスを過剰化させ、時代の流れやお客の意識を置き去りにしていた側面もある。が、コロナ禍という大きな転換点を得て、慣習という枠組みを越え、抜本的なところから改革していく姿勢が見えてきてもいる。

コロナ禍がひと山越えたこともあり、街中のアパレルショップは賑わっているし、過去最高の売り上げをはじき出している百貨店もある。いつの時代も、変化を恐れず前に進んでいる企業には明るい未来が拓けていく。アパレル業界のこれからに期待したい。

(川島 蓉子 : ジャーナリスト)

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