金融機関が貸家業向けに個人に融資するアパートローンが過熱気味で、「プチバブル」の様相を呈している。相続税対策とマイナス金利が背景にある。ただ、物件の供給が過剰になって空室が増え、賃料が下がる地域も出始めた。返済が滞ればローンは不良債権になりかねないことから、金融庁と日銀は対応に乗り出した。(中村智隆)
■人口減なのに
「新生活が始まる時期になっても空室が多い」
「家賃が2、3万円台と半分以下に下がる物件が出てきている」
東京のベッドタウンとして発展してきた相模原市。小田急小田原線の小田急相模原駅は新宿まで約50分で商業施設も充実したエリアだ。それでも、地元の不動産業者からは悲鳴にも似た声が上がる。
実際に、駅から車で10分も離れると「空室あり」「入居者募集」の看板を掲げたアパートやマンションが目立つ。別の業者は「人口が減っているのに投資用の物件はずっと増えている」と指摘する。
■相続税対策
投資用物件の増加を後押ししているのがアパートローンだ。日銀によると、平成28年12月末の国内銀行のアパートローン残高は前年比4・9%増の22兆1668億円に拡大している。
27年の税制改正で、相続税の基礎控除額が引き下げられ、課税対象者が広がった。アパートを建てれば更地などより課税時の土地の評価額が2割下がることから、節税目的で借り入れる人が増えた。
金融機関も、日銀のマイナス金利政策が収益の下押し圧力となる中、特に地方銀行が収益源として着目するようになった。アパートローンは競争が激しい住宅ローンに比べて高めの金利が見込めるためだ。
地銀はエリアを越えて拠点を広げる際、アパートローンを入り口とすることもある。銀行関係者は「通常融資は地場の金融機関がいて難しい。建設会社などに行きアパートを建てたい人を探している」と明かす。
ただ、アパートローンを利用するのは担保がある富裕層が多いこともあり、物件の収益性を度外視し安易に貸し出しが行われているケースも少なくない。空室が多く、返済が滞るなどすれば、担保があるとはいえ、金融機関の財務にも悪影響が出かねない。
建築請負業者が提案書などを作成し、アパートローンを勧めることも多い。当初見込んだ家賃収入が得られなくなった大家と、家賃保証をした業者との間ではトラブルも起きている。
こうしたことから、金融庁は28年末から実態調査を実施し、銀行に融資審査で担保だけでなく事業の将来性を評価することなどを要請した。
日銀は金融機関への29年度の考査で、アパートローンの適切な審査や、組織的な採算性の検証が行われているかを点検する方針だ。