アプリ取り放題! KDDIの新戦略 利用拡大余地に照準

スマートフォン(高機能携帯電話)市場をめぐる大手携帯3社の戦いが新たなステージに入りそうだ。スマホ普及の先陣争いで後手に回り、2011年4~9月期の移動体通信事業の営業利益でソフトバンクに初の逆転を許したKDDI(au)が、市場競争の第2幕への「ゲームチェンジ」(田中孝司社長)を宣言。スマホ普及を前提に、契約者1人当たりの収入の最大化を図る新機軸のサービス戦略を仕掛け始めたからだ。サービス満足度の向上は契約者の囲い込みにもつながる見込みで、KDDIは利用拡大期の機先を制し、スマホ時代の主導権奪取を狙っている。
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 月額390円で、スマホ向けアプリ(ソフト)が取り放題。KDDIが新サービス戦略「スマートパスポート構想」の第1弾として、今月1日から始めた破格のアプリ配信サービス「auスマートパス」が好調な滑り出しをみせている。ゲームや辞書など総額5万円を超える500以上のアプリを好きなだけダウンロードできるお得感から、27日にはサービス加入者が50万人を突破。既存のスマホ契約者数とほぼ同数の約400万人を想定する1年~1年半後の目標に向け、順調に加入が増えているという。当初は年間70億円の経費の持ち出しが見込まれるが、「赤字覚悟」(高橋誠専務)の裏には新たな収益成長への深謀遠慮がある。
 ■データ通信収入 上積みに道
 スマホは、アプリの取り込みでさまざまなIT(情報技術)サービス・機器と連携できるのが特徴で、機能的には電話よりパソコンに近い。このため従来携帯に比べてデータ通信利用の頻度が高く、ソフトバンクはその収入の伸びを源泉に収益力でKDDIを追い上げてきた。
 ◆ソフトバンク脅かす
 ただ、米グーグルがモバイルマーケティング協会などと共同で昨年3~7月に実施した世界のスマホ利用状況の調査によると、過去30日間に使用したアプリの数は、米国や韓国、フランスの10以上に対し、日本は8にとどまる。auの契約者でも、「アプリの平均ダウンロード数は10に満たない」(新規ビジネス推進本部の繁田光平課長)のが現状といい、急速な普及の中で多くの利用者はスマホを十分に使いこなしていない。
 また、民間調査会社のトレンド総研(東京都渋谷区)が2月、20~39歳の500人を対象に実施した調査では、興味のある有料アプリについて、71%が「料金を理由にダウンロードしなかった経験がある」と答えている。
 裏を返せば、スマホ機能の本格利用期はこれからで、データ通信収入の拡大余地はまだまだ大きい。料金体系を含め、利用者ニーズに合致したアプリ提供モデルを確立できれば、データ通信収入の大幅な上積みに道が開ける。KDDIはそこに、ソフトバンクに対する再逆転の照準を定めている。
 現在のスマートパスのサービス対象は、グーグルの基本ソフト(OS)搭載のスマホに限られるが、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」や、タブレット端末への対応も検討中だ。アイフォーンへの対応が実現すれば、米アップルの専用配信サイト「アップストア」を重視し、アプリ販売を手がけていないソフトバンクも、戦略の再考を迫られる可能性もある。
 ◆回線の垣根超え
 一方、KDDIの新サービス戦略の矛先は、スマホ市場だけにとどまらない。
 田中社長は新サービスを「『(インターネットの)オープンで、制約のない世界』へのパスポートにしたい」と話し、加入者に発行した「ID」を、固定や携帯の回線を問わず、同社が今後、展開する多様なネットサービス利用の共通カギとする方針。これによって契約者の利便性向上を図る一方、回線の垣根を超えた総合力で収益をとらえる新たな経営モデルへの脱皮を進める構えだ。
 先月から予約受け付けを始めた固定通信とスマホのセット割引「auスマートバリュー」はその新発想の先駆け。NTT東日本が、自社の固定回線と通信ベンチャーの日本通信のデータサービスを組み合わせる対抗措置に乗り出すなど波紋が広がっており、KDDIが仕掛ける「第2幕」は通信業界のビジネスモデルを変えていくかもしれない。(中村智隆)

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