アマゾンなど通販増加で物流賃貸活況 低コスト、脱・自前施設の動き

楽天や米アマゾン・ドット・コムをはじめとするインターネット通販事業者の増加などに伴い、商品や部材の集配・仕分けに使われる大型物流賃貸施設の市場が活況を呈している。事業用不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)によると、大型物流賃貸施設(延べ床面積3万3000平方メートル以上)の2012年1~3月期の空室率は、首都圏で4.5%と7年ぶりの低水準、近畿圏では空室なしと需給が逼迫(ひっぱく)している。これを受けて不動産大手など新規事業者の参入が相次いでいるほか、安定した賃料収入が得られる不動産物件として投資資金も流れ込むなど市場は過熱気味だ。
[写真]アマゾンのアプリ “本家”しのぐ収益のナゾ
 「平面で広く場所が取れるため、人員や機材を集約し、大幅な作業の効率化が実現できた」
 延べ床面積が、東京ドーム3個分に相当する約14万平方メートルという大型物流賃貸施設「プロロジスパーク座間1」(神奈川県座間市)。5階建ての施設の1、2階部分に入居し、生活協同組合ユーコープ事業連合の宅配向け商品の仕分けから荷積み作業までを受託している日立物流の担当者は、同施設の使い勝手の良さを高く評価する。この施設を運営する米不動産会社のプロロジスは1999年に日本の物流施設市場に進出。開発中の3棟を含めて現在までに全国に52棟、総延べ床面積279万平方メートルを供給している。
 日本法人の山田御酒(みき)社長はさらに、「東京湾岸地域の工場跡地や、内陸でも建設が進む圏央道沿線などが新規開発の狙い目。景気の変動にかかわらず、年間30万~40万平方メートル分の施設を増やす」と意気込む。山田社長が、新規施設開発に強気なのには理由がある。これまで大手電機や医薬品などの国内メーカーは各地に自前の物流拠点を抱えてきた。だが、相次ぐ工場の海外移転などで施設の稼働率が低下。多くの企業にとって、自前の物流施設の建設・維持コストが重荷となってきている。その点、専門の物流賃貸施設は必要な場所に、必要な期間借りることができ、いざ撤退する際も負担が少ない。さらに大規模施設なら、拠点や人員などの集約により物流コストを低減する効果も期待でき、自前の物流施設の運営を見直す際の格好の受け皿となっている。
 CBREの調べによると、国内の大型物流賃貸施設の累積供給面積は11年時点で約850万平方メートルに拡大。このほかに、メーカーが保有する自前の物流施設が多くある。完成から30年以上経過した老朽施設が首都圏だけで3割近くあるといい、最新設備を備えた専門事業者の物流賃貸施設が取って代わる余地が大きい。一方、ネット通販市場の拡大の追い風で高い稼働率を維持している物流賃貸施設には、投資家も注目している。リーマン・ショック以降、空室率が上昇傾向にあり、賃料が下落しているオフィスビルなど他の不動産部門と比べ、「(物流賃貸施設は)運用により生まれる収入が高水準で安定的」(CBRE)なためだ。
 東京証券取引所に上場する不動産投資信託(Jリート)のうち、投資対象を大型物流賃貸施設に特化しているのは現在、日本ロジスティクスファンド投資法人と産業ファンド投資法人の2社だけだが、海外を含めた投資家の買い意欲が高まっていることを受け、「新たに上場を検討している企業が複数ある」(市場関係者)という。こうした流れを受け、不動産大手も市場の取り込みに動く。三菱地所は、2月に三井物産と共同で東京都江東区に初の賃貸物流施設を完成させたのに続き、13年秋の完成を目標に、相模原市中央区に、延べ床面積約21万平方メートルと国内最大級の大型物流施設を建設する。三井不動産も物流施設供給会社のGLプロパティーズと共同で、千葉県市川市に13年9月の完成を目指して物流施設を開発する。
 もっとも、市場の先行きについては「供給過多に陥る可能性がある」(不動産関係者)との指摘もある。足元で需給が逼迫しているとはいえ、メーカーや通販会社などにとって最適な立地でない限り、「立派な箱」があっても顧客は集まらず、稼働率が高まらない恐れもある。プロロジスの山田社長も「候補地の情報は山ほど集まるが、厳選した場所以外は手を付けない」と言い切る。いかに好立地に最適な施設を建設、運営できるかが市場成長を持続するカギとなりそうだ。(那須慎一)

タイトルとURLをコピーしました