イオンに異変?スーパー不振で赤字寸前 遅れる消費増税対策、首都圏連合に暗雲か

イオンが7月4日に発表した15年2月期第1四半期(14年3―5月)連結決算の内容が、思わぬところに飛び火し、食品スーパー業界内で話題となっている。
 同決算では売上高に当たる営業収益は1兆7130億円で前期比17.2%増となる一方、営業利益は225億円で前期比35.3%の大幅減。最終利益に至っては前期比90.1%減の13億円と赤字転落目前の業績だった。
 その主因が主力のスーパー事業の不振だ。総合スーパー事業が38億円の赤字(前期比より73億円の減益)、食品スーパー事業が23億円の赤字(前期比より27億円の減益)と共に営業赤字へ転落したのだ。同期からダイエーが連結対象になった影響(39億円の営業赤字)はあるものの、中核子会社の総合スーパー「イオンリテール」も20億円の営業赤字に沈んだのが響いた。
 
 スーパー事業が営業赤字に転落したのは、売上高の伸び悩みと販促費の増加が要因。例えばイオンリテールの場合、4月初めにPB(自主企画商品)とNB(メーカー商品)の合計2万品目の価格を据え置き、消費税増税後に実質的な値下げを行った。その結果、既存店売上高は前期比横ばい(内訳は衣料2.19%減、食品0.7%減、住居余暇3.5%増)を維持した。だが客数が予想外の前期比3.4%減だったため、営業赤字を招いた。
 また、拡販を狙ったワオンポイントの還元セール拡大や改装投資も、客数減で裏目に出たため、販促費が38億円増加。販管費全体では78億円の増加となり、営業赤字を拡大させた。
●増税で露呈したイオンのスーパー事業の弱さ
 イオン経営陣はこれについて「低価格化やポイント販促など増税後の施策が中途半端で『安さのメッセージ』が伝わらず、客数を伸ばせなかった」(イオンの森美樹副社長)、「増税後、生鮮3品を中心に販促を行ったが、他社の店頭やチラシを見ると価格対応が不十分だった」(イオンリテールの梅本和典社長)など、増税対策が不徹底だったと釈明している。
 だが、流通業界担当の証券アナリストは「増税がイオンのスーパー事業の脆さを浮き彫りにした」と、次のように説明する。
 消費増税をきっかけに、消費者の選別眼が一段と厳しくなった。いくら値段が安くても、不要・不急品は買わない、買う時は商品を慎重に吟味する傾向がより強くなった。このため、イオンのような低価格訴求だけではもう売れなくなった。欲しい商品がないから客足も遠のく。逆にセブン&アイ・ホールディングスのPB好調が象徴するように、付加価値が高ければ多少割高でも売れる。そして「イオンは消費動向と自社の強みを客観的に分析し、それを商品開発や店舗運営に生かす努力を怠ったのが今期の不振要因だ」と分析する。つまり、必要だった増税後の戦略転換を行えなかったというのだ。
 イオンは今後の対策として価格対応の強化で客数増を図る方針を示し、営業利益2000―2100億円(前期比17―23%増)、最終利益480億円(同5%増)とする15年2月期の当初通期業績予想を据え置いた。
 これに対しても株式市場関係者の間で「価格対応強化だけで通期計画を達成できるのか」との疑問の声が上がっている。
●首都圏スーパー連合に暗雲か
 さらにイオンのスーパー事業の不振が、思わぬところへ飛び火しているのだ。
 それはイオンが今年5月に正式発表した、岡田元也社長肝いりの首都圏スーパー連合構想だ。同社の内情に詳しい業界関係者は次のように打ち明ける。
「これは実質社長案件なので、表立って批判する社員はいない。だが、社内の一部には、前から疑念がくすぶっていた。業績頭打ちのスーパーを集めた互助組合のような経営統合で、連合構想を実現できるのか。それよりセブンのPBに対して見劣りがするイオンのPB見直しと、子会社・系列スーパーの店舗オペレーション強化が先決ではないかとの意見が、今回のスーパー事業不振で一気に燃え上がり、同調する社員が増えている」
 さらに「ご本尊の業績がこれではと、連合参加予定のマルエツやカスミにも動揺が起きている。成り行きによっては、連合構想が頓挫する可能性もある」(同)という。
 もし、首都圏スーパー連合が岡田社長の思惑通り進まなければ、そもそもの目的である「首都圏攻略」も、戦略の根本的な見直しが迫られるのは必至。同社には薄氷を踏むような残り9カ月間になりそうだ。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

タイトルとURLをコピーしました