不振のスーパーマーケット業界にあって、「高品質・Everyday Low Price」を旗印に掲げ、高い売上伸長率を保ち成長し続けるローカルスーパーの雄、オーケー。7年連続顧客満足度1位を獲得し、あのイオンすら歯が立たないその人気の秘訣はどこにあるのでしょうか。ビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは、実店舗への取材を重ねて、その戦略・戦術を詳細に分析しています。
特売なしの「オーケー」、地域最安値で7年連続の「顧客満足度1位」に
オーケー(本社・横浜市西区、二宮涼太郎社長)は、首都圏1都3県を中心に108店(2018年3月31日現在)を展開する、食品スーパー。顧客満足度調査のスーパーマーケット部門で、7年連続1位を獲得しており、極めて集客力の高い首都圏のローカルスーパーとして知られている。
イオンなど圧倒的な品数を誇る大手流通の総合スーパーが、地域に密着した地場のスーパーにしばしば売り負けて閉店に追い込まれるケースを目にするが、そうした総合スーパーから地場スーパーヘの流れを牽引する、リーダー格の企業がオーケーと言えるだろう。
年商は2018年3月期で、約3577億3400万円。直近3年間でも、15年3月期の約2822億4100万円から、年率7~8%ほどの堅実で高い売上伸張率を保った成長を続けてきている。この間、店舗数も83店から、25店増えた。
縮小するスーパー業界、躍進するオーケー
日本チェーンストア協会の統計によれば、スーパーの市場規模は、1997年度(97年4月~98年3月)の約16兆8600億円をピークに縮小を続けており、2017年度(17年4月~18年3月)には約12兆9,000億円にまで落ち込んでいる。
そうした出口も見えない長期にわたるスーパー不振のダウントレンドの下で、成長を続けているから、オーケーは凄いのである。
この好業績にも満足せず、オーケーは16年6月に就任した、三菱商事出身の新社長・二宮涼太郎氏の指揮の下、「借入無しで年率20%成長の達成」という、より高次元の経営目標に取り組んでいる。無借金経営は2008年9月期以来継続しており、財務体質の強さも特筆されるが、コンビニやドラッグストアに圧倒されてスーパーの将来が危ぶまれている現状において、スーパーの新しい成長モデルを確立しようとチャレンジする姿勢が注目される。
なぜ、オーケーがこれほどまでに顧客に支持されるのか。経営方針である「高品質・Everyday Low Price」にいかにして到達し、どのように実践されているかを考察していきたい。
顧客から圧倒的な支持、その理由は?
昨年9月20日に公益財団法人 日本生産性本部サービス産業生産性協議会が発表した、2017年度「JCSI(日本版顧客満足度指数:Japanese Customer Satisfaction Index)」のスーパーなど5業種を対象とする第3回調査で、オーケーは顧客満足が7年連続で1位を獲得した。スーパーマーケット主要26の企業・ブランドに関して、3ヶ月以内に2回以上会計を伴う利用をした、300人以上のインターネット・モニターによる回答を集計した結果である。調査期間は17年7月5日~8月7日。
しかもオーケーは6つの指標のうち、顧客満足、顧客期待、知覚品質、知覚価値、ロイヤルティといった5つの指標で1位となり、準パーフェクトを達成。残りの1つ、推奨意向も3位と上位にランクされていた。つまり、顧客から圧倒的な支持を得ている。
この調査は、さまざまな視点の消費者購買意識調査があるうちの1つではあるが、それにしてもイオン、イトーヨーカドー、西友など名だたる全国展開の巨大チェーンを差し置いて、7年も連続で1位を継続しているのには感嘆してしまう。
オーケー販促広報室によれば、顧客満足度の高さの要因として、
「品質に対しての価格の割安さ、品揃えのこだわり、正直さ。これらの方針を徹底しています。その継続した取り組みがお客様に認知されてきた結果と考えています」
と受け止めている。
スーパーで「競合店に対抗して値下げ」を導入するメリット
基本方針「高品質・Everyday Low Price」により特売日なしで、ナショナルブランドの商品は地域一番の安値の実現を目指している。
「万一、他店より高い商品がございましたら、お知らせください。値下げします」のポスターを店内に掲げており、実際に顧客からの情報提供により、値下げされた商品は、「競合店に対抗して値下げしました」と、値札などに明記されている。
競合店に対抗して値下げする売り方は、家電量販店では一般的だが、スーパーでは根付いているとは言い難い。というのは、一般的にスーパーは特売を行い、特定日、特定商品を思い切って割引して、売上をつくってきた。この特売に賛否両論があるものの、スーパーにとって成長エンジンであり、消費者も特売に期待して買物のスケジュールを組んできたのだ。
「高品質・Everyday Low Price」とは、そうした業界の今までのやり方への決別を意味している。メリットとしては、顧客が来店日によって損得の不公平感を持つことなく買物ができる、特売を告知する広告宣伝費が節約できる、過去の売上データから需要予測ができるようになり商品の在庫管理と自動発注が容易になる、といった効果がある。
つまり、不公平感解消とローコスト経営が同時に実現可能だ。その代わり、出店してすぐには集客が上がらず、売上が上がってくるまでに1年くらいかかるケースがあるのがデメリット。
オーケーの強みは特にグロサリー(一般食品・雑貨部門)にある。確かな商品力を持つナショナルブランドに関する品揃えと価格の安さが、大きな顧客満足度を生み出している。客単価は顧客特性、地域特性によるが、全店平均で約2700円となっている。
創業者は、経済人一家の三男
オーケーの歴史を紐解くと、第1号店は1958年6月、板橋区上板橋にオープン。創業者の飯田勧会長(当時、社長)がアメリカの雑誌で「アメリカではスーパーが花盛り」という記事を読んだのがきっかけで、将来性のある事業と見てスーパーを始めることにしたという。
飯田氏は明治17年創業の日本橋馬喰町の老舗酒類・食品卸、岡永商店(現・岡永)の2代目、飯田紋治郎氏の三男。ちなみに長男の飯田博氏が岡永を継ぎ、次男の飯田保氏は居酒屋「天狗」チェーンなどを展開するテンアライド創業者、末男の飯田亮氏がセコムを創業した。いずれも経済人として活躍する商才に長けた飯田4兄弟としても知られている。
岡永商店の小売部門として創業したが、67年9月に分離独立。資本金7000万円で株式会社オーケーが設立された。現在の資本金は28億6882万円にまで増資されている。
86年頃、飯田氏は定価100円の商品が売場で98円で売られているのを見て、たいして安いわけでもなく基本方針の「高品質・お買徳」がお題目になっていることを反省。以降、基本方針に「Everyday Low Price」を加えて、コンセプトを「高品質・Everyday Low Price」に集約した。ここから経営改革が始まった。
なぜ「Everyday Low Price」が実現できるのか?
「Everyday Low Price」はアメリカの世界最大の小売業「ウォルマート」をほうふつさせるが、「ウォルマート」のように中国など人件費の安い外国で製造したプライベートブランドを中心に販売して価格破壊をするのではなくて、信頼できる高品質のナショナルブランドをどこよりも安く売る戦略が特徴だ。
特売をなくすために、商品の品質・売価を吟味し、品種を思い切って絞り込み、普段の売価を競合店の特売価格に負けない価格に引き下げる改革に取り組んだ。商品の絞り込みにあたっては、あえて価格交渉力が強いトップブランドを外すケースも見受けられる。そうしてトップブランドにも負けない良品を厳選して大量に仕入れることで、コストダウン。地域で一番の安価を実現してきた。
一方で、生鮮品、牛乳・豆腐などの日配品は高品質、美味しさ、鮮度をまず吟味した上で、安さを追求。産地の状況などを正確に伝える「オネスト(正直)カード」を導入して旬、値上げ・値下げなど、顧客への告知を徹底している。
たとえば野菜はどうしても、気象条件によって品薄になり高騰するケースが出てくる。なぜその値段で売るのかを明確に伝え、場合によっては他の商品で代替することを勧める。消費者の立場に寄り添って、そこまで踏み込んでいる。
オーケーでは、基本方針に基づき「部門ごと」に商品の見直しを行っており、以下にその一例を紹介したい。
青果は従来の市場内流通に加え、産直などの新たな流通の仕組みづくりを進めている。
精肉は強化してきた国産豚、黒毛和牛に加え、輸入牛や国産鶏などについても差別化の取り組みを進めている。
水産では、超低温冷凍本鮪を新たな名物に育てる方針。-50℃の専用冷凍船及び冷凍庫で冷凍本鮪を運び、-60℃の専用冷凍庫で保管する。超低温での温度管理を徹底するため、解凍時にはまさに獲れ立ての美味しさが味わえる。18年6月現在、99店に導入されている。
一見には割高? 安全と低価格を支える有料サービス
また、価格を抑えるだけでなく、保存料、着色料、酸化防止剤など食品添加物を極力使わない健康と安全に配慮した商品を、比較的安価に提供できるように努めている。その商品を売る理由が値札に記されているので、消費者は安心して買うことができる。
安価なパンや弁当も、オーケーの魅力の1つだが、パンは日清製粉「最高級強力粉ビリオン」を使用した焼き立てパンを約100品目販売している。人気の「オーケーピザ」は直径約30㎝のホールサイズを1枚469円(税抜)とワンコインで提供している。
また、オーケーの集客力の高さの理由として「オーケークラブ」の存在も大きい。発行費用200円を払って「オーケークラブ」に入会して、会員カードをレジで提示すると、現金払いの顧客に限り食料品が3%割引になる。元々安い上に、さらに割り引かれるのだ。
一方で、レジ袋やドライアイスは低価格を実現するため有料となっており、いずれも微々たる出費ではあるが、1回限りで利用する人にとってはお得に感じられない一面もある。
物流網の徹底、強化する郊外への出店
またオーケーでは、さらなる飛躍を支える物流網の整備に取り組んでおり、まず19年2月には神奈川県寒川町に寒川常温物流センターが開業予定。自動倉庫など積極的に省力機器を取り入れ、できる限りタッチ数を減らし、流通業の責務である無駄のない物流に改善する。使用敷地は1.2万坪。
このように、オーケーでは毎年新店をつくり、毎年売上を増やし続けることが重要ととらえ、売上を増やせる商品を積極的に取り扱う戦略を立てて推進。コストを圧縮する仕組みづくりにも取り組んでいる。その成果が、顧客満足度の高さに反映されていると言えよう。
今後の出店予定地域は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県を包み込む国道16号線の内側である。
郊外立地の場合、売場面積600坪以上で1,000坪の大型店が標準。一方で、都内立地の場合は200坪以上の店をつくってきたが、昨年以来150坪~200坪の小型店も出店している。現状200坪以下の店は、23区に6店、それ以外に4店あるが都心回帰の人口動態を踏まえ、もっと増やしていく予定だ。
始まった「ユニーク」で便利な試みと今後の課題
ユニークなのは「オーケークラブ」会員を対象に、会員同士が支え合う買物代行サービス「お友達宅配」を昨年6月から実験的に始めたこと。これは宅配会員になった人が、専用アプリを使って、近くのお友達登録した人に依頼して、オーケーの店舗で買いたいものを買ってきてもらうシステムで、代金と買物手数料10%(最低金額300円)を買物代行者に支払う。毎日の買物が困難な高齢者のニーズに応えるのを主な目的としており、店舗を絞って試行錯誤中。経験を積み上げて利用を広げる意向。
オーケーでは経営課題として、年々悪化する総経費率を挙げている。17年3月期は16.35%となっていた。「成長の原点は総経費率15%以内と認識していながら、疎かにしていた。深く反省し、まず第一の課題として取り組み、20年3月期に14%台復帰を目指す」(オーケー・広報)としており、人件費の高騰もあって難しい問題ではあるが、寒川の物流センター建設をはじめ対策を着々と打っているので、今後の鮮やかな解決策に期待したい。
Photo by: 長浜淳之介