事実上の「価格凍結」に踏み切った。
イオンは6月21日、プライベートブランド(PB)「トップバリュ」で展開する約5000品目のうち、ほぼすべての商品で価格を当面据え置くと発表した。マヨネーズとカップ麺、ティッシュペーパーの3品目に限り、7月4日から4~25%値上げする。
イオンは2021年9月にトップバリュの価格凍結を宣言。6月末までは価格を据え置くとしてきたが、原材料価格の高騰や円安などの逆風が吹く中、7月以降の対応が注目されていた。
「お客様からも、価格凍結の継続を望む声が多く寄せられている」。イオングループのPB開発を担うイオントップバリュの和田浩二マーケティング本部長は6月21日に開いた会見で、値上げに対する顧客の拒否反応が価格維持を決めた大きな要因だと明らかにした。
価格凍結で販売数量は1割アップ
イオンなどの総合スーパー(GMS)や食品スーパー各社は、大手メーカーのナショナルブランド(NB)商品より割安なPBを販売することで集客につなげてきた。
原材料高に直面する中でも、軒並み値上げしているNBと異なり、PBに関しては各社で判断が分かれている。イオンや西友が価格据え置きを基本路線とする一方で、小売り最大手のセブン&アイ・ホールディングスは4月以降、販売価格への転嫁を順次進めている。
イオンがPB価格を維持したのは、節約志向が強まる消費者を囲い込むことで販売シェア拡大につなげる狙いがある。
トップバリュの販売数量は昨年の価格凍結宣言以降、品目によっては1.5倍程度に伸び、全体でも10%近く増加しているという。同じくPB価格を凍結していた西友も7月から一部商品を値上げする方針だが、価格を据え置く品目のほうが多い。「価格据え置きは、改めて当社のPBに注目していただくきっかけとなった」(西友広報)。
実際、足元で消費者の購買は割安感のあるPBへとシフトしているようだ。
インテージの調査によると、全国のスーパーでの食品販売における2022年5月のPB比率は、メーカーの値上げラッシュが本格化する前の2021年3月と比べ、キャノーラ油で10ポイント、マヨネーズで5ポイント以上それぞれ上昇。NBの値上げ幅が大きい品目ほど、PB志向が高まっている傾向が見て取れる。
メーカーとの直接取引で大量発注するPBは仕入れコストを抑えられるため、小売り側の利益率はNBと比べ相対的に高い。原材料価格上昇の打撃は当然受けるが、イオンでは値上げ回避のため、包装の簡易化や配送方法の効率化などによるコスト削減を積み重ねた。
例えばウィンナーでは包装を変更することで、プラスチックを3割ほど削減し、商品の体積が減ったことで配送効率も上昇したという。
安さを先導する「プライスリーダー」?
価格据え置きで消費者の支持は拡大する一方、取引先からは悲鳴も聞こえてくる。
トップバリュは、イオンと資本関係を持つ地方スーパーなどでも広く販売されている。トップバリュを取り扱うスーパーの関係者は「(イオンからの)仕入れ価格は上がっていて、扱いが難しい」と明かす。凍結宣言などにより小売価格を上げづらい状況が続く中、トップバリュは売れたところでうまみの乏しい商品になっているようだ。
製造を受託するメーカーの間でも、価格据え置きに対して歓迎ムードは薄い。大手メーカーの多くは自社ブランドのNB商品も製造しているが、値上げしたNBとPBの価格差がさらに広がれば、店頭でNBの販売シェアを奪われかねないからだ。
メーカーにとってイオンのPBは大口発注となるため、工場の稼働率維持を考えると離脱しづらい。ある食品メーカーの幹部は「大手スーパーのPBは安さを先導する『プライスリーダー』だ。適正な値上げをしてほしい」と苦言を呈する。
イオンが値上げに踏み切らなかった理由として、商品力の問題もある。
最大のライバルであるセブン&アイのPB「セブンプレミアム」は、味や品質の高さを武器にした高付加価値のPBとしての地位を確立し、価格訴求が中心だったPBに風穴を開けた。品質で差別化すれば、消費者の来店動機にもつながる。
NB(ナショナルブランド)との価格差が目立つマヨネーズ。トップバリュでも、7月4日から値上げに踏み切る(撮影:尾形文繁)
イオンも近年は高付加価値商品の開発を進めてきた。「お客様満足度80%以上の評価をいただいた商品のみ発売する」という基準を設けた高価格帯ブランド「トップバリュ セレクト」を2015年に立ち上げ、品目数を拡大してきた。
ただ、業界内ではイオンの高付加価値商品はまだ力不足との見方が強い。あるスーパーの幹部も「セブンプレミアムは別格。(イオンも含めて)ほかのPBは価格で勝負しないとなかなか戦えない」と言う。
イオンは価格訴求色の強いトップバリュベストプライスだけではなく、高価格帯のトップバリュセレクトを含めて価格凍結を行っている。値上げする3品目以外の商品に関しては「8月もできればそのまま行きたい。値上げを行う場合も最小限にとどめたい」(イオントップバリュの和田本部長)。
今回は価格据え置きの期限を設定しなかったイオン。流通の巨人のやせ我慢はいつまで続くか。メーカーや小売関係者が気をもむ局面に、まだ終わりは見えない。
(中野 大樹 : 東洋経済 記者)