2021年(1月~11月)、日刊SPA!で反響の大きかった記事ベスト10を発表。今年、大きな影響があった「ニュース・コロナ」部門の第7位はこちら!(初公開日 2021年6月14日、記事は取材時の状況)
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◆イトーヨーカ堂の閉店が続いている
© 日刊SPA! 2021年5月9日、北海道旭川市ーー。地元の生活を支えてきたイトーヨーカ堂旭川店が40年の歴史に幕を閉じました。閉店時の店長によるお別れの挨拶には、詰めかけた約200人の市民が拍手で見送り、涙を流した人もいたという報道もあります。
さらに同年2月28日。人口35万人を誇る福島県いわき市。街の中心部、平地区のシンボル的存在だったイトーヨーカ堂平店が閉店しました。
こちらも1971年に建てられた施設が施設老朽化し、東日本大震災時の損傷などもあり、「地域のお客様のニーズに対応できなくなった」ことを理由に50年以上の歴史に幕を閉じています。
実はいま、あなたがかつて育った地元でもイトーヨーカ堂の閉店が相次いでいるのです。
少しだけ例を挙げるとしても、これだけの店舗が閉店しています。
2019年1月20日 釧路店(北海道)
2019年2月17日 古河店(茨城県)
2019年2月17日 東大阪店(大阪府)
2019年8月25日 上福岡東店(埼玉県)
2020年5月31日 錦店(埼玉県)
2021年2月14日 田無店(東京都)
2021年2月21日 伊勢崎店(群馬県)
2021年2月23日 小山店(栃木県)
2021年2月28日 平店(福島県)
2021年5月9日 旭川店(北海道)
2021年8月22日 沼津店(静岡県)※予定
2022年1月16日 日立店(茨城県)※予定
(※日付は閉店日)
北海道、東北、北関東を中心に挙げましたが、これでも一部です。なぜここまで閉店が相次いでいるのか。背景には、イオングループの存在があります。
◆”イオン”と一口で言うけれど
イオンはイトーヨーカ堂と同じ「総合スーパー」に分類されます。しかし、イオンはそれだけではありません。
駐車収容台数が何千台もある「イオンモール」もあります。消費者からすれば、そこが総合スーパーであろうが、ABCマートやユニクロが入っているモールであろうが、関係なくそこが買い物をしやすいから利用するわけです。さらにあなたの近所に「まいばすけっと」という生鮮食品も扱うコンビニはありませんか?
あれも”イオン”です(イオングループのまいばすけっと株式会社が運営)。そう、イオンは複数の店舗形態を持つ小売企業なのです。
つまり、「イトーヨーカ堂VSイオン連合」という図式が現在のスーパー業界の正しい見方です。
◆イオンはスーパーのふりをした不動産。イトーヨーカ堂は…
© 日刊SPA! いま、小売業の世界は、総合スーパー、モール、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど異業種での競争が激化しています。ここで、情報を整理しておきます。
イトーヨーカ堂のような総合スーパーは、日常生活で必要な物を総合的に扱う、大衆向けの大規模な小売業態であり、「ゼネラルマーチャンダイズストア(GMS)」と呼ばれます。
一方、イオンモールに代表される、モールは不動産業です。
不動産業の中でも特に「ディベロッパー」に分類されます。商業施設を「イオンモール」として作り、そこへの出店料で儲けるビジネスモデルです。このイオンモールにイオンの小売店も出店しているわけです。ディベロッパーで儲かる上に、さらに顧客も集客できるのがイオンの強みです。
ほとんどのイオンモールは、イオンモール株式会社が運営・管理をしています。
イオンモール株式会社はショッピングセンターを開発・運営している会社であり、その中に「核テナント」として入っているのがイオン。ちなみに、イオン株式会社はイオンモール株式会社の株を約58%持っています。
話を戻します。
イオンは総合スーパーの「イオン」、スーパーマーケットの「マックスバリュ」、ディベロッパーの「イオンモール」などを持っており、これにイトーヨーカ堂が押される形で閉店を余儀なくされると考えられます。この状況、勝ち目はあるでしょうか。
◆敵は麹町にあり。イオンの”宣戦布告”
イトーヨーカ堂はこの”迫り来るイオンの危機”に早くから気づいており、抜本的な構造改革を進めてきています。既存の総合スーパーのスキームを壊し、新たな事業モデルの再創造を進めようとしていたのです。
すでに例に出したように、イトーヨーカ堂はこの3年で店舗数を大幅に減らしてきました。また、不採算店舗は外部企業との連携を模索し、それもできなければ閉鎖を検討してきました。
同社が閉店以外の道を模索した場合、核テナントである自社運営のスーパーではなく、有力テナントの誘致によりショッピングセンター化を図るという「総合スーパー」の存在そのものを否定する苛烈な改革を実行してきました。
このような改革を行う背景には、イオンが2017年12月に発表し中期経営計画による「宣戦布告」があったと言われています。イオンは中期経営計画発表の場で、「首都圏以外の地方で圧倒的なシェアと拠点数を取っていくことは非常に重要」であり、「全国の系列スーパーを地域ごとに束ねる」計画を明らかにしています。
このイオンの改革の影響を受けるのは、間違いなく、各地の地場スーパーです。そう、まさにイトーヨーカ堂そのものなのです。
◆”イオン化”するには小さい。”食品スーパー”にするには大きすぎる
© 日刊SPA! こうした状況下でイトーヨーカ堂が取るべき策は、都市部に経営資源を集中させ、弱い地方は撤退するか、または資本関係を持つパートナーに運営を任せる方法です。しかし、地方店を「分社化」する計画も、全てが上手くいくわけではありません。
仮に閉店したイトーヨーカ堂旧店舗を地元のスーパーに譲ったとします。が、もともと食品を中心に取り扱っていたスーパーは、ヨーカドーのような総合スーパーの店舗面積は大きすぎて、運営が手に負えない。
結果、「大きすぎて入れない」といった事例が出ています。もちろん、イオンモールのような大規模モールにできるほどイトーヨーカ堂の店舗は大きくありません。
◆もう「行ってみヨーカドー」はできないのか?
© 日刊SPA! ここまでみてきたように、イトーヨーカ堂は、大きなモールに力負けしたと言えます。しかし、改革の兆しも出てきています。足元の業績を見てみましょう。
セブン&アイ・ホールディングスが4月8日に発表した2021年2月期決算によると、イトーヨーカ堂の営業収益は1兆809億3400万円(8.8%減)。営業利益77億8100万円(19.3%増)、当期損失37億500万円(前期は16億7400万円の当期利益)となりました。
店舗構造改革を推進したことや、巣ごもり需要に対応した食品の売上は伸長したものの、この1年間の営業時間短縮や休業が影響し、売り上げは前年を下回りました。
しかし…。営業利益に注目してください。
構造改革を実施した店舗の収益性改善により、営業利益は77億8100万円(19.3%増)となっています。イトーヨーカ堂は大幅に店舗を閉店した一方で、2016年から60店強を構造改革することを決定。その店舗で利益を出せるようになってきています。
また、2020年は「ヨークフーズ(旧食品館イトーヨカドー)」などの小規模な20店舗を、グループ子会社である株式会社ヨークに移管することで、一店一店の稼ぐ力を底上げしてきています。まだまだイトーヨーカ堂のロゴを街中で見かけることはできそうです。
◆「お母さんがこの服イトーヨーカ堂で買ってきた」は過去のもの
ここまでイトーヨーカ堂の現状について振り返ってきました。最後に、同社の「復活のカギ」について話をまとめます。
イトーヨーカ堂の店舗改革の鍵は以下の三つです。
1:ライフスタイル売り場の大胆な減積
2:食をテーマにしたゾーニング
3:大型テナントを上層階に誘致
まずは一点目。ライフスタイル売り場とは、衣料品コーナーのことです。昔、お母さんが「イトーヨーカ堂でトレーナーを買ってきた」ということがありませんでしたか?
「この新しい下着、どこの?」と聞くと「ヨーカドーで安かったから買ってきたわよ」というアレです。実は、イトーヨーカ堂は衣料品が祖業であり「衣料のヨーカ堂」と長く言われてきました。
しかし、その自社のアイデンティティとも言える部門が足を引っ張っていたのです。結果、同社はこのライフスタイル売り場を大幅に減積する決断を下しました。
◆ポッポでフライドポテト
二つ目。コロナ以前ではありますが、イトーヨーカ堂はフードコートと食物販テナント、自営食品売場の一体感を醸成した売場づくりを行ってきました。例えば、大森店(東京都)の改革が挙げられるでしょう。
大森店は2017年12月、4店の新規テナントを導入しています。入居したのは、輸入食品の「カルディ」、洋菓子の「シャトレーゼ」、ベーカリーの「アンティーク」、「コメダ珈琲」。いずれも人気の高い店舗を1階北側の入口に配置したのです。
イトーヨーカ堂でお腹が空いたと言えば、ポッポでフライドポテト(旧メニュー名「山盛りポテト」)を買うのが定番でしたが、これからのイトーヨーカ堂ではその選択肢が増えることになりそうです。
© 日刊SPA! ◆衣料部門はモール化するか?
最後の「大型テナント誘致」も大胆な決断です。
衣料品中心の階では、カジュアルファッションの「GU」、シューズショップの「ABCマート」、100円ショップの「Seria(セリア)」というヤングファミリー層の支持が高いテナントを導入し始めているのです。
今後、お母さんが買ってくるのは「ヨーカドーの服」ではなく「ヨーカドーの中のGUで買ってきた服」になりそうです。
2020年にはイトーヨーカ堂は、100周年を迎えています。老舗が「自己を否定」するところからはじめた令和の大幅改革。駅前のシンボルとして長年地域に愛されてきた場所に「行ってみヨーカドー」する人が再び増える可能性に期待したいです。
<文/馬渕磨理子>
【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi