イトーヨーカ堂の閉店ラッシュでドンキホーテの笑いが止まらない! 居抜き物件を続々入手し、年商1兆円にジワリ…

イトーヨーカ堂やユニーといった総合スーパー(GMS)の相次ぐ閉店ラッシュを好機ととらえ、“虎視眈々(こしたんたん)”と閉鎖物件を狙うのが、ディスカウントストア大手のドンキホーテホールディングス(HD)だ。業績不振で撤退した店舗を改装して入居する「居抜き」と呼ばれる手法でローコストの出店を果たしつつ、独自の商品展開で集客力を強化し、売上高や利益を伸ばしている。中期的な目標とする平成32年度までの売上高1兆円、店舗数500店の達成に向け、閉鎖店舗を飲み込みながら再生し、成長していく同社の今後の動きに注目が集まっている。

「われわれにとってまさに千載一遇のチャンスが訪れている。いろんな会社から直接、居抜き物件の相談は毎日のようにひっきりなしにある」。ドンキホーテHDの大原孝治社長はこのように“うれしい悲鳴”をあげる。

消費者の嗜好の多様化や専門店の台頭もあって、食品から衣料品、雑貨など幅広くそろえるGMSは各社とも苦戦が続いている。

閉鎖店舗の地主や、撤退による市街地の空洞化を嫌う地域住民などにとって、跡地に出店するドンキは引っ張りだこだ。かつては深夜営業が地元住民から敬遠され、出店反対運動が起きたこともあったが、隔世の感ともいえる。

ドンキは28年6月期に過去最高の40店を出店した。8割にあたる32店は閉鎖店舗を改装した居抜き物件だった。ドンキの入居前は、GMS、パチンコ店、専門店、家電量販店など多種多様な店舗が並ぶ。27年5~6月に約60店の不採算店を閉店したヤマダ電機の店舗だった場所も含まれている。

JR立川駅北口から徒歩4分の東京都立川市の中心市街地に今年2月にオープンした「MEGAドン・キホーテ立川店」。かつて「ダイエー立川店」だった場所だ。ダイエー立川店は昭和45年にオープン。近年は業績不振に加え、建物の老朽化もあって平成26年2月に閉店した。解体してマンションにする計画も持ち上がったが、ドンキが耐震補強や改装をし、生まれ変った典型的な居抜き物件だ。

約1万1000平方メートルの売り場には、トイレットペーパーや食品・飲料といった日用品から、高級ブランドの腕時計やバッグまで約10万点の品物をそろえている。

9月中旬のある平日の昼間、店内を見て回ると、多くの買い物客でにぎわっていた。ドンキによると、館全体の売上高は閉店直前のダイエー時代に比べて2倍以上に伸びているという。

買い物をして出てきた同市の主婦(65)は、「ダイエーが閉まるといったときは困ったけど、ドンキになってから品ぞろえもいいし、助かっている」と話す。

同じ立地でここまで売り上げが変わるのには、ドンキ独自の戦略が奏功している。立川店は改装時に1階入り口の中央付近に新たに大きな階段を作った。1階の売り場面積は減ったが、来店客が自然と2階より上の階にも行くようにする工夫だ。滞在時間を延ばし、さまざまな商品を見ることで「ついで買い」を促す戦略だ。もちろん1階や地下1階の売り場では、消費者の需要が高い食品も充実させている。

商品区分も「160以上」(大原社長)と非常に細かく分かれている。売れ筋の変化に対して、大原社長は「自由自在のパズルのような対応」を日常的にやっていると明かす。

売り場づくりや商品展開など細かな変化対応が同社の強みとなっている。

GMS大手のイトーヨーカ堂は5年間で40店、ユニーも2年半で36店を閉鎖する予定と、居抜きの追い風を受けるドンキだが、全てに出店するわけではない。GMSなどの閉店が一段落すれば、コストの高い新築物件で出店を続けるかの選択も迫られる。

拡大するインターネット通販への対抗策も課題だ。ドンキは年内にも店舗の全商品を1~2時間で配送する新サービスを国内向けに導入することを示しているが、ネット通販の短時間配送などのサービス競争はアマゾン・ジャパンやヨドバシカメラの間でも激化している。顧客争奪戦に勝ち抜くのは簡単ではない。

また食品以外の品ぞろえの多様さが支持されてきたこともあり、「流通業界の中でも比較的商圏が広い」(アナリスト)とされる。店舗数が増えれば、近隣店舗での顧客争奪が起きる懸念も捨てきれない。

ドンキを今後も成長軌道に乗せられるのか。かじ取りする大原社長の手腕も問われることとなる。(永田岳彦)

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