物心ついた時から携帯を持つ、10歳代後半から20歳代半ばの若者たち。彼らのコミュニケーションの取り方は前の世代と大きく変化している。それが消費にどんな影響を与えているのか。「ケータイ世代」の消費について、若者について研究をしている博報堂 若者生活研究室アナリストの原田曜平氏に聞いた。
人間関係が持ち上がっていき、友達が増える
若者のコミュニケーションの変化が消費を変えたという原田氏
若者のコミュニケーションの変化が消費を変えたという原田氏
――若者たちのコミュニケーションの取り方はどのように変化したのでしょうか。
原田 若者たちのメルアド登録数は平均100件を超えます。大人にはまったく理解できない人間関係が生まれているのです。昔だったら中学から高校に進むと、中学時代の友達は疎遠になって、代わりに高校で新しい友達ができました。でも今の若者の場合は、卒業後も友達のメルアドを「保存」しているので、簡単に連絡を取り合うことができ、友人関係そのものが「継続性」のあるものになりました。それも同級生、先輩、部活仲間、塾の友達、違う学校の友達といった具合に、どんどん増えていきます。メールのやりとり以外にも「mixi」などのSNSやブログを読めば近況がわかります。
――消費にどのような影響を与えましたか。
原田 タテにもヨコにも広がった人間関係をさばくのは、とにかく大変です。飲み会にしても1日にいくつもかけもちするので、行く店の数は増えていく。逆に、消費する単価は低くなっているはずです。小さな消費を大量にする、これはポイントだと思います。
――他にはどんな傾向が?
原田 1回の書き込みに500件近くのコメントがつく女子高生や女子大生の人気ブログがたくさんあります。内容は、おいしかった食べ物や好きなファッションに関することで、私たちからみるとたいしたことはないようにみえるのですが、これでヒット商品が生まれたこともあります。空気を読んで周りに合わせる「同調型」や「共感型」が多く、人と違うことをするのは嫌い。人気ブロガーお墨付きのモノを買うという傾向も、携帯世代の特徴とも言えます。
実家が東京にあるのに「ルームシェア」する
――若者消費の変化はほかにもあります。
原田 実家が東京にあるのに「ルームシェア」する若者が増えている、と知り合いの社長から聞きました。青山や六本木といった便利な場所にあり、個室のほかに共同の風呂とトイレに共有スペースがついて月額賃料10~15万円と結構高い。1人暮らしもできる値段ですから、昔のようにお金がなくてシェアするんじゃなく、なんとなく人の気配が欲しいという感じなんです。
もっとも、バスタブは海外によくある猫足のタイプにしたり、女優さんが使うような豪華な「女優ミラー」をつけたり、と随所に工夫がされています。1 人暮らしではなかなかできない経験ができるのもうけているみたいです。
――注目している新傾向はなんですか。
原田 東京・下町の谷中銀座に休日に行ってみてください。若者であふれているんです。巣鴨の地蔵通りでも、夕方6 時を過ぎると何人も集まっています。若者と縁遠いはずのこうした場所がなぜ注目されているのか、というのが大事です。上の世代はこれを「レトロブームだ」と思ってしまいますが、そうでしょうか。国が成熟してモノが溢れている今、若者はフラットに物事を見て「いい」と思うものは取り入れていきます。だから、古いと思われているものの中からこれから見直されるものが出てくると思います。例えば銭湯です。最近都内で温泉が人気なのをみると、復活の可能性がありますね。これも同じ現象です。
――若者にモノを売るには、過去にヒントがある?
原田 と言っても、ただ過去に戻すのではダメです。都内の温泉にしても昔より大きな風呂になって、プールやジムをつけたりしています。どこかをアレンジして新しいサービスにしてくのがポイントです。ルームシェアや温泉、巣鴨のケースのほかにも同じような事例がどんどん出てきているし、これからも出てくると思いますよ。若い人の感覚をどれだけ取り込んでいけるか、それが大切だと思います。
原田曜平(はらだ・ようへい)プロフィール
博報堂若者生活研究室アナリスト。1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。博報堂生活総合研究所時代にJAAA広告賞・新人部門を受賞。専門は若者研究。