インドの民族衣装「サリー」の素材として脚光 旭化成ベンベルグが「復活」、工場を増設

旭化成グループの旭化成せんい(大阪市北区)が2014年6月、化学繊維「ベンベルグ(キュプラ繊維のブランド名)」を生産する宮崎県延岡市の延岡工場を増設し、話題になっている。
空洞化が進む日本の繊維業界が国内で大型投資に踏み切るのは約30年ぶりの「快挙」となるためだ。ベンベルグの生産増強は、経済成長が続くインドで女性の民族衣装「サリー」の素材として急速に売り上げを伸ばしていることが背景にある。
光沢があり、肌触りがよいうえ、吸湿性にも優れる
ベンベルグは、綿の種子を包むうぶ毛状の繊維「コットンリンター」を原料とする再生セルロース繊維。光沢があり、肌触りがよいうえ、吸湿性にも優れており、国内でも高級スーツの裏地や下着などに幅広く活用されている。元々は1857年にドイツのベンベルグ社が開発、旭化成はベンベルグ社から技術を導入し、1931年に延岡工場で生産を開始した。生産には高い技術が必要なうえ、他の化学繊維に押されるなどして、ベンベルグを生産しているのは現在、世界中で旭化成の延岡工場だけとなっている。
延岡工場ではここ数年、フル生産状態が続いてきた。インドでサリーの素材としてベンベルグの販売が急速に拡大してきたためだ。旭化成がインドに初めてベンベルグを輸出したのは1976年。隣国のパキスタンでスカーフなどの素材として売れていたことがきっかけだった。
当時、インドはまだ購買力が低く、すぐに売れる状況になかったが、旭化成は現地の中小企業でもある旗屋を訪ね、加工や染色の技術を教えながらベンベルグの普及に努めた。サリーの素材はシルクがトップとされるが、シルクは高額だ。
インドの経済成長とともに売り上げは徐々に伸びる
ベンベルグは「シルクに最も近い化学繊維」と呼ばれ、機能性はシルクと並ぶ水準だが、価格はシルクの半分程度。インドの経済成長とともに、ベンベルグの売り上げは徐々に伸び、生産が追いつかないほどになっていた。そこで旭化成は30億円かけて、延岡工場の生産量を従来の10%増強、生産能力を年間計1万7000トン規模に引き上げた。
そもそも日本の繊維産業は、富岡製糸場(群馬県富岡市)に象徴されるように、明治時代以降、日本の近代化を牽引し、繊維製品という日本の最大の輸出品を供給した。第2次世界大戦後も日本のリーディング産業として存在感を示したが、プラザ合意による円高などに加え、近年は中国やアジア諸国からの安価な輸出品の攻勢を受けて国際競争力は急低下。大手各社はそろって国内から海外への生産拠点を移転し、国内産業としては勢いを失っている。
旭化成は延岡工場増設にも慎重だったが、高い技術が必要な高機能繊維であるベンベルグは海外での生産は難しく、国内で担い続けるべきだと判断。繊維業界では久しぶりの大型投資を決断した。旭化成は「今後もインド市場の状況を注意深く見守る」として、これから先の大規模投資には引き続き慎重な姿勢だ。しかし、高機能を武器に世界市場で差別化を図るという戦略は、衰退し続ける国内繊維産業の一つの光ともなりそうだ。

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