インフルエンザが9月なのに流行し始めた理由 グローバル化やスポーツイベント開催に注意

インフルエンザと聞けば冬場の病気というイメージがあるだろう。ところが、今まさに流行が始まっている。国立感染症研究所の9月17日の発表によると、9月2〜8日の間のインフルエンザ感染者数は、定点医療機関あたり0.77人で、前週から倍増した。大流行した2009年に次ぐ勢いとなっている。

流行のきっかけは2学期が始まったことだろう。9月2日には東京都東村山市の中学校がインフルエンザで学級閉鎖となった。

それにしても、夏場にインフルエンザが流行するとは奇妙だ。インフルエンザは冬場の乾燥した時期に流行すると考えられてきた。近年、状況は変わりつつあるようだ。なぜだろう。

東南アジアなどの熱帯・亜熱帯では夏にも流行

実は、インフルエンザの流行が冬場に多いのは日本など温帯地域の特徴だ。東南アジアなどの熱帯・亜熱帯では、冬だけでなく、夏にも流行する。

インフルエンザは、湿潤で暑い季節にも流行しうる。2009年の新型インフルエンザの流行は夏場に起こったし、今年8月には沖縄県でインフルエンザ注意報が発令されている。まれではあるが、わが国でも夏場にインフルエンザが流行することがある。

なぜ、近年は夏場の流行が目立つのだろう。このことを説明する前に、世界でのインフルエンザの流行のメカニズムをご紹介したい。

実はインフルエンザの流行は、世界中を「循環」している。日本の冬場に北半球、夏場に南半球で流行する。つまり、1年をかけて、北半球から南半球を「往復」する。この結果、その途上にある熱帯や亜熱帯は半年に1度のペースで年に2回流行する。

近年、この状況に変化が生じている。原因はグローバル化の加速だ。とくに注目すべきは、夏休み期間の7〜8月には多くの日本人が海外に出かけ、海外からも旅行客が押し寄せることだ。彼らがインフルエンザを海外から日本に持ち込むのだ。

南半球との交流が拡大

ポイントは南半球との交流が拡大していることだ。この時期、南半球はインフルエンザ流行の真っ最中だ。

日本政府観光局によれば、今年の7〜8月にオーストラリアから6万1900人が入国している。対前年比7.4%の増加だ。

日本人もオーストラリアに出かける。JTB総合研究所が各国政府の発表統計より作成したデータによれば、今年7月に、オーストラリアを訪問した日本人は2万8000人だ。8月分は未発表だが、合計すると5万人は越えるだろう。

日本とシドニー間の航空機での所要時間は10時間程度だ。インフルエンザ感染の潜伏期は1〜3日間程度だから、オーストラリアで感染した人が発症する前に入国あるいは帰国してもおかしくない。

南半球はオーストラリア以外にも、ニュージーランドや南米、さらにアフリカがある。近年、交流は加速している。

今秋はとくに注意が必要だ。ラグビーワールドカップが開催されているからだ。

ラグビーはイギリス発祥の球技だ。イギリスと、かつて植民地であったイギリス連邦で盛んだ。現在、ラグビーの世界ランキングのトップ7はすべてイギリス連邦に属する国だ。南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、多くが南半球に存在する。

そして来年は東京五輪の開催を控える。その規模はラグビーワールドカップとは比較にならない。インフルエンザを含め、さまざまな感染症が海外から日本に持ち込まれるかもしれない。

流行を防ぐにはどうすればいいだろうか。マスクを利用されている人もおられるだろう。インフルエンザが流行るとマスクが売れる。ところが、意外かも知れないが、インフルエンザ対策でマスクの有効性は証明されていない。

9月3日、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の研究者が興味深い研究結果を公表した。

彼らは2862人の医療従事者を、一般用のマスクと、「N95」という高性能マスクをつける群に無作為に割り付けて、予防効果を検証したが、両群に大きな差はなかった。

「N95マスク」は防塵マスクの規格を示す。アメリカの労働安全衛生研究所が定めたもので、きちんと装着すると、フィルターを介して、固体粒子を95%以上補足する。

アメリカでは医療機関に「N95マスク」を導入する際、医療スタッフに対して顔面への密着度を評価するための「フィットテスト」が義務づけられている。その後は年に1回の頻度で行う。この詳細は「医療従事者のためのN95マスク適正使用ガイド」で公開されている。

医療用のマスクでも感染を防げない

筆者も「N95マスク」を装着したことがあるが、肌に密着し、息苦しさを覚えた。市販のマスクとは粉塵の吸入予防効果はまったく違う。ところが、「N95マスク」を用いても、インフルエンザの感染を防げなかった。

結局、インフルエンザ予防に有効なのはワクチンだ。この論文を発表したCDCの研究者たちも、インフルエンザを予防するにはワクチンしかないと明言している。

インフルエンザワクチンは、感染を完全には予防できないが、罹患しても軽症で済む。成人に接種した場合、2週間程度後から抗体が増え始め、4週でピークに達する。その後、3〜5カ月で低下するが、感染者と接触するなどして、ウイルスに暴露され続ければ、効果はもっと長持ちする。年末から年始に接種すれば、冬場だけでなく、来夏にも効果が期待できるかもしれない。ぜひ、インフルエンザの予防接種を受けることを勧めたい。

著者:上 昌広

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