ウイルスを不活化し人体には無害な「遠紫外線」の効果

新型コロナウイルスの感染経路のひとつは、空気中を漂う小さなエアロゾル(飛沫核)とされている。研究によると、新型コロナウイルスに汚染されたエアロゾル粒子は、空気中に放たれると、数分から数時間そのまま浮遊する。そうした粒子を吸い込むことで感染するわけだ。

感染した粒子が漂う空気を除菌する方法はないものかと、これまで数々の実験が行われてきた。そこで、換気や、空気のろ過に加え、遠紫外線(Far-UVC)のライトが人に害を与えずにウイルスを不活化する仕組みを示した研究を紹介したい。

紫外線殺菌ライトのメリットとデメリット

紫外線の殺菌ライトには、いくつかの細菌やウイルスの感染を抑える作用があることが実証されている。たとえば、麻疹(はしか)やおたふくかぜの感染を抑えられるほか、モルモットを使った結核の実験では、感染が70%抑制されたことが示された。

しかし、紫外線殺菌ライトを巡っては、波長が254nm(ナノメートル)と長く、人体に有害で、皮膚がんや眼の損傷を引き起こすことが大きな課題となってきた。慎重な使用を心がけたとしても、紫外線殺菌ライトを誤って浴びてしまう事故が起きる可能性はあり、痛みを伴うやけどを負ったり損傷を受けたりする危険性は残る。

遠紫外線は人体に無害

紫外線殺菌ライトを使った場合の悪影響を回避すべく、米コロンビア大学アービング医療センターの科学者グループが、異なるタイプの紫外線である遠紫外線(Far-UVC)を使った実験を行った。遠紫外線は、波長が200~230nmと短く、人間の皮膚への透過力が低い一方で、空気中を漂う小さなウイルス粒子を攻撃する効果はある。

遠紫外線のウイルス不活化効果を測定

研究では、空気中に含まれたウイルスの不活化率を測定するために、オフィスを模した小部屋を用意した。そして、一般的なオフィス環境を再現するために、1時間に3度の換気を行った。同時に、黄色ブドウ球菌に汚染されたエアロゾル粒子を、一定の濃度に達するまで室内に噴霧した。このプロセスには60分ほどかかった。

次に、天井に設置された5台の遠紫外線ランプにスイッチを入れ、床に向けてまっすぐ照射されるようにした。すると5分後には、空気中を漂う細菌の98%が不活化された。

さらに実験では、遠紫外線の強さを「高、中、低」と変更し、エアロゾル粒子を室内に絶えず噴射することで、遠紫外線の強度別効果をテストした。その結果、最大の効果を得られたのは、遠紫外線ランプを高か中の強さに維持したときだった。

遠紫外線のメリット

遠紫外線技術を使用する主なメリットは、遠紫外線の照射を受けたウイルスが変異できないところにある。ウイルスは通常、人体に侵入すると変異する。研究はまた、新型コロナウイルスの既存の変異株でも、将来的に発生するであろう変異株でも、遠紫外線によって同じように不活化できると確認している。

遠紫外線技術の別のメリットは、空気清浄機や殺菌性紫外線(GUV:germisidal UV)とは異なり、「きれいな空気」と混ぜなくても済む可能性があることだ。

遠紫外線はすでに、実生活の場で効果があることが明らかになっている。しかし、この技術の大規模な導入を検討する際には、光の強度や接触時間などに注意することも重要だ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは大きな屋内スペースに多数で集まることが困難になった。しかし遠紫外線を用いれば、より安全な環境を整えることができ、パンデミックのさなかでも安心して行動することができる。

とりわけ学校やコンサートホール、バー、レストランなどの公共の屋内スペースでは、空気の質を重視することが不可欠だ。遠紫外線が最大の効果を発揮するのは、換気や、空気のろ過、マスク着用、手洗いと並行して導入した場合だ。また、ワクチンの接種も忘れてはならない。

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