北海道下川町の「北海道バイオマスエネルギー」(塚田聡社長)の木質バイオマス発電施設が3月末で操業を停止した。豊富な森林資源を生かし、エネルギーの地産地消を実現する挑戦は、原料の需要と供給のバランスが崩れる中、コロナ禍が引き起こした世界的な木材価格の高騰「ウッドショック」の余波という想定外の事態もあり、暗礁に乗り上げた。
木質バイオマス発電は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を追い風に、木材調達や燃焼技術のノウハウを持つ大企業が相次いで参入した。
道内でも、日本製紙と双日が出資する国内最大級の勇払エネルギーセンター(苫小牧市、7万4950キロワット)▽住友林業と住友共同電力による紋別バイオマス発電(紋別市、5万キロワット)▽王子グループの王子グリーンエナジー江別(江別市、2万5400キロワット)などの大規模施設を含め、28事業が制度の認定を受けている。
北海道バイオマスエネルギーには、三井物産と北海道電力が出資。原料は下川町内など道北の未利用間伐材や道内にある三井物産の社有林から調達し、木質ペレットに加工し燃料にして発電する。
19年に下川町で出力1815キロワットの発電施設が稼働し、21年には当別町でも出力990キロワットの施設が稼働し事業が拡大した。FITでは間伐材等由来の2000キロワット未満という区分で、買い取り価格は太陽光の約4倍の1キロワット時当たり40円と、最も優遇されている。
面積の9割が森林の下川町は、林業が基幹産業の一つで、木質バイオマスエネルギーの導入を推進してきた。当初、施設で発電時に発生する熱を利用し、三井物産と町が共同で市街地の暖房や給湯を賄う計画で、北欧などの先進地では見慣れた光景が国内でも誕生すると期待が高まった。
しかし、民間主体の事業や原料不足などを懸念した町議会が17年に関連事業費を否決したため、町が計画を断念。熱は原料の乾燥など施設内での利用に変更され、操業開始を前に軌道修正を余儀なくされた。
稼働後は、道内で相次いで立地したバイオマス発電施設との競合が激化する中での原料調達を強いられた。ウッドショックの影響による国内材の価格高騰が追い打ちをかけ、事業継続が困難になった。これを受け、北洋銀行は1日、北海道バイオマスエネルギーに対する債権36億9600万円について、取り立て不能か遅延の恐れがあると発表。23年3月期の債務超過額は34億8600万円に上る。
塚田社長は「国有林材の価格が1・5~2倍になるなど高騰した上に、施設同士で原料の取り合いになった。機器のメンテナンス費など物価高によるコストもかさんだ。今後については検討中で、何も決まっていない。林業関係など町内に影響は避けられず申し訳ない」と声を落とす。
道内の木質バイオマス発電を取り巻く環境は厳しさを増すが、大規模施設の受け止めは冷静だ。
勇払エネルギーセンターに出資する日本製紙は「国産材価格も上がってきていると感じており、注視している」としながらも、「木材価格が高騰すればコストアップの要因になるが、長期契約や為替予約などの変動リスク対策を講じている。現時点で運転実績は計画通りであり、直ちに今後の計画を変更する必要性は感じていない」と説明する。
道内の現状について、道立総合研究機構林産試験場の利用部資源・システムグループの酒井明香研究主幹は「原料の需要に供給が追い付いておらず非常に厳しい」と指摘する。
17年に道内の未利用木質の発電設備への供給可能量を調べ、供給量不足を推計していたが、「当時より発電設備は増えた上に、道内で中心となるカラマツ、トドマツは本州のスギと比べ成長が遅く、急激な生産増も見込めない。ウッドショックのような想定外の要因も加わり、供給不足に拍車がかかっており、原料価格が高騰している」と分析。「原料を供給していた企業自らが参入するなど、流通も変化し、地域によっては原料の奪い合いになっている。自社工場から出た木質を利用する場合は別として、特に小規模発電施設は価格が1~2割上がっただけでも経営は厳しくなる」と話す。【横田信行】
固定価格買い取り制度(FIT)
太陽光、風力、地熱、バイオマス、中小水力で作った電気を、電力会社が10~20年間、国が定めた価格で高く買い取る仕組み。高コストの再生可能エネルギーの導入促進を目的に2012年に始まった。買い取り費用は電気料金に上乗せする。木質バイオマスとして間伐材などの林地残材や製材の端材、建築廃材のほか輸入したパームヤシの殻なども認められている。地球温暖化防止につながる森林の整備や山村地域の活性化に役立つとして、間伐材などを使った発電は特に高くなっている。