新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受けて、東京五輪の延期、中止の声が高まる中、対応に追われているIOC(国際オリンピック委員会)が18日(日本時間19日)新たな声明を発表した。IOCは17日(日本時間18日)に各国際競技団体との電話会議を行ったが、延期、中止の検討問題に一切触れず、「まだ4か月ある今、抜本的決断を下す必要はない」と”通常開催”の方針に何の変化もないという強気の表明をした。これに対してアスリートが、次々と怒り、批判、不安の声を上げたため、IOCは慌てて「特別な解決を求められるまれな状況に今はある。IOCは大会の尊厳やアスリートたちの健康を守る一方で、選手に最も影響の少ない形での解決方法を見つけるよう取り組む」との新声明を出した。
IOCは、NBAウォリアーズのステフィン・カリー、イタリアの自転車選手、ヴィンチェンツォ・ニバリ、スイスのプロテニスプレーヤー、スタン・ワウリンカら、著名アスリートのSNSの応援コメントを引用して掲載。MLBアストロズのカルロス・コレアは、「明るい日が我々の前にはある。この暗い時を乗り越えるために我々は一緒に取り組まなければならない」とコメントしていた。
米のLAタイムズ紙は、この声明を「IOCが選手からの批判に直面してコメントをわずかに後退させた」と受け取ったが、一方で「この状況では理想的な解決策はない。アスリートの責任と連帯に期待している」との矛盾するような一文もあった。「選手に最も影響の少ない形での解決」が、延期なのか、どうかについても言及されておらず、憶測だけがさらに独り歩きするような状況にはある。
IOCの煮え切らない態度にアスリート側の不安、批判の声は大きくなるばかりだ。
米のCNNは、「アスリートのリーダーたちが不安の声を上げ、彼らの間で反対意見が大きくなりつつある」と報じる記事の中で、7種競技の世界女王で、東京五輪の出場権を得ているカタリーナ・ジョンソン・トンプソン(英国)の怒りのコメントを紹介している。
「我々の周りにいる全員のリスクを抑えながら、どのように安全に練習を続けていけばいいのか。我々は、情報に従おうとしているが、IOCや地元政府の情報に違いがある。IOCは、五輪まで、わずか4カ月しかない中で『できる限り五輪への準備を進めるように選手たちに奨励する』と発言しているが、政府は、法令で、陸上トラック、ジム、公共施設を閉じ、人々を自宅に隔離することを実施している。もう練習で同じルーティンを続けることは不可能。プレッシャーを感じている」
トンプソンと同じく英国の陸上中距離の選手で東京五輪出場を目指しているジェシカ・ジャッドも、「一体、どのようにできる限りの準備を続けることができるというのだろう。どのレースで我々がタイムを出すことができて、いつ選考会が行われるのか。いつトレーニングが通常通りにできるようになるのか。誰か私に(情報を)共有してくれないだろうか」と、切実な訴えをしている。
またBBCによるとリオ五輪女子棒高跳びの金メダリスト、カテリナ・ステファニディ(ギリシャ)も「IOCが我々の健康をリスクにさらしている」と強烈に批判。
ボートで4度の五輪金メダルを獲得しているマシュー・ピンセント(英国)は、IOCのトーマス・バッハ会長に対して、ツイッターで、「選手たちの不安の声をしっかりと聞かず、すべての不安を考慮した上で、五輪を延期することが最良の選択だと言及しなかった」と批判した。
IOCの発表によると、まだ全体の43%の五輪出場選手が決定しておらず、それぞれの競技での五輪代表選考会がほとんど中止になっている状況。五輪の精神のひとつにアスリートファーストがあるのならば、アスリートの声に耳を傾けて、IOCは、一日でも早く延期の可能性を表明し、その具体的な検討に入るしかないのかもしれない。