オンリーワン目指した富岳 ガラパゴス化した京

日本のスーパーコンピューターが、9年ぶりに世界一に返り咲いた。新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、納入されたばかりの「富岳」を理化学研究所と富士通の技術者らが徹夜で調整し、未踏の速度をたたき出した。すでに新型コロナウイルスの研究に利用されたほか、商業的にも実績を上げ始めている。 【写真】2021年度の供用開始を目指すスパコン「富岳」=2020年6月16日午前、神戸市中央区、西岡臣撮影  「最初のコンセプトから10年。世界最高性能を示すことができた」。理研計算科学研究センターの松岡聡センター長は胸を張った。  スパコン研究者による組織が1993年から発表を始めた世界ランキング「TOP500」。毎年6月と11月に発表され、当初は日米が覇を争った。特に2002年に世界一になった日本の「地球シミュレータ」は、2位の米国製スパコンの5倍の速度を出し、宇宙開発で旧ソ連に先を越されたのに匹敵する「コンピュートニク」ショックと言われるほどの衝撃を米国に与えた。  だが、米国が巻き返しを図り、中国もスパコン開発に本格参入してくると、日本の存在感は急速に低下してしまう。  世界一を目指した「京」は、開発費が高すぎると批判され、主要企業が撤退するなど開発が混乱したこともあって、民主党政権の事業仕分けの対象になった。最終的に世界一は取ったものの、使い勝手が悪いとされて利用が広がらず、市販向けの派生スパコンもほとんど売れなかった。文部科学省の担当者は「最先端のスマホをつくったのにアプリがないようなもの。産業界からも避けられ、ガラパゴス化した」と話す。  そこで富岳は、「誰もが使いやすいオンリーワンのスパコン」を目標にした。自動車メーカーや生命科学の研究者らも気軽に利用できるよう、パソコンのプレゼンテーションソフトさえ動くようにしたほか、大量のデータを処理する人工知能(AI)や深層学習向けの機能もつけた。  省エネ化も進め、京の100倍の性能なのに消費電力は2~3倍に抑えた。試作機は昨秋、省エネ性能で世界一に。省エネに特化したスパコンでない汎用(はんよう)スパコンが世界一になるのは異例で、松岡さんは「実用性の高い車がスーパーカーに性能で勝ったようなもの」と語った。

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