カップヌードルの仕掛けはなぜウケる?:「いじられてなんぼ」のつっこまビリティ

世界初のカップ麺として、1971年に誕生した日清のカップヌードル。誕生から半世紀近く経った今も、「謎肉」などのバズワードを生み出し、社会現象を起こしている。主戦場はネット。企業SNSとしては「ギリギリ」感のあるコンテンツを投下し、ミレニアル世代にウケている。

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「こんなんあったら面白いな」

今日も日清食品ホールディングス宣伝部の岡崎俊英(36)は朝の通勤電車で頭をひねっていた。

岡崎はカップヌードルのブランドコミュニケーション全般を担当している。

電車の中で、あまりに真剣な表情の岡崎を心配した同僚からは、「深刻な顔をしていたけど大丈夫?」と言われることもある。表情の原因はカップヌードルに関する「ボケ」だ。SNSの発信を生活の中で考えている。

サイコロ状の具材を揶揄した「謎肉」の場合。岡崎は「なぞにく、なぞにく♪」とそれこそ「謎」なつぶやきを連投。1万7000以上もリツイートされた。

プロモーションと同時並行し、「謎肉」を初めて名前に盛り込んだ新商品「カップヌードルビッグ “謎肉祭“ 肉盛りペッパーしょうゆ」を開発。

つぶやきから約1カ月半後の2016年9月に販売し、当初の販売計画を大幅に上回り、一時は販売を休止するまでになった。

ここまで思い切ったボケができるのはなぜか。

ツッコミの余地を残す

岡崎の上司、宣伝部課長の佐野正作(48)は、「ネットがざわざわしているので、じゃあそれに乗ってしまおう、と。企業と消費者が一緒になって、楽しむことができるプロモーションをしている」と説明する。

「謎肉」はカップヌードルに入っているキューブ状の具材に対するネット民のいじりに便乗し、ニコニコ動画で「謎肉復活祭」を配信したり、「誰が得するかもわからない」という関連グッズまで発売したりした。

ネットの話題に老舗商品が乗って、自虐的にボケ、消費者との遊びが生まれていく。

岡崎は「投稿や広告にユニークなフックがあり、見た人が思わずつっこみたくなるような余地を残しておかないと、自分ごと、世の中ごとにならない」と話す。

それを「つっこまビリティ(ツッコミとアビリティを組み合わせた造語)」と岡崎は言う。ネットの世界に遊びに行って、いじられてなんぼ、というわけだ。

一方、岡崎が明かした「ドン滑り」の失敗例は、日清自身がノリもツッコミもしたツイートだ。リツイートは、29件にとどまった。

重要なのは、企業が、ボケとツッコミを完結させないこと。完結したことで、つっこみたくなる余地がなくなってしまった。

「企業と消費者が共有するものがなかった時代から、SNSにより、一緒に楽しむことができる時代になった。消費者と企業が双方向に関わることで、押し付けではなく、一緒に盛り上がる土壌をSNSで作ってきた」

と岡崎は振り返る。

社長直々の会議と即メール

日清がタイムリーにオモロイ発信ができる背景には、経営陣を含めた社内の体制も影響している。

日清食品の安藤徳隆社長(40)(日清食品ホールディングス副社長)と宣伝部は週に1度の定例の会議を開いている。意思決定者の社長と直接やりとりすることで、企画採否の判断がスピーディーにできる。

当然、時間をかけて練る企画もある。一方、「ウェブの発信の決定に何カ月もかかっていたら、流行を逃してしまう。突発的に起こることを敏感に察知しないと」と佐野が言うように、スピード重視の企画もある。

成果の報告も早い。大きなプロモーションを実施した翌日には、社長からメールが飛んでくることがある。

きれいな報告書よりも、次々と新しい企画を求められる。そんなケースが多いという。

「どの文脈で世の中に出ていくか」

「日清食品のプローモーションは黒以外は白」と他社から表現されたことがあるという。それほど自由ということだ。

一方、炎上の恐れも大きい。佐野は炎上の線引きの一例を「人を傷つけない、人の悪口を言わない、自虐的なネタ」と挙げる。際どいラインをどうして見極められているか、理由は佐野も岡崎も自覚的ではない。

SNSの文言は岡崎の原案をもとに、毎月のように社長出席の会議で決め、一線を守る。岡崎と佐野が心がけているのは、どの文脈で世の中に出ていくか、文脈を読むことが大切ということだ。

例えば、2017年の海の日に、海のない群馬県に「山の海の家」をオープンさせ、限定のシーフードヌードルをプレゼントした。

「ネット上で秘境の地と言われるなど、群馬には面白おかしく盛り上がれる、そういう文脈があった。だから王道の湘南ではなく、群馬に乗った」(岡崎)。「歴史に残るであろう群馬の海開き」をツイッターでライブ配信した。

営業は2日間限定だったが、「クオリティーに吹き出す」「破天荒」などと、ネットメディアをはじめ、新聞紙面も賑わした。

自分たちの仕掛けがどのように発信されるか、記事になったときの見出しまで考え、企画を練る。

発信の方法は、「ウェブメディアが取り上げたくなるやり方、(記事の見出しが)何文字かを意識して、どういう文脈で広がるかを想定している」と佐野が細かいこだわりを明かす。

メディア向けのリリースは、あえて全ての内容を盛り込まず、自己完結を避け、記者が読みたくなるような文面にしているという。

今や日清が商品を出せば、プロモーションをしなくても話題になる。「謎肉」商品の発売時は、販売開始、一時休止の発表、販売再開の発表、販売再開の4回のタイミングで、ヤフートップのトッピクスに掲載された。

人と同じことをしない

岡崎は、日清食品の根底に「普通を嫌う心」があると言う。 カップヌードルは、麺をカップに入れただけの商品ではなかった。発売当時は、「立ち食いなんてけしからん」という人もいたが、食文化や食習慣を変える画期的な商品だった。

「SNSの発信を面白がる人もいれば、嫌だと思う人がいることも理解している。当たり前を嫌い、人と同じことをしない、そうしないと新しいものが生み出せない。そういうアイデンティティーが僕たちには刷り込まれている」

(本文敬称略)
(文:木許はるみ、撮影:今村拓馬)

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