ガソリン車禁止へ、加速する環境対策への業界の本音

ここへ来て一気に動き出した日本における“自動車の電動化シフト”。筆者は様々な座組での議論に参加しているが、そうした議論では、疑問を感じざるを得ないことが多い。

 なぜ疑問が生じるのか、その理由を紹介したい。

「2030年代半ばにガソリン車販売禁止」の報道

 まずは、直近の世の中の動向から見ていこう。

 政府が、2030年代半ばに日本でガソリン車販売を禁止する方向で最終調整に入った。この動きを、2020年12月3日に新聞やテレビが大きく報じた。

 本稿執筆時点(12月7日)で政府からの正式な発表はないが、こうした施策の実行に向けた動きは菅政権発足(9月16日)直後から関係省庁内で見受けられた。

 まず11月末の衆議院予算委員会で、梶山弘志・経済産業大臣が、対象を自動車領域に絞らず再生可能エネルギーを含めた規制強化を目指す旨の発言をしている。

 続く12月1日には、政府の第5回成長戦略会議で実行計画が発表された。そのなかで、世界市場における電動化の潮流が紹介され、日本が電動化で更なる産業競争力を持つべきだとの提言が行われている。

 こうした一連の流れを受けて「2030年代半ばにガソリン車販売禁止」という報道につながったようだ。ただし、目標となる年が明確に定められるかどうかなど情報は錯綜している。

 また、マスコミは「ガソリン車」を「ガソリンだけで走る車」としているが、ディーゼルエンジンも含まれる可能性がある。米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、同州の環境車対応政策である「ZEV法」(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)を今後強化して「2035年までにインターナル・コンバッション・エンジン(内燃機関)の販売を禁止する」という方針を述べている。インターナル・コンバッション・エンジン(内燃機関)の車には、ディーゼル車も含まれる。

メーカーにとっての「理想と現実」

 さて、“自動車の電動化シフト”での議論では、「100年に一度の自動車産業変革」「CASE(Connected/Automated/Shared & Services/Electric)」「MaaS(Mobility as a Service)」といった文言が登場する。さらには「2050年カーボンニュートラル」というキーワードも加わった。カーボンニュートラルとは、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量になる状態を指す。

 こうしたさまざまなキーワードが飛び交う議論の中で、自動車メーカー、自動車部品メーカー、交通インフラなどの事業者、中央官庁、都道府県、さらに市町村など、それぞれの立場によって重要視するポイントが違う。

 ポイントの1つは当然、環境対策だ。温室効果ガスや有害排出物の削減を目的とする。

 もう1つのポイントが、産業競争力の強化である。自動車製造業は製品出荷額が62.3兆円と日本の主要製造業の約2割を占める。さらに、設備投資額は1.5兆円、研究開発費は2.9兆円、また関連産業の就業人口は542万人に及ぶ(日本自動車工業会調べ)。自動車製造業は、まさに日本経済の大黒柱なのだ。このような大規模な基幹産業を持続的に成長させるため、社会変化への適合は必然となる。

 だが、環境対策と産業競争力強化は相反する面がある。

 環境対策を徹底するのであれば、製造数と販売台数を抑制することで、市中に出回る自動車の数を減らせば良い。新車数が減っても、消費者や商用目的の事業者に対して通信によるコネクテッド技術やシェアリングなど新しいサービス事業を提供することで、社会需要性は担保される──。これが、CASEの理想像である。

 新型コロナが感染拡大する前、この考え方について自動車メーカーの経営者や幹部らと意見交換をする機会があった。すると、将来事業の大まかなイメージとして理解するも、「しょせんは理想論であり、現業を大幅に変えては事業の継続性が保たれない」という見解を示す人がほとんどだった。日産「リーフ」の技術展示。日産グローバル本社にて © JBpress 提供 日産「リーフ」の技術展示。日産グローバル本社にて

環境対策は二の次?

 その後、コロナ禍に見舞われ、日本では緊急事態宣言、海外では都市のロックダウンなどに伴う生産量・販売量の大幅な落ち込みを受けて、自動車産業従事者はますます「生きていくための方策」を真剣に考えざるを得なくなった。

 現在、中国自動車市場はV字回復を果たし、また、日本市場でも自動車販売台数が2020年秋以降に前年近くまで回復した。だが、自動車メーカーと販売店では、改めて「大量生産大量消費の重要性」を実感している状況だ。

 そのため、今回の「2030年代半ばまでにガソリン車販売禁止」の報道に対しても、自動車業界従事者の本音としては、「高付加価値車・高価格車への買い替え需要」を期待する声が大勢を占める。環境対策は二の次で「結果的に対応できればいいのではないか」という認識に留まっている印象がある。

 自動車メーカーとしては、企業のESG(環境・社会性・ガバナンス)への配慮に対する世間の目が厳しくなる中、やむを得ず電動化シフトを前倒しで行っているという面がある。ただし、製造台数抑制を伴う新しいサービス事業の開発について具体案を公表している日系自動車メーカーは、今のところまだない。

 近いうちに正式発表されるであろう政府の電動化シフト政策。日本の自動車産業を新しい産業形態へと導くきっかけとなることを願いたい。

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