キッチンカー、補償なく苦慮 信濃大町駅前広場、市から出店自粛要請

大町市のJR信濃大町駅前広場で営業していたキッチンカーが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして広場を管理する市から出店自粛を求められ、運営に苦慮している。要請に応じているが、補償や支援はない。「なぜ同じ飲食なのに常設店舗と移動販売で扱いが違うのか」と疑問を投げ掛ける。
 大型連休中の三日、生坂村の道の駅に現れたハンバーガーのキッチンカーから、肉の焼ける香りが漂った。長女(10)と買いに来た女性(38)は「学校が休校で、一日中ご飯を作っている気がする。こういうのがあると助かる」と笑顔を浮かべた。
 キッチンカーは東京から昨年九月に大町市に移住した川上誠二さん(31)の「ファイブスター」。飲食業の経験を基に、和牛を使ったグルメバーガーを手掛ける。昨年末に始め、今年四月から本格的にやっていこうとした矢先、コロナの影響が直撃した。「イベントが全部なくなってしまった」
 頼りだったのは週末に出店していた駅前広場。だが緊急事態宣言が全国に拡大された後の四月下旬、市から大型連休中まで自粛を求められ、従った。さらに五月初め、同月分の使用についても「許可は出すが自粛してほしい」と要請された。
 コロナ対策の一環で、午後八時以降も営業していた飲食店はこの時間帯の営業を自粛すると、県から協力金が出る。営業時間がもともと午後八時以前までだった店は休業要請の対象に入っておらず、営業を続けられる。
 一方、川上さんは駅前広場での営業自粛を求められた上、支援はない。「許可を出すけど自粛して、は矛盾している」。事務所を持たないため、市独自の事業者向け給付金ももらえない見通し。豊かな自然と都市機能のバランスに可能性を感じて移住したが、行政のつれない対応に「移住先を間違えたかな」と漏らす。
 市建設課の担当者は「矛盾がある言い方だった」と認めた上で、「公の施設なので、他の市有施設と同じように対応した」と話す。
 川上さんは四月下旬以降、週末は以前から誘いのあった生坂村の道の駅に場所を移した。大町駅前商店街のリラクセーションサロンにも声を掛けてもらい、平日は店内で弁当などを売っている。手を差し伸べてくれた人たちに感謝し「できる範囲で頑張り、認知度を上げたい」と話した。
◆場所提供の自治体も
 新型コロナによるイベント中止などで出店機会が減っているキッチンカー。出店場所の提供に乗り出した自治体もある。
 三重県鈴鹿市は四月下旬から、市役所本庁舎敷地内の空きスペースを貸し出している。市観光協会からの提案に応じ、平日の午前十一時半〜午後二時の間、販売を認めた。密集を避けるため、出店は一日二台までに限定した。
 市や観光協会によると、カレーや唐揚げ、パンなど市内の五事業者が交代で出店。短時間で出せる料理などメニューを工夫した上で、客にも間隔を空けて並ぶよう呼び掛けている。業者からは「ありがたい」との声が聞かれ、他の自治体から問い合わせもあるという。

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