東北でクマの目撃情報が相次いでいる。6県全体では多発した2012年の同期の7割程度だが、仙台市は過去5年で最も多く、中心部の近くにも姿を見せた。東日本大震災の被災地では、沿岸部から内陸部に移転した住民がクマに驚いて通報が増えたケースもある。各県は被害に遭わないよう注意を呼び掛けている。
東北に生息するクマは6県の推計で計1万頭近くに上る。各県がまとめた目撃通報は表の通り。秋田以外は前年同期より少ないが、平年比では6県とも同水準か、やや多い。
仙台市は31件で前年比14件増となり、2009年以降で最も多い。西部の丘陵地にある住宅地を中心に、JR仙台駅から約2キロの青葉区霊屋下や、住宅街に囲まれた同区の水の森公園でも目撃された。
短期間に通報が頻発した地域もあり、市は「同じクマが何度も目撃され、通報件数を押し上げた可能性がある」(環境都市推進課)とみている。
震災の津波で甚大な被害を受けた岩手県大槌町では、沿岸部から山間地の仮設住宅に移った住民が見慣れないクマに驚き、通報するケースが続く。
町農林水産課の担当者は「地元で『クマの通り道』と呼ばれる場所。昔からいる町民は農作物などに被害がない限り通報する習慣がなく、震災の影響で通報が増えたといえる」と指摘する。
6県ではことし1~5月、クマに襲われ1人が死亡、12人がけがをした。福島県会津美里町では5月28日、山菜採りに出掛けた男性(78)が襲撃を受けたとみられ、遺体で見つかった。男性を捜索中の家族や町職員ら4人も重軽傷を負った。
各県の担当者はクマを寄せ付けない対策として(1)クマの餌になる生ごみを放置しない(2)鈴やラジオなど音の出る物を携帯し自分の存在を知らせる(3)遭遇したら騒がず、そっと後ずさりする-などを挙げる。
◎野生生物の生態に詳しい岩手大教授青井俊樹さんに聞く
クマの目撃が相次ぐ背景や必要な対策について、野生生物の生態に詳しい岩手大農学部の青井俊樹教授(野生動物管理学)に聞いた。(聞き手は報道部・相沢美紀子)
-通報が頻繁に寄せられている。
「クマは山の木の実が不作だった年の夏から秋にかけ、餌を求めて出没するのが一般的だった。この時期に目撃される原因は明確ではない」
「東北は奥羽山系から連なる山林が市街地に接しており、仙台のような大都市でもクマが出て当然の環境だ。緑があればどこにでも現れると思った方がいい」
-市街地に出没するのはなぜか。
「本来は臆病な動物だが、猟の衰退で人間を恐れないクマが増えたことが一因だ。残飯や果樹などの味を覚えて繰り返し来たり、親離れして間もない雄が新たな生息地を求めたりしている」
「生息数が増えた可能性も否めない。クマは肉や毛皮、胆のうなどの利用価値が高く、かつては猟で適度な数が捕獲されていた。行政機関は正しい生息数を調べ、増加分を捕獲し、適正数を維持する必要がある」
-被害を防ぐための有効な対策は。
「即効性のある対策はない。行政による捕獲はアマチュアのハンターに依存しているが、高齢化と銃規制の強化で減少の一途だ。担い手を養成し、野生動物を管理する専門家を市町村に配置する制度を早急に整備しないと、増え続ける野生動物に対処しきれなくなる」
[あおい・としき]北大大学院農学研究科卒。農学博士。北大農学部付属和歌山演習林林長などを経て2000年から現職。62歳。広島県出身。