クーポンサイト黎明期 市場急拡大、参入相次ぎ激戦

飲食店のコース料理やホテル宿泊、物販などの格安クーポン購入希望者をインターネットのサイトで募り、一定数を超えた場合に売買が成立する「クーポン共同購入サイト」が急増している。「史上最速で成長するネット企業」といわれる米グルーポンの日本法人をはじめ、国内で紙のクーポン市場を創り出したリクルートもノウハウを生かして本格参入。富裕層や女性に照準を絞り、独自性を高めたサイトも出てきた。黎明(れいめい)期の市場で、競争が激しさを増している。
 ◆グルーポンが先行
 東京・渋谷のグルーポン・ジャパン本社。金融大手など企業の担当者や就職希望者らが次々と訪れ、活気にあふれる。営業マンなどの社員数は「毎日増えているので正確にはわからない」(渡辺卓也執行役員)。半年前に創業した日本企業を米グルーポンが買収し、現社名で再スタートしてから2カ月余りしかたっておらず、全国の拠点網整備も進めて事業拡大を急ぐ。
 14日にはKDDI(au)との業務提携を発表。KDDIが20日に開設するクーポン専用サイトとグルーポンの携帯電話向けサイトを連携させ、利用者拡大に新たな一手を講じる。
 グルーポンは、現在30歳のアンドリュー・メイソン氏が2年前に起業した。非開示だが2010年の売上高は3億5000万ドル(約292億円)に達すると報じられ、将来性を見込んだ米グーグルによる買収提案を拒否したという話題でも注目を浴びた。
 ビジネスモデルはこうだ。出品者から請け負った有効期限付きのクーポンを50%以上の割引率で制限時間をつけて売り出し、購入希望者が一定数を超えれば上限枚数まで発行する。グルーポンはクーポン売上高の50%を得る一方、店側は特定期間に一定の集客を確実に見込め、宣伝効果とともにリピーターを得るチャンスを手にできる。
 人気を集めるのは、決まったエリアで1日1回だけ購入者を募るネット上のタイムセール。サイト内の同一エリアでは比べる商品がなく、消費者は「迷う必要がない」(渡辺執行役員)。時間と枚数の制限が、利用者の購入意欲をかきたてる。
 仕組みは明確なため、国内の新規参入が引きも切らない。運営するサイト「LUXA」でエステティックのクーポンも手がけるルクサ(東京・渋谷)によると、クーポン共同購入サイトは既に130を超えたとみられ、全体の売上高は11月に前月の2.6倍に当たる14億7000万円に膨らんだようだ。
 ◆“値付け”成否カギ
 グルーポンを追いかけるのが、7月に「ポンパレ」を開設したリクルートだ。宿泊予約サイト「じゃらん」や無料クーポン誌「ホットペッパー」などと兼務する約1500人の営業マンが足で稼ぎ、人気を呼ぶクーポンを請け負う。ポンパレの前沢隆一郎編集長は「多くのお店と10年から20年に及ぶ強固な取引関係がある」と、数多くの媒体を展開する同社の強みを語る。
 当初は利益を度外視し、徹底して認知度を向上させるのがリクルートの戦略だ。11月には高級アイスクリームのギフト券の売買成立条件を50万枚に設定し、関係者を驚かせた。見込み通りにいかず成立枚数を急遽(きゅうきょ)引き下げ、サイトに「おわび」を掲載したことが認知度をかえって高めた。来年には、蓄積したデータを基に詳細な手数料の設定に乗り出す。「3年程度で黒字化する」(前沢氏)には“値付け”の成否が大きな意味を持ちそうだ。
 一方、ルクサは11月、ベンチャーキャピタルから5億円を調達した。南壮一郎会長は「生き残るには体力が必要」と強調する。年収1000万円超の求人に特化した転職サイトを親会社に持つ強みを生かし、富裕層を取り込んで大手に対抗する構えだ。伊藤忠商事傘下のエキサイトも「エキサイトクーポン」を11月に開設し、運営する女性向けサイトとの相乗効果を狙う。
 乱立気味のクーポンサイトを一覧表示する「まとめサイト」も登場する中、今後の優勝劣敗は「感動してもらえるクーポンを提供できるかどうか」(グルーポンの渡辺氏)にかかる。ポンパレの前沢氏は「最終的には5つ程度のサイトに集約されるだろう」と予測する。その成長と同じような速さで淘汰(とうた)が進む可能性は高い。(高橋寛次)

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