グループ補助金、財産処分したら返還迫られ… 戸惑う倒産事業者「寝耳に水」

 東日本大震災のグループ補助金を使った宮城県内の事業者の倒産数が今年3月末時点で85に上り、うち42事業者に計6億4000万円の返還命令が出されたことが分かった。施設や設備など財産を処分した際に生じる返還義務について県は当初から説明済みとするが、事業者には「寝耳に水」と戸惑いも広がる。(報道部・桐生薫子)

 [中小企業グループ補助金] 2事業者以上が集まって建物や設備を復旧させる際の費用を国と県が補助する。1事業者当たり上限は15億円。補助率は中小企業は最大4分の3、中堅企業(資本金か出資金が10億円未満)は最大2分の1。宮城県内では東日本大震災のほか、2019年の台風19号豪雨と21、22年の福島県沖地震でも適用となり、計5010事業者に計3043億円が交付された。

42事業者に計6・4億円返還命令

 県によると、破産や民事再生、事業停止となった事業者が直近5年で増加。2018年度に倒産数は前年度の3倍の12に上り、その後も年間11~15で推移。復興需要の収束や漁獲量の低迷のほか、復旧した施設などの自己負担分が経営を圧迫したとみられる。

 補助金で整備した施設・設備は補助金適正化法に基づき申請時の用途で一定期間(鉄筋コンクリート造り施設の場合24~50年)使う必要がある。解体や廃棄のほか、譲渡や貸し付け、目的外事業へ転用した場合、未償却分に補助率を乗じた額の返還が迫られる(図)。

 返還命令額は多い会社で数千万円規模。命令が出されていない残りの43事業者は破産手続き中や、既に処分期間を過ぎたケースなど。事業承継した場合も返還は求めない。

 財産処分のルールを知らない事業者は一定数おり、数年前から県や商工会議所などへの問い合わせが増加。石巻商工会議所は「当初は再建に精いっぱいで、細かい部分は後から補足されたイメージ。入り口段階で説明が十分だったとは言い難い」と指摘する。

 県は11年度作成の手引きで返還が必要なケースとして「処分に伴い収入を得た場合」と例示。12年度には「目的外の事業への転用」も加えたが、あらゆる返還事例を網羅した「Q&A」を公表したのは18年度になってからだった。

 県企業復興支援室は「補助金の原資は税金である以上、返還してもらうのが原則」と説明。一方、水産加工業では魚種の変化に伴う機械類の入れ替えも「転用」とみなされ返還が必要となることから、制度の改善を国に要望している。

立命館大の桑田但馬教授(地域経済論)は「グループ補助金は高率補助かつ原状復旧を原則としたことから、後継者の有無や財務状況が十分考慮されないまま身の丈以上の施設整備につながった。制度設計の『出口』の詰めが甘かったと言わざるを得ない」と語る。

「引退したくてもやめられない」 返還がネック、廃業できない事業者も

 東日本大震災のグループ補助金の返還を巡っては、返還金がネックとなって廃業に二の足を踏む事業者も増えている。返還を避けるには施設や設備など財産の処分制限期間(最長50年)を満たす必要があるからだ。高齢で引退したくてもやめられない経営者もおり、名義だけを残して事実上は廃業状態の業者さえある。

 「素晴らしい補助制度だと思っていたのだが」。宮城県気仙沼市で工務店を営む男性(74)は財産処分のルールが記された県の資料に目を落とし、唇をかむ。

 返還義務について知ったのは2018年。県が市内で開いた説明会で担当者に「皆さんがルールを見逃していただけ」と言われ、納得がいかなかった。

 震災当時は61歳。自宅も作業場も津波で流され、再建に必死だった。補助金で復旧した鉄骨の作業場と木造事務所は処分制限期間がそれぞれ10年残っている。息子2人は別の仕事に就き、事業承継は難しい。「ほそぼそと会社を続けていく」と老体にむちを打つ。

 「返還する余力がある状態で倒産する事業者はいない。復興事業が終わり、土木関係は厳しい」と業界の現状を嘆くのは、同じく市内で工務店を営む中舘忠一さん(73)。

 返還ルールで最も酷なのは、経営者が急死した場合だという。「名義を身内に変更し、経営実態のない『幽霊会社』になっている事例もある」と明かす。

 こうした混乱は各地で起きている。地域でグループ補助金の取りまとめ役を担った宮城県亘理町の飲食店経営菊地一男さん(76)は「財産処分について説明を聞いた記憶がない」とポツリ。仲間から多くの相談が寄せられており、近く地元商工会の担当者を招いて説明会を開く。

 使わなくなった建物・設備の貸し出しや譲渡を望む経営者は多いが、全て返還の対象となる。「補助金でせっかく復旧した施設や設備をもっと有効活用できないものか」。地域経済の新陳代謝を妨げている現行制度を憂う。
(報道部・桐生薫子、安達孝太郎)

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