ラブホテルを取材した都築響一の労作『Satellite of LOVE―ラブホテル・消えゆく愛の空間学』(アスペクト)が出版されたのは2001年。それから12年の時を経て、同じくアスペクトから、映画監督・村上賢司による『ラブホテル・コレクション』が刊行された。
都築をはじめとする先人たちの活動で、すでに昭和時代の香りを残すラブホテルのバカバカしいまでのセンスは広く認知されるようになった。正直なところ、「またこの手の本か……」という気持ちは拭えない。しかし、5年の歳月を費やして取材された本書が掲載する、東北から九州まで全国33のホテルを眺めていると、紙面からあふれ出さんばかりのラブホへの偏愛に、ページをめくる手は思わず止まる。
まえがきにおいて、『11PM』や『土曜ワイド劇場』『ウィークエンダー』などのテレビ番組でラブホと出会った過去を振り返る村上。85年の新風営法が施行される以前に建築されたラブホテルは、シティホテルと大差のない平成のそれではなく、「遊園地のような、バカバカしくも面白い」逸品ばかり。経済成長の波に乗って金は余り、精力もビンビンだった昭和の遺構であり、平成の男女にとってはまさかそこで睦言を交わすなど、夢にも思えない場所だ。
「ベッドが回転して、いったい何が楽しいんだろう」という程度の、セックス偏差値最底辺の不肖からすれば、銀河鉄道(可動式SLベッド)の上でコトを致すホテル亜想呼(「アソコ」と読みます)など、絶対に敷居をまたぎたくない。さらに、小人になった気分の味わえるホテルGAIAの「ガリバールーム」(オジサマたちはきっと「オレのアソコが大きくなっちゃったぜ!」と言うはずだ)があり、部屋の隅になぜかゴリラの置物があるホテルCOCO……すいません、意味不明も甚だしいです!
ラブホ内部の様子と共に、本書巻末に掲載されたオーナーたちのインタビューも興味深い。大阪・京橋にあるラブホテル「富貴」と「千扇」は、「ローマ」「江戸」といったコテコテのコンセプトルームが特徴のホテル。97年に先代オーナーが亡くなり、その経営は娘(氏名非公開)に引き継がれた。この際、彼女は物件を手放すことも考えたが……「『おねえちゃん、私、ここで働きたいねん』と昔からの従業員さんに言われまして……。で、よく見ると玄関や廊下のデザインがほんとうに可愛いんです」と、その魅力に目覚めたそうだ。「富貴の客層は60代から70代くらいが一番多いですね(中略)出るときは、昔の人なんで、ゴミを綺麗にまとめて帰る。おはぎとかを受付に差し入れしてくれたりとか、そういうお客さんが多いです」。人々に愛され続けてきたホテルだからこそ、男女の身体の交流だけではない、人々の心温まる交流が生まれるのだ。
日本には、現在3万軒以上のラブホテルがあるといわれている。しかし、新風営法によって、回転ベッドや鏡張りなどは設置不可能になり、時代の流れから、“性愛のワンダーランド”としてのラブホは姿を消しつつある。平成の人々が求めるのは、スッキリとして無機質な部屋で行われるフツーのセックス。もしかしたら、僕たちはとても寂しい時代を生きているのかもしれない。
特にゆとり世代の草食男子は、本書を読み、そのあり余るカネと性欲に打ちひしがれるべきではないだろうか。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])