郊外型の喫茶店チェーンといえば、国内700店舗を超え、昨年6月には東証1部への上場も果たした「コメダ珈琲店」(運営:コメダホールディングス)の勢いが止まらないが、その間隙を縫うように、他チェーンも差別化を図りながら出店を加速させている。
コメダ最大のライバルは「ドトールコーヒー」を展開するドトール・日レスホールデイングスが2011年から始めた「星乃珈琲店」だ。店舗数は約180店と急速に拡大し、近年はロードサイド型だけでなく駅前にも進出している。
星乃珈琲の魅力は、本来の喫茶需要だけでなく、特徴的なフードメニューを充実させてリピーターを掴んでいることだ。
「テレビでも度々紹介されるフワフワの『スフレドリア』や『ラザニア』、グループ企業『洋麺屋五右衛門』の人気パスタ、ハンバーグプレートなどをメニューに加えることで、食事もおいしい喫茶店として認知されている」(フードコンサルタント)
次に着実に店舗網を伸ばしているのが、東海エリアや関西エリアを中心に70店以上あり根強い人気を誇る「珈琲屋らんぷ」(運営:らんぷ)だ。
こちらの売りは、高品質な豆を自社工場で毎週焙煎するというコーヒーそのもの。「らんぷレギュラー」は380円、「スペヂャルブレンド」を注文しても430円と手頃な価格で本格的なコーヒーが味わえる。
日本のコーヒー文化発祥の地「港・元町」をイメージした店づくりで異彩を放つのは、「元町珈琲」(運営:スイートスタイル)。“離れ”と称する店は全国に41店舗ある。
元町珈琲の最大の特徴は、旬の素材を使ったイレギュラーな季節メニューを豊富に用意していること。ちなみに、現在は〈春フェスタ〉キャンペーンとして、「駿河湾産生桜えびと静岡県産釜揚げしらすを使ったあさりと春キャベツのペペロンチーノ」(990円)など、洋食専門店も顔負けのこだわりメニューが並ぶ。
そして、ここ最近、急激に出店攻勢をかけているのが、「サンマルクカフェ」を展開するサンマルクホールディングスが2015年につくった新業態「倉式珈琲店」である。
出店数は31店とまだ少ないが、ベーカリーで定評のある企業が手掛ける喫茶店ということもあり、今後のブランド戦略いかんによっては、上位チェーンを脅かす存在になる可能性も秘める。
実際にオープンしたばかりの関東近郊の店舗を訪れてみると、モダンで落ち着いた雰囲気の店内には、平日の午前中にもかかわらず、シニア層の夫婦や若い主婦グループ、スーツ姿のサラリーマンなどで混み合っていた。
メニューは定番のサンドイッチのほか、カンパーニュサンドやバケットサンドなど、やはり豊富なパンメニューが揃っている。また、肝心のコーヒーは、ブラジル、コロンビア、エチオピアほか世界中から厳選したコーヒー豆を産地から選ぶことができる。
まさに豆の種類や焙煎方法にこだわった“サードウェーブ流”の喫茶店といえるが、オーダーすると1杯ずつサイフォン抽出し、そのまま運ばれてくる提供スタイルも本格的。これで「倉式ブレンド」315円(税抜き)、産地別コーヒー各370円(同)の価格設定は、コーヒー通にとっても満足のレベルだろう。
こうして個性的なメニューやサービスで、独走するコメダとの差別化を図る喫茶店チェーンの数々。外食ジャーナリストの中村芳平氏は、「まだ郊外には小規模チェーンの喫茶店でも繁盛させられる余地はたくさんある」と話す。
「団塊世代などシニアの大量退職によって、郊外にはファミリーや地域住民との“溜まり場”に使える場所が求められています。喫茶店であればコーヒーと軽食で長居しても気まずくありませんし、一人で行っても新聞や雑誌がたくさん置いてあるので、ファミレスよりもくつろぎの時間を過ごすことができます。
そうしたニーズは、必ずしもコメダにばかり集中しているわけではありません。モーニングでコーヒーを注文すれば、トーストやゆで卵がついてくる名古屋式のサービスは、すでにコメダ以外のチェーンもやっていて珍しくなくなりましたしね。
それよりも、今後は倉式珈琲のようにコーヒーの種類を増やしたり、元町珈琲のように本格料理を数多く考案したりするなど、消費者の多様なニーズに応える特徴的な店づくりをしていけば、コメダに負けないぐらいの固定ファンを獲得することはできるでしょう」
市場調査会社・富士経済の調べによれば、2015年に1163億円だった「ロードサイド型喫茶店・コーヒー専門店」の市場は、今年は1328億円まで伸びると予測されている。セルフサービスの低価格コーヒーショップや、スタバやタリーズなどのシアトル系カフェの人気も一巡したいま、フルサービス型の喫茶店ブームがどこまで続くのか注目したい。