年の瀬を迎える前に、どうもフトコロ事情が寂しい――それもそのはず、電気・ガスなどのインフラから保険料・食パンまで、あらゆるものが知らないうちに値上がりしているのだ。
庶民の生活に直結するインフラ系の値上げが止まらない。電力大手10社が発表した12月の家庭向けの電気基本料金は4か月連続の値上げで、今年1月時点と比較すると、18%以上も上がっている。
ガス代も同様で、都市ガス大手4社は電力と足並みをそろえ、12月の料金は4か月連続の値上げとなった。経済評論家の平野和之氏が語る。
「コロナ後の景気回復期待と東南アジアやアフリカなどの新興国の経済成長で、世界規模でエネルギー需要が急増した。天然ガスなど原料価格の高騰が、電気・ガス料金の値上げに直結しました」
最も大きな影響を受けているのは原油価格である。
「燃料需要が高まっている一方で、世界的に“脱炭素”の流れが始まっているため、将来的な需要の低下を見越して産油国が増産を渋るようになっている。それに伴い、ガソリンも値上がりしています」(平野氏)
燃料費の価格高騰をもろに受けるのは交通機関だ。経済評論家の加谷珪一氏が語る。
「まだ表向きになっている企業は少ないですが、バスやタクシーなどの交通料金の値上げも、今後避けられないでしょう」
生活における「固定費用」の値上げはこれだけではなく、介護保険料も上昇しているが、「気づきにくい」点がやっかいだ。社会保険労務士の蒲島竜也氏が語る。
「税率の変更などで直接的な値上げを宣言するのではなく、“控除額の引き下げ”や“対象者の変更”といった名目で、実質的な値上げを図る。隠しておきたいという政府の思惑が透けて見えます」
各保険料の値上げも消費者に重くのしかかる。3年に1度見直される介護保険料は、高齢化が進んでいるため今年4月に値上げ。145円増の月額6014円と、初めて6000円台に乗った。蒲島氏が語る。
「保険料増加の流れは今後も続くと予想されます。コロナ対策で雇用調整助成金などを出して雇用保険の備蓄が空になったので、これから雇用保険料も上がっていく。働いている人への影響は大きいです。
高齢者の場合は、来年10月から75歳以上の医療費の窓口負担は1割から2割になり、現役並みの収入がある人は3割負担になる。社会全体の高齢化に伴い高齢者の負担が増しています」
船賃が10倍に
食品業界でも製品の値上げが相次いでいる。パンや乾めんなど小麦製品は前年比で約8%、外国産牛肉の平均輸入価格は約3割値上げされた。コーヒーは最大で20%、食用油はキロあたり30円以上値上げされている。
11月12日にキッコーマンは来年2月16日納品分から、醤油製品164品と豆乳製品52品目を値上げすると発表。だし醤油やポン酢など醤油製品の値上げ幅は約4~10%となる見込みだ。製品の値上げは2008年以来の14年ぶりだという。加谷氏が語る。
「かつては、価格を据え置いて、内容量を減らしたり、原料のグレードを下げたりする“ステルス値上げ”が話題になりましたが、近年は堂々と価格改定を宣言する“名目値上げ”に踏み切っている。他社が始めると、次々に追随するという流れになっています」
なぜこれほど食品価格が上昇しているのか。
「小麦や大豆などはほぼ輸入に頼っていて、たとえば大豆をアメリカから日本に運ぶ船賃は、ここ1~2年で10倍くらいに高騰しています。魚介類の価格が高騰しているのも、漁船の燃料代の高騰が影響しています。
また食べ物のパッケージや包装も、石油製品が多い。冷凍食品の値上げをはじめ、今後はカップ麺や菓子類も値上げされるでしょう。
コーヒーは輸送費の高騰や原産国での不作に加え、新興国が豊かになって需要が急増している。国内での生産がほとんどないこともあり、価格上昇率は他品目と比べても顕著な数字になっています」(加谷氏)
値上がりしたもの、据え置きのものを正しく把握することが、厳冬を乗り越えるカギとなる。
※週刊ポスト2021年12月10日号