コロナで「バイト代が激減」大学生の静かな悲鳴

「2月からお客さんが減っているのは感じていた。3月にはパタッと客足が途絶えた感じで、週1回くらいしかシフトに入れなくなった」

【データビジュアル】新型コロナウイルス 国内の感染状況

大学2年生の佐藤文香さん(仮名、20歳)は、都内のホテルのレストランでアルバイトをしている。教職課程を履修しているため、学期中は時間の余裕がない。そのため長期休暇が稼ぎ時だ。昨年の2月、3月は週に4日シフトに入った。

 ホテルの周囲には大型商業施設などが建ち並ぶ。だが新型コロナウイルスの影響で、ホテル一帯は閑散としている。「実家暮らしなので生活に困窮するというわけではない。ただ通学定期代やスマホ料金、部活の活動費はアルバイト代から出しているので、今後が心配だ」と佐藤さんは不安を口にする。

■2つの飲食バイト掛け持ちだが収入激減

 居酒屋と中華料理店でアルバイトを掛け持ちしている、都内女子大2年生の福吉リサさん(仮名、21歳)の状況はさらに厳しい。福吉さんは鹿児島の親元を離れて都内で一人暮らし。家賃は親に出してもらっているが、光熱費や食費などの生活費は奨学金とアルバイトで賄っている。

 授業がある時期は月に7万円程度、長期休みは10万円を稼ぐ。ところが、2月下旬の政府による「不要不急な外出の自粛」呼びかけと、一斉休校のタイミングで居酒屋の客足が激減。2月後半の給料は3万円ほどだった。

 3月上旬に鹿児島に帰省した福吉さんは当初、半月から3週間の帰省を予定していたが、大学の講義再開も4月下旬に延期されたため、ぎりぎりまで実家にとどまることにした。

 「東京に戻ってもアルバイトのシフトに入れなければお金がかかるばかり。鹿児島は3月16日時点で新型コロナウイルスの感染者が出ておらず、家族にも『こっちにいたほうがいい』と言われている」(福吉さん)

 ただ、新学期が始まるころに、状況がどうなっているかはまったく見えない。夏に短期留学を控えている福吉さんは「留学資金をアルバイトで貯めてきたので、最悪、それを取り崩すことも覚悟している」とも続ける。

 新型コロナウイルスの経済への影響は、まずインバウンドが関連する業界で出てきた。中国での感染拡大で日本に来る中国人観光客が激減し、旅館の倒産や廃業が相次いでいる。

 次に直撃を受けたのが、イベントや飲食業界だ。2月下旬の外出自粛と3月からの一斉休校の要請などもあり、冒頭の佐藤さんが働くホテルは「インバウンド崩壊」「イベント中止」「会食自粛」の三重苦の最中にある。

 首都圏で飲食店7店舗を展開する渡邊正都さんは、「歓送迎会の予約がほとんどキャンセルになった。普段はアルバイト70人体制だが、今はゼロとは言わないまでも、仕事をお願いできない状況だ」と話す。

 さらに人材紹介会社の担当者は、「買いだめ需要や休校の影響か、スーパーやコンビニはむしろ求人が増えているが、飲食は求人のキャンセルが発生している」と明かした。

 これまで人手不足に悩む業界の救世主として引っ張りだこだった学生だが、客が減れば人手不足は解消する。事業と正社員を守ることに必死な企業は、アルバイトを減らすしかない。

■バイトの時給6割補償でも「焼け石に水」

 飲食以外のアルバイトも安泰ではない。都内の大学3年生の後藤優花さん(仮名、20歳)は大学受験に特化した塾でアルバイトしているが、小中高校が一斉休校に入った3月2日に塾も授業を停止し、自習室を閉じた。私立大学入試が軒並み終了し、国公立大学の前期入試も終わったタイミングのため、塾側としても判断しやすかったのかもしれない。

 塾では半月前に学生バイトのシフトを作成する。3月上旬のシフトはすでに出ていたが、働けなくなった分は、時給の6割が補償されることになったという。それでも後藤さんに安堵の色はない。

 「実はうちの塾は前もってシフトに入れることは少なく、実際は数日前とか前日に仕事が入ることがほとんど。だから私も3月上旬は2日しか入れてなく、補償されるのも微々たるものだ」(後藤さん)

 大学は新年度の講義開始をゴールデンウィーク前まで延期すると決めた。後藤さんは「すごく暇で、短期バイトを探しているけれど、求人自体が少ない。アルバイト先の塾では春期講習は実施すると言っているので、それを待つ」と話した。

 外出自粛、テレワーク拡大で追い風が吹いていそうな業界でも、大学生は余剰人材になりつつある。中部地方の国立大学大学院に留学する中国人の林さん(仮名、26歳)は「この1カ月、仕事の募集がまったく来ない」と嘆いた。

 林さんの所属する研究室はアルバイトを禁止している。だが仕送りが少なく、働かざるをえない林さんは、弁当工場でアルバイトをしている。人が足りないときに募集のメッセージがLINEで送られてきて柔軟に働くことができ、かつ大学の知り合いに見つかるリスクも低いからだ。

 2月から仕事の依頼がない理由を、林さんは「工場にはパートの人がいて、それでも足りないときに派遣に声がかかるようだ。パートの時給は980円で、僕たち派遣は1280円。はっきりしたことはわからないけど、パートで足りているから募集がないのだと思う」と推測する。

■学生の雇用喪失が消費縮小につながる

 林さんは2月には中国に帰省するつもりだったが、新型コロナウイルスの影響で取りやめた。ただ中国の政策で航空券に支払ったお金は全額戻ってきている。当面はそのお金を生活費にあてて学内で実験の助手をし、細々と収入を得ている。

 母国の中国と比べ、日本の新型コロナ対策は生活への制限が緩い代わりに、先が見通しにくい。林さんは「4月になっても工場の募集が来なければ、ラーメン屋でもコンビニでも仕事を探すつもりだ」と語った。

 アルバイトは消えたのに、新年度の講義開始が延期され、学生たちはいつもより長い春休みを持て余している。取材した学生たちはいずれも短期バイトを探したが、なかなか見つからないため、自宅で勉強したり、本を読んで過ごしている。

 ホテルのレストランで働く佐藤さんは、「今の状況が続くなら、極力お金を使わずにじっとしてしのぐしかない」と話した。若者たちが直面している、こうした雇用の喪失は、消費の縮小を生むという悪循環にもつながることが懸念される。

タイトルとURLをコピーしました