コロナで「低欲望社会」加速懸念、脱却する鍵はどこにある

 非常事態宣言が全国を対象に広げられ、新型コロナウイルスが社会に与える影響はまだ終わりそうにない。やってくるコロナ不況に対し、日本社会はどのように迎え撃つべきなのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、考察する。

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 新型コロナウイルス禍は、いまだ終息の兆しが見えない。日本経済も世界経済も甚大なダメージを受け、新社会人や新入生は出鼻をくじかれて不安だらけの船出となった。このままでは、かねて私が指摘している、世界に類のない日本の「低欲望社会」が、さらに加速する事態も懸念される。

 低欲望社会とは、日本人の多くが将来に対する不安から消費を控え、とくに若者たちの大半はいくら低金利になっても借金をして住宅や車などを「所有」しようとは思わなくなっている、という現象だ。この現象は、世代によって“染色体”が違うのではないかと思うほど、大きな差がある。

 ただし、若者の低欲望化は仕方がない面もある。

 彼らの親の世代が「内向き・下向き・後ろ向き」で、子供には大手企業や役所などに入って安定した生活を送ることを期待した。経済がシュリンクする中で、「ナンバーワンよりオンリーワン」という風潮が広まり、“坂の上の雲”や世界を見ずに育っている。

 しかも、社会人になってみたら昇進・昇給が望めず、年金も期待できないため、将来不安が募るばかりなのだ。このままいけば、未来の日本人は“1億総ミニマリスト”になってしまうかもしれない。

 この状況を反転するためには、発想の転換が必要である。つまり、将来が不安だからこそ、諦観するのではなく「稼ぐ力」を身につけるべきなのだ。昇進・昇給が望めないなら、高収入を得るためにスキルを磨いたり、AI(人工知能)やロボットに代替されない能力を身につけたりして、ステップアップを目指す―そうすることで、自分の未来を明るく変えていくべきだと思うのだ。

 実際、私が学長を務めている「ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学・大学院」の学生は、新たに身につけたスキルやブラッシュアップした能力で、在学中に3分の2が、より高い収入が得られる企業に転職している。そういう努力をしないと、人生は改善しないし、豊かな生活も手に入らないのである。

 新型コロナウイルス問題で、フリーランスや自営業者は一挙に窮地に立たされているが、多くの企業や組織もピンチに直面している。その中で自分が生き残っていくためにどうすべきか、自分なりに考えて行動に移さなければならない。

 そこでヒントになるのは、日本人は「見える化」された世界では強いということだ。これまでたびたび述べてきたように、スポーツ選手や芸術家など、文部科学省の学習指導要領に基づいた教育の埒外では、多くの日本人が世界で大々的に活躍している。

 料理人もそうだ。ミシュランガイドの星付きレストランは、国では日本、都市では東京が世界で最も多い。彼らは常に研鑽・努力を怠らず、その日仕入れた食材に応じて最大限の創意工夫を凝らし、世界トップレベルの料理に仕上げている。これはAIには絶対にできない高度な技である。

 今はミシュランの星付きも含めて飲食店は軒並み危機的な状況に直面しているが、日本の料理人のイマジネーションや構想力とスキルがあれば、必ず生き残っていけるはずである。それは他の業種・業界にも共通するアナロジーなのだ。

 私たちの世代がアメリカに「追いつき追い越せ」と努力したのも、前述したTVドラマで人生の目標=強く憧れる具体像が「見える化」されていたからだ。言い換えれば、若者たちがそういう目標を持ってアンビションを抱けるようになるかどうかが「低欲望社会」から脱するカギとなる。

 したがって、私も含めた上の世代がやるべきことは、若者たちに「憧れ」を持たせる教育への転換にほかならない。新型コロナ禍で世の中が暗澹たる状況になり、いっそう若者たちがアンビションを持てなくなっている今こそ、それが極めて重要になっているのだ。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

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