コロナでエンタメ業界に「残酷なまでの格差」が生まれていた ギャンブル業界は絶好調、一方で…

苦境のエンタメ業界は1年でどう変わったのか

筆者は20年11月30日、「コロナで『エンタメ業界が崩壊寸前である』ことを示す、これだけの根拠」で、新型コロナウイルス感染拡大が、映画や舞台、芸能やスポーツ、遊園地などのエンターテインメントや娯楽に与えている影響をいち早く取り上げた。

あれから約1年が経過した。その後の状況について、改めて検証してみたい。

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検証には前回と同じく、経済産業省の「第3次産業活動指数」を参考にする。同指数には「娯楽業」という調査項目があり、映画館、劇場・興行(音楽・芸術などの興行、プロスポーツ興行)、競輪・競馬など、スポーツ施設、遊園地・テーマパーク、パチンコホールが網羅されている。

2015年を100とした同指数の娯楽業の推移をみると、コロナ感染拡大前の20年2月に96.9だった娯楽業の指数は、政府の緊急事態宣言が発出された20年5月に37.7まで低下した。これは、娯楽業に関連した仕事が、2月と比較して約6割減ったことを表わす。

その後、徐々に回復し、20年11月は81.3にまで活動は戻った。だが、21年に入ると再び、指数は80を割り込み、その後、21年10月まで1度も80を上回ってはいない。(表1、以下、表2、表3、表4とも第3次産業指数をもとに筆者作成)

表1

前述したように、娯楽業の中には様々な業種が含まれており、活動状況には大きな濃淡がある。

仕事は3分の1に

まず、映画館、劇場・興行団、音楽・芸術等興行のエンターテインメントの指数の動きをみると、映画館は20年5月に1.3まで落ち込んだ後、20年10月に100まで回復した。これは、社会現象にまでなったアニメ「鬼滅の刃」の映画版が10月に公開された影響が大きい。(表2)

表2

しかし、その後は再び活動は低下し、20年3月から21年10月までの指数の平均は49.1にとどまっている。映画館に関係した仕事は半減したということだ。

劇場・興行団と音楽・芸術等興行への影響はより大きい。映画館ほど大きな指数の落ち込みはないものの、20年8月に劇場・興行団は17.0、音楽・芸術等興行は13.8まで落ち込んだ。

その後の回復もままならず、20年3月から21年10月までの指数の平均は劇場・興行団が33.3、音楽・芸術等興行が35.9となっている。

これらの職業に携わる仕事は、1年半以上の期間にわたり3分の1に減少したことになる。21年10月には政府の緊急事態宣言が解除され、映画館や劇場など施設への入場規制も緩和されたが、まだその効果は現れてはおらず、厳しい状況が続いている。

冒頭の20年11月30日の拙稿にも登場したが、筆者には雑誌の編集者から落語家に転身した後輩がいる。その彼に再び話を聞いてみると、「20年は19年に比べて、収入が3分の1、21年は半分に減少している」という。

プロスポーツ興行、スポーツ施設、遊園地・テーマパークといったアクティブ系では、プロスポーツは20年3月から6月まで無観客興行が行われた後、徐々に回復した。だが、観客数制限が長く続いたことで、20年3月から21年10月までの指数の平均は36.5にとどまっている。

21年に入っても、平均は40.6にとどまったが、10月に観客制限が大幅に緩和されたことで91.6にまで急速に回復した。

ゴルフは堅調、競艇は絶好調

新型コロナ禍にあっても、堅調に推移したのがスポーツ施設だ。20年3月から21年10月までの指数の平均84.0となっている。

ボーリング場は50程度、フィットネスクラブは80程度の活動だったが、ゴルフ場は100程度を維持し、特にゴルフ練習場は110を上回って推移した。

半面、遊園地・テーマパークは入場制限の影響が大きく、20年3月から21年10月までの指数の平均は33.1にとどまっている。緊急事態宣言が解除された21年10月の指数も48.0と立ち直りの兆しが見えない状況だ。(表3)

表3

エンターテインメント系、アクティブ系の娯楽が新型コロナの影響を大きく受ける中で、“絶好調”だったのがギャンブル系だ。

21年3月7日の「『公営ギャンブル』がコロナ禍でも大盛況…だが、手放しに喜んではいられないワケ」でも指摘したが、競輪、競馬、オートレース、競艇のすべてが100を大きく上回る活況となった。(表4)

表4

これらの20年3月から21年10月までの指数の平均は138.8となった。特に、競艇は20年7月から21年10月まで指数が200を上回る状況が続いている。

明暗が分かれたのが、パチンコホールで20年3月から21年10月までの指数の平均は57.1となっている。

ただ、パチンコは確かに一時期(20年4、5月)に新型コロナの影響を受けたものの、競技人口の減少やホールの減少により、新型コロナ以前から恒常的に減少傾向が続いている。

携わる人達の懐事情

前述のように、落語家の後輩は「20年の収入が19年の3分の1、21年は半分」と言っていたが、芸能人、芸術家、音楽分野の人たちは、収入にどの程度の影響が出ているのだろうか。

国税庁統計年報の申告所得税の項目を参考に20年度の所得を見てみた。

申告所得税は、いわゆる確定申告ベースで、統計情報の分類は、1.文筆、作曲、美術家、2.芸能関係者、3.職業選手、競技関係者、職業棋士となっている。

あくまでも確定申告を行った人の統計であり、給与制で確定申告を行っていない人は含まれない。それでも、ある程度の実態は把握できるだろう。

20年度の「文筆、作曲、美術家」の申告者数は13万3716人で前年度比1万7984人増加している。平均所得は231万円で前年度比9万円の増加だ。

「職業選手、競技関係者、職業棋士」も申告者数は2万434人と同1449人増加しており、平均所得は667万円と同5万円増加している。

これに対して「芸能関係者」は、申告者数は7万2819人で同1万1283人増加しているが、平均所得は203万円と同26万円(11.4%)も減少している。(表5)

表5
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所得金額階層別に見ると、「職業選手、競技関係者、職業棋士」では所得70万円以下の申告者数が前年度比で減少しているのに対して、「文筆、作曲、美術家」では前年度比292人(0.7%)、「芸能関係者」で同前年度比2045人(8.1%)増加している。

70万円超250万円以下でも、職業選手などが10.8%の増加に対して、文筆家などは22.0%、芸能関係者は33.6%と大幅に増加している。

250万円超500万円以下でも同様の傾向が見られ、特に芸能関係者の90.8%が500万円以下となっている。ちなみに500万円以下は、文筆家等では88.4%、職業選手などでは63.3%だ。

華やかで煌びやかに見えるエンターテインメント、芸能の世界にも確実に新型コロナの影響は現れており、特に芸能関係者の所得を直撃している様子が浮き彫りになっている。

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