新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化の影響で、一定の勤務経験のある企業の従業員らが路上生活に陥り、困窮する層が仙台市で広がりつつある。市内の支援団体が手掛ける無料低額宿泊所(無低)は慢性的に満床に近い状態で、関係者は危機感を募らせている。
「社会がこんな状況になるなんて。いつでも再就職できると思っていた」。昨年末まで東北の建設会社に正社員として勤めていた男性(51)は4月下旬、10日間の路上生活を余儀なくされた。
激務に疲弊し、退職と同時に社宅を退去。貯金を使い仙台市などのビジネスホテルやネットカフェを転々とし、転職活動に本腰を入れようとした矢先、コロナ禍に見舞われた。職に就かない期間が想像以上に長引き、所持金が底を突いた。
路上生活に陥っても、助けを求めるすべを知らなかった。男性は「支援団体の炊き出しには並ばなかった。自分がホームレスだと認めたくなかった」と言う。
5月上旬、衰弱した様子の男性を見かね、宮城県石巻市などを拠点とする任意団体「こども防災協会」の鹿島美織代表が声を掛けた。男性のように行き場を失った路上生活者らの一時的な居所を確保するため、仙台市内の宿泊施設を自費や寄付で借り上げた。
男性らの支援の在り方を模索し、他の支援団体の置かれた状況を知り「支援する側が手いっぱいになっている」と鹿島代表は感じたという。
◎「支援する側も疲弊」
2000年から路上生活者の支援を続けるNPO法人仙台夜まわりグループ(仙台市)の青木康弘事務局長は「受け皿は飽和状態。支援する側も疲弊してきている」と指摘する。
同グループが運営する無低約50床は5月中旬ごろから、ほぼ満床の状態が続く。3月下旬以降、十数人を新規で受け入れた。新たに路上生活に陥った人に一時的に生活の場を提供するため、長期入所者に早期の自立を促し、退所後は訪問支援で対応している。
「3密」の回避など感染防止のため、ボランティアスタッフを減らし、数人で業務を担う。緊急事態宣言中は、活動場所となる公共施設などの利用も制限された。
コロナ禍で企業の倒産が相次ぎ、路上生活に陥る人が増えている現状を踏まえ、青木事務局長は「さらに困窮者が増える恐れがある。支援が必要になる人を新たにつくらない仕組みが求められている」と訴える。
[無料低額宿泊所]生活困窮者に対し無料、低額で簡易住宅を貸し付けたり、宿泊所などの施設を利用させたりする民間事業。社会福祉法に定める第2種福祉福祉事業の一つ。厚生労働省の調査では2018年7月末現在、全国に570の施設があり、入居者は約1万7000人だった。